CTOのTはTechだけじゃない―。Apple→起業の技術者が説く共同創業CTOの役目

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ソフトウエアエンジニアとビジネス系人材が組んでスタートアップを創業し、共同で経営―。テクノロジー起点の新ビジネスが増える中、こうした起業パターンは多い。ではエンジニアにとって、非エンジニアと起業し共同創業CTO(最高技術責任者)として経営に携わることは、どんな体験なのだろうか。“相棒”はどう見定めるのか、バックグラウンドの違いによる難しさはあるのか……。

そうした創業CTOの事例として、今回はApple米国本社にエンジニアとして勤めた後、2017年11月に製造業向け受発注プラットフォームを手掛けるキャディ株式会社を立ち上げた、小橋昭文さんに話を聞いた。彼が組んだ相手は、同社CEO(最高経営責任者)で元マッキンゼー・アンド・カンパニーの加藤勇志郎さん。

創業時から二人三脚で経営をする中、その協力関係には変化もあるのだという。そして小橋さんにとって「CTOの“T”はTechnologyだけじゃない」のだとか……その意味するところとは何か。【藤崎竜介】 ◇「外資就活ドットコム」にも同じ内容の記事を掲載しています。

〈Profile〉
小橋昭文(こばし・あきふみ)
キャディ株式会社 CTO。
幼少期から米国で育ち、スタンフォード大学大学院では電子工学を専攻。在学中はロッキード・マーティンなどで働いた。2013年にAppleに就職し、ワイヤレスイヤホン「AirPods」などの開発に携わる。2017年11月にキャディを創業し、CTOに就任。


技術畑の自分が起業するなら事業戦略・財務に強い人と。相手の趣味などは「正直どうでもいい」

――この記事は、将来の起業を視野に入れているエンジニア系の学生や若手社会人を主な読者に想定しています。小橋さんが起業したいと強く感じるようになったのは、いつくらいでしたか。

小橋:大学院を出た後Appleに入って、しばらくしたころですね。大企業のエンジニア職を数年経験した上で、アイディアというか事業として取り組むべき社会課題がはっきりしたら、起業するほうにチャレンジしてみたいと思うようになりました。

巨額の技術投資が必要な仕事をしたいなら、大企業にいたほうがいいかもしれません。一方、私は自分の技術力で世の中の課題を解決したいという思いのほうが強く、それには起業という道が「向いている」と考えた感じです。

Apple製品の設計に携わる中、キャディの事業テーマになった製造業の調達に課題を感じ始めてもいましたしね。

――幼少期からキャディを創業するまで、ずっと米国西海岸にいたとのことですが、スタートアップの“聖地”で育ったことは、起業という選択に影響しましたか。

小橋:「なんかいろいろやっているな~」というか、現地で新しいものがどんどん生まれていることは知っていましたし、それこそ高校生くらいの時は「起業がかっこいい」みたいな感覚もありました。とはいえ、そんなふうに“空気”を感じていた程度ですね。

なので、もともと起業そのものが目的になっていたわけではありません。誰でも法人を作れば「起業した」といえますしね。

――独力で起業する可能性はなかったでしょうか。

小橋:私は完全に技術畑の人間です。どちらかというと、世間の目から遠いところで力を発揮してきたというか……。そんなこともあり、新しいビジネスを自分でやるなら事業戦略や財務に強い人と組んだほうが絶対いい、という思いがありました。

――事業戦略などの経験や知識以外に、ビジネスパートナーを決める要素として重視していたものはありますか。

小橋:プロフェッショナルとしての意識でしょうかね。「良い仕事をすること」をすごく大事にするというか。私がビジネスのパートナーに求めるのは、目指すゴールに向けて共に良い仕事をすること、に尽きます。趣味が同じかどうかとかは正直どうでもいいですし、飲み友達と創業するみたいな考え方もしていません。 description

交流4年。マッキンゼー出身者と“事実婚”で共同創業

――では共同創業者である加藤さんとの出会いについて、聞かせてください。

小橋:2013年末か2014年の頭だったと思います。共通の知人の紹介で「シリコンバレーを案内してほしい」とのことでした。加藤はまだ東京大学在学中で、私はApple本社で働き始めたばかり。現地で何を案内したかは、正直あまり覚えていないのですが……。

――初対面の印象は覚えていますか。

小橋:「話がスムーズな人」という感じでしたね。物事の理解が速く、英語を話せるので案内する際に私が全部通訳する必要もない。そこは印象的でした。

――以来、交流が始まったわけですね。

小橋:はい。当然、初めて会った時に一緒に起業したいと考えたわけではありませんが、機会があるたびに話をするようになっていきました。その過程で相手の鋭さや強みが分かってきて、可能性を感じるようになっていった感じですね。

――初めて会った時から会社を設立した2017年まで、4年くらい経っていますね。その間、コミュニケーションを取り続けていたのでしょうか。

小橋:そうですね。私は米国、加藤は日本に住んでいましたが、年1~2回とかはどちらかの国で実際に会って話をしていたと思います。冗談で“事実婚”といったりしていますが、その期間を経てなんとなく一緒に事業をやるような関係性になったともいえますね。

――どんな話をしていたのでしょうか。

小橋:「こんなことできないか?」「これいいね!」みたいな感じで、ビジネスのアイディアをどんどん出し合っていました。テーマは、今キャディが事業展開している製造業になることが多かったですね。加藤は2014年にマッキンゼーに入ってから主にメーカーを支援していて、一方私は先ほど述べたように、製品の設計をしつつ部品調達の課題などを実感していましたから。

――2人で起業することを決めたのは、いつぐらいでしょうか。

小橋:2016年末から2017年初めあたりです。「このアイディアでいこう!」みたいな感じでしたね。それから、加藤は市場調査や戦略作り、私は事業の中心に据えていた3次元データを使う自動見積もり技術の検証などを進めて、2017年11月に創業しました。 description ◆キャディのビジネスモデル(同社提供画像)。顧客である産業機械や輸送機器などのメーカーから製品設計のデータを受け取り、パートナーの加工会社とマッチングする。

創業期はトイレ担当のChief Toilet Officerを兼任……そして今は……

――続いて、創業後の協力関係について聞いていきたいと思います。今は2人でどのように役割を分担していますか。

小橋:結構はっきりと分けていると思います。サービスの開発と運用については、リスク管理なども含め私が責任を負っています。当然、開発組織の責任者でもあります。

一方で事業戦略、財務戦略といった経営企画的な仕事については、かなり加藤に任せていますね。戦略が固まってから、具体的なサービスの運用などを設計する段階で私が入ることが多いと思います。

それから、今のキャディはバリューチェーンが拡大して複雑になっています。機械加工などを担っていただくパートナー企業が増え、また物流システムも運営していますから。1人の経営者が全て管理するのは、難しいレベルです。なので、先ほど述べた社内的な機能に加えて、バリューチェーンの軸でも仕事を分け合うことが増えていますね。

――創業直後はどのように分担していましたか。

小橋:当時は加藤、幸松(幸松大喜さん=マッキンゼーなどでの勤務を経て2017年末にキャディに参画、現在は装置事業部長)、私の3人しかいませんでした。

加藤が事業戦略、財務、経理、顧客開拓などを担い、幸松が主にパートナー企業の開拓で、私が技術開発と労務や総務といったその他のバックオフィス機能をみていた感じです。新しく入る人の入社手続きも、私がやっていましたね。

――バリューチェーンが拡大した今とは別の意味で、やることがたくさんありそうですね。

小橋:はい。会社を存続させるためだけでも、すごい仕事量があることを知りました。加藤も経理とかは得意じゃなかったと思いますが、「誰かがやるしかない……」という感じで分担していましたね。

私の場合は、トイレ掃除もやっていました。創業時の職場は男女兼用のトイレが1つあっただけだったので、毎週キレイにするようにしていました。それでも、社員からの評判は良くなかったですが……。

そのころ、当社のCTOはChief Toilet Officerでもあったわけです。 description

――技術面では、創業期にどんなことに時間を使うことが多かったですか。

小橋:「そもそも稼げるの?」みたいなレベルだったので、当然あらゆることをやっていました。その中だと、リスクやリソースなどを踏まえつつ「いつ何を開発するか」「どんな情報を管理していくか」などを考えて意思決定することが多かったと思います。

参考コラム:~Rust、Kotlinなど新興言語を積極採用する“尖った”技術者集団~

製造業という伝統的な領域を“主戦場”とするキャディだが、開発現場では昨今注目を集めるプログラミング言語のRustを2019年から採用するなど、国内では先進的といえる技術選定が目を引く。現在、主に用いている言語はRust、Kotlin、TypeScript、Python。「9割以上、この4種で開発しています」と小橋さんは明かす。

Rustの主な用途は、製造原価の自動計算システムなど、主要なサービスのバックエンド。形状や寸法など多様な要素が絡み合うデータを扱うため、「現実の情報をどうソフトウエア上で表現するかが難しいところ。なので、表現力の豊かな言語が必要でした」と小橋さんは導入時を振り返る。そうした事情を踏まえ「静的型付け言語(*1)で、かつジェネリクス(*2)が使えること」(小橋さん)を主な条件に複数の言語を比較し、結果としてRustを選んだという。

また、2021年からはパートナー企業とデータ連携する基盤を段階的に設けるべく、Kotlinを導入している。

意欲的に技術領域を広げる半面、「どんどん広げるのが正しいかというと、必ずしもそうとは思いません」と小橋さんは説明する。ほしい機能を生むためにどんな技術が求められるか、導入すれば社内にどういった知見が蓄積されるかなどを慎重に考えつつ、必要に応じて用いる技術の見直しや追加を行っているという。

*1 値の種類を示す「型」をプログラム内で明示する言語
*2 さまざまな型に対応する汎用的な「総称型」を定義する手法


――事業・組織が拡大するにつれて、そうしたCTOとしての役目は変わっていきましたか。

小橋:そうですね。2年目、つまり2019年の途中まではChief Toilet Officerを兼ねていたと思います。

そこから2020年の後半にかけては、モノづくりの情報などを社内に蓄積する仕組みを整えるため、より開発に時間を使うようになりました。Chief Technology Officerらしい仕事をするようになったというか。

――バックオフィスの担い手が充実してきたことが伺えます。では足下はどんな状況ですか。

小橋:蓄積した情報を活用して事業を変えにいくフェーズに入っています。CTOのTに結び付けて表現するなら、Chief Travel Officerといった感じでしょうか。

――Travel、つまり旅ですよね……どういうことですか。

小橋:蓄積した知見を携えてパートナー企業や顧客の現場に赴き、技術面でどんな価値を出せるかを考えることが増えているんです。10日以上が外勤の月もあって、今までなかった状況ですね。

――加藤さんや幸松さんが開拓した顧客やパートナー企業との関係が、技術を軸に次の段階に進む時期に来ているということでしょうかね。

小橋:はい。0から1の関係構築を加藤や幸松などがやった後、1からさらに上を目指すところを私が担うというパターンが増えていますね。 description

「けんかではなく議論」で絶えずすり合わせる。大事なのは相手が詳しい領域を学び続けること

――小橋さんと加藤さんはまず職種が異なりますし、経験してきたことがかなり違うのではないかと思います。異なるバックグラウンドの2人が協力する上で、難しいことはありませんでしたか。

小橋:そうですね。まず私はずっと米国にいたので、最初のうちは日本の文化に合わせるのが大変でした。例えばビジネス上のあいさつの慣習とかは全く違いますし。そういう部分で創業期は誤解とかも結構ありました。

それから、開発と営業という立場の違いも当然あります。例えば開発側の人間は普通、基幹システムをどんどん変えようとはしませんが、反対に営業側だと新しい機能を積極的に顧客に提案したくなるケースもありますよね。

なので、その点はすれ違いが起きないように絶えず話し合ってすり合わせをしてきましたし、今もしていますね。

場合によっては、知らない人からしたらけんかみたいに見える会話の時もあるかもしれません。でも我々2人にとっては、けんかではなくて議論です。2人がいつも同じ方向を向くのが良いとは思っていませんし、ダイバーシティーのある経営の強みだと捉えています。

――けんかではなく議論。プロフェッショナリズムを大事にしている2人らしい考え方ですね。

小橋:社内では「コトと向き合う」と表現しています。事業や産業の課題を解決することを最優先する考え方ですね。課題解決を図る上でロジカルに間違っていることや疑問があれば、自分や相手の立場に関係なく率直に指摘します。こうした考え方は、社内である程度共有できていると思います。

――経験を踏まえて、バックグラウンドが違う人同士の創業・経営で重要なことは何だと感じますか。

小橋:互いに絶えず勉強する、分かろうと努めることでしょうかね。(経営チームは)異質な者同士の融合体になるので、専門性が重なっていない領域がどうしても生じます。相手が詳しくて自分が詳しくない領域を、意欲的に学びにいくことが重要だと思います。

例えば、私は財務戦略に関する知識がほとんどなかったので、できるだけ勉強するようにしています。一方の加藤はソフトウエア開発の経験が豊富ではなかったので、学んでもらうとか、こちら側の考え方に寄り添ってもらうといったことが、これまでにも結構ありました。

もちろん100%理解するのは無理ですし、その必要はないと思います。互いに「ある程度は理解し合っている」という温度感や、理解しようとする姿勢を示し合うことが大事なのではないでしょうか。 description


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