必死に営業先を回り、社員のマインドを変える。「社長」として経営改革を担うバイアウト投資担当者のリアル
2021/04/01
#投資ファンド業界事情

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ジャフコのバイアウト投資部門に所属する宇納陽一郎氏は、「弊社」という表現をジャフコではなく、別の「ある会社」に対して使う。2020年に投資を実行したその消費財メーカーの代表取締役でもあるからだ。

ニッチ分野の製品でトップの支持率を誇る同メーカー。その現場で宇納氏は従業員を鼓舞し、ともに汗を流し、次の飛躍へ向けた青写真を描く。

大手証券会社や日本を代表する食品メーカーでの勤務経験がある彼に「ここまで濃密な経験をしたことはなかった」と言わしめる、バイアウト投資部門の強烈な日常を聞いた。

〈Profile〉
宇納 陽一郎(うのう・よういちろう)
ジャフコ グループ株式会社 事業投資部 プリンシパル
早稲田大学卒業後、野村證券株式会社にて営業および投資銀行業務に従事。その後、日清食品ホールディングス株式会社にてグローバル戦略企画およびM&Aに携わる。2018年にジャフコのバイアウトチームに参画し、4件の投資実行に関わる。

アドバイザリーと経営は別物。口先だけで戦略を語っても人と組織は動かない

――現在、代表取締役を務めている企業の概要を教えてください。

宇納:30年超の業歴がある消費財メーカーです。もともとはデパートなどで取り扱う商品のOEM(相手先ブランドによる生産)を請け負っていましたが、2000年代以降は蓄積したノウハウを生かし、自ら高品質な商品開発と販売を開始しました。高品質な商品を、手に取っていただきやすい価格で提供する。今なお受け継がれる企業理念ですが、それによって一躍「時の会社」として名を上げたのです。

商品自体は現在でも市場でトップの支持率を誇っていますが、消費者のニーズは常に変化します。この変化への対応は、実は市場におけるトップポジションという立場がジレンマになることもあります。持続的な成長に向けては、消費者視点を核にしながらも、企業のライフサイクルに応じて目指すべき方向と必要能力を進化させていく必要がありますが、そのポテンシャルを十分に持った会社だと私は考えました。

そのためには社内の体制を見直し、製販のスムーズな連携や、商品開発とプロモーションの有機的なつながりといったお客様とのタッチポイントの見直しに加え、物流費を含むコスト管理も見直していく必要があります。こうした面で、ジャフコが貢献できるはずだと。

――宇納さんは投資実行初日に代表取締役に就任したと聞きました。なぜ自身で経営トップを担うことにしたのですか。

宇納:外部からの招聘(しょうへい)も検討はしましたが、当然のことながら経営者のポジションは誰にでも任せられるわけではありません。経営者候補をじっくり吟味しなければならない一方で、投資先企業の現状を見ればスピード感のある対応が必要でした。そこで、まずは私自身が深く入り込んで、状況を理解しつつ、成長を主導すべき局面と考えたのです。

社長のポジション以外でも、このように一旦ジャフコの社員が務めることは多々あります。投資実行初日に外部からいきなりCFO(最高財務責任者)を連れてくることは、実はあまりありません。

まずは投資を行った私たち自身が投資先企業の事業を理解し、カルチャーを体感します。重要ポジションにアサインする際には、スキルの適性だけでなく、カルチャーフィットの度合いを見極める必要もありますから。

――とはいえ、外部から代表として入っていくのは、簡単なことではないですよね。かつては創業社長が腕利きだったという経緯を考えても、社員の方々が新社長をすぐに受け入れてくれるとは思えません。

宇納:おっしゃる通りです。アドバイザーの立場なら机上の戦略では何とでもいえますが、現場へトップとして入っていくのはまったくの別物です。

戦略そのものは筋が良かったとしても、組織の戦略執行能力とのバランスを見誤ると、状況がかえって悪化することもあります。きれいな戦略ばかり語っていても人は動きませんし、仮に、表面上は賛同されても、“腹落ち”していなければ持続性がないものとなります。企業の歴史や社風、社員がどんな思いで働いてきたかを熟知し、その上で熱い思いとやるべきことを共感してもらうために、伝えていかなればならないし、フォローも必要です。会社が進んでいくためには、情熱だけでも、合理性だけでも足りないということを私自身も体感しています。 description

いざとなれば、経営者である自分がすべてを引き受ける

――社長として、難しい場面にも数多く遭遇されたのでは。

宇納:変革に向けてさまざまな提案をしますが、「社長はそうおっしゃるけれど、実際にやるのは難しいですよ」という反応が、とても優秀な社員からも返ってきました。そのマインドも変革していかなければならないわけです。

そのためには、会社がどういった目的で何を目指していくのかを、一緒に考え、伝えていかなければなりません。一方では、業務を執行してくれている社員の「現場の視点」を理解することも大変重要です。

何らかを変えようとしたときに、現場が「すぐにはできない」と感じるのは当然です。その時には、トップとして「こうすればできるよ」という姿を見せ、一つひとつ成功を積み重ねていく必要がありました。

――社長の椅子に座っているだけではないということですね。

宇納:もちろんです。むしろ、社長の椅子に座っている暇なんてほぼありません。

営業部門では営業メンバーに同行し、取引先との商談に臨んでいます。生産部門では発注書の書式から点検し、海外生産工場と行うオンライン会議にも参加しています。

そうやって各現場に入っていくと、各部署が本当にやるべきことや困っていることが見えてくるし、実際に自分がやってみることで、全社最適につなげていくためのヒントとして活用できるようになります。

何よりも、積極的に現場へ入っていくことで、各部門の担当者が「この人は本気だな」と思ってくれるようになります。

通常業務以外にも、会社のトイレ掃除は、社長である私の担当です。良い会社というのは、美化意識が高く、物を置く場所一つとってもきれいに整頓されているもの。弊社もそれを徹底したいと思い、社内のフロアは社員みんなで掃除をしているんですね。それからいろいろと仕事をこなし、退社するのはだいたい私が一番遅いですね。社員が働きやすく、成果を上げやすい体制の構築は経営者の責任ですし、いざとなれば、込み入った現場の実務も自分が引き受ける覚悟は常に持っています。

「会社の成長」を本気で信じてくれる後任をアサインし、次のチャレンジへ

――社長としての数カ月を経て、社員のみなさんの意識は変わってきたと感じますか。

宇納:変わってきていると思います。

多くの企業と同様、2020年は新型コロナウイルスによる影響を受けました。「この状況だから数字が多少なりとも落ちるのは当たり前ですよ」と言うメンバーもたくさんいたんです。

それでも私は、「できることは他にもあるんじゃないか」とずっと語りかけていました。高い支持率を頂けているとはいえ、まだまだ伸びしろのある市場です。そうした白地を開拓するために、私も必死で営業の仕事をしました。

――先ほどの話のように、可能性を示しながらトップ自らが動くことを実践したわけですね。

宇納:はい。そうするうちに、2020年の秋ごろからメンバーの言動が変わってきました。「できない理由」を口にしなくなり、「どうすればできるのか」という発想になっていったのです。少しずつ結果が出るようになり、自分たちには大きな可能性があると信じられるようになっていったのでしょう。今では、外部環境がどれだけ悪くても自分たちで風を巻き起こそうとする社内の変革の機運に勇気づけられることもあります。

こうした変化は、私の力だけで実現したものではありません。ジャフコのビジネスディベロップメント部門には、ITシステム、営業、人材採用などのさまざまな支援をしてもらいました。

ここ最近はジャフコのオフィスへ行く機会はほとんどありませんが、チャットツールを盛んに活用して、全社的なコミュニケーションを図っているので、いつでも相談できます。

――「自社」、つまり投資先のさらなる成長に向けた今後の青写真は、どのように描いていますか。

宇納:現在はCEO(最高経営責任者)ポジションを任せられる人材をアサインし、私から経営を少しずつスイッチしていく段階に入っています。

アサインにおいては、弊社の経営者として必要なスキルセットを満たしていることはもちろん「この会社が成長すると本気で信じてくれるか」を重視して人選しました。その思いがなければ、弊社のメンバーと心を通じ合わせることは難しいでしょう。私自身、後任を信じられない状態で経営を引き継ぐことは絶対にできません。

これほどまでに濃密な経験は、前職などではありませんでした。今まさに「一生もの」の財産を築かせてもらっているのだと思います。その先にはまた新たなチャレンジが待っています。これを繰り返していくのが、ジャフコのバイアウト投資のリアルなのです。 description

経営者として、投資家として。ジャフコで身につけられる「希少なバランス感覚」

――宇納さんがジャフコに入社するまでのキャリアのこともお聞かせください。

宇納:前職の日清食品ホールディングスでは、経営戦略部で全社戦略の企画およびM&Aに関与していました。

例えばM&Aでは、海外の有力企業とのジョイントベンチャーを組成したり、選択と集中の観点からノンコア事業を譲渡したりと、多種多様な案件を経験しました。

こうした仕事を通じて、日本を代表する企業が、世界というステージで成長に向けて前進していく過程に関われることが最高に面白かったですね。また、受け継がれる創業者精神とそこから生み出される未来への推進力にも感銘を受けていました。その中で、私は「日本の産業や企業を強くしていきたい」という思いを一段と強く持つようになりました。

――その思いが、ジャフコへの転職のきっかけになったのでしょうか。

宇納:はい。日本の産業や企業を強くしたいという思いを実現するには、リソースの豊富な大企業だけでなく、国内の大多数を占める中堅・中小企業の伸びしろにも、注目すべきだと考えました。そのことが投資ファンドに興味を持つようになった理由の一つです。

ジャフコは約半世紀に及ぶ業歴の中で、1982年の日本初の投資事業組合の設立、4,000社以上の投資実績と1,000社を超える投資先企業の上場など数多くの実績を蓄積しています。バイアウト投資でも50社の投資実績を有し、国内では最高水準といえます。また、近年では、中堅・中小企業の成長機会に着目した「グロース投資」を強化しており、私はそのスタイルに強く共感しました。

加えて、デジタル技術領域を代表に、世界中のスタートアップや大企業とのつながりを持ち、それを経営資源として活用できるビジネスディベロップメント部門があります。

次のステージとしてジャフコを選択するのに、迷いはありませんでした。

――宇納さんは将来に向けて、どのようなキャリアビジョンを描いているのでしょうか。

宇納:英国の著名な経済学者であるジョン・メイナード・ケインズは、「船は港にいれば安全だが、それでは船の用をなさない」という名言を残しています。私はこの言葉を「変化の激しい時代だからこそ、荒波が来ると承知していても船を出し、必死にこいでいかなければならない」のだと解釈しています。

だからこそ私は、成長していく企業と行動をともにしたいと考えています。日本の産業と企業を強くしていく。それは自分自身が安全な港にいては実現しません。

最近では、創業から半年や1年で数十億円規模を調達するスタートアップが増えてきました。かつては会社といえば10年、20年をかけてじっくり成長していくものでしたが、デジタル化の流れの中で、あっという間に既存の市場やサービスを飲み込んでいく例も当たり前に見られるようになりました。スタートアップにとっても既存企業にとっても、「業界や社会は短期間で変わるものだ」ということです。   ジャフコのバイアウト投資部門では経営人材としてのスキルが現実的に身につく機会があります。グロース投資の実現は、経営における厳しい局面や、現場における変化の局面を乗り越えることなくして成し得ないからです。

ただし、私たちはあくまでも投資ファンドなので、経営は真のメインスコープではありません。状況によっては、ガバナンスモデルの提供のみを行うという判断が必要な時もありますし、客観的な視点を常に持っておかなければなりません。投資と経営という、希少なバランス感覚が得られることこそ、ジャフコに身を置くことの真の価値なのかもしれません。 description

コラム作成者
Liiga編集部
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