CTO=「単なる開発のリーダー」はダメ……freee創業CTOが挫折から得たもの

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企業価値10億ドル以上の「ユニコーン企業」と呼ばれた後、2019年12月に上場し、今も時価総額4000億円超(2021年9月6日時点)を保つFinTech企業のfreee株式会社。共同創業CTO(最高技術責任者)として同社を佐々木大輔CEO(最高経営責任者)とともに立ち上げ、エンジニアリングを引っ張ってきたのが横路隆さんだ。

2012年の設立以来、着実に成長する同社だが、横路さん個人は佐々木CEOと共同経営する中、「創業後の数年、自分の役割を変えなかったのは失敗でした」と明かす。そんな挫折体験を自社の成長につなげる彼の経験談を基に、ソフトウエアエンジニアがビジネス系人材と起業する上で大事なことを探る。【藤崎竜介】

〈Profile〉
横路隆(よこじ・りゅう)
freee株式会社 CTO。
島根県松江市育ち。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。学生時代からビジネス向けシステムの開発に携わる。新卒入社したソニーで2年強勤めた後、2012年に当時Googleにいた佐々木CEOとfreeeを共同創業。

◇「外資就活ドットコム」にも同じ内容の記事を掲載しています。

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Ruby発祥地でプログラミングと出合い、起業の原体験を得る

――起業を視野に入れるエンジニア系の学生や若手社会人を主な読者に想定しています。横路さんは、学生時代から起業を考えていましたか。

横路:明確には考えていませんでした。共同創業者の佐々木と出会ってから、自分で会社を作ることについて具体的に意識し始めた感じですね。

とはいえ、起業につながった原体験は大学時代にあると思います。1つは、両親が地元の松江で営む洋菓子店を、プログラミングで手伝ったこと。夏休みを使って販売管理のシステムを作ってあげたら、すごく喜んでもらえたんです。技術で身近な課題を解決することの面白さや価値の大きさを、実感しました。

ちなみに、その時は対価として5万円くらいもらえました。驚きましたね、「こんなに価値のあることなのか!」と。高校生の時にもらっていた小遣いは月5000円くらいだったので……。

――その体験があったからこそ、「スモールビジネスの課題解決」を当初から掲げていた佐々木さんに共鳴した面もありますか。

横路:そうでしょうね。そのスモールビジネスの課題解決という意味では、大学の研究室のつながりでやっていたプログラミングのアルバイトの経験も、大きいと思います。そのバイト先では中小企業向けを中心にさまざまなシステムを作っていたのですが、中には地方銀行の融資を支援するものもありました。

その地銀では牛などの畜産資源を担保に融資したりするのですが、そうした動産の資産価値を先物市場の動向を基に割り出したり、個体管理をしたりする仕組みなどを作りました。面白かったですね。ITの力で本当にいろいろな形で課題解決ができることを、知ることができました。

――プログラミングはいつ覚えましたか。

横路:高校生の時から簡単なプログラムは作っていました。(プログラミング言語の)Rubyが生まれた松江で育ったので、コードを書ける人が周りに結構いましたし。あとは大学に入ってから、授業やアルバイトで知識と経験を深めた感じですね。
description ◆インタビューはオンラインで実施

共同創業の契機は軽い“ノリ”。「面白いことをやれるなら、それに懸けたい」

――では、主題であるエンジニアとビジネス系人材の共同創業について聞いていきたいと思います。佐々木さんとはどのように出会ったのでしょうか。

横路:新卒で入ったソニーで同期だった人が、佐々木のことを教えてくれました。彼の大学時代の先輩がGoogleにいて、佐々木とつながっていたんです。「ビジネスアイディアを持っていてエンジニアを探している人がいる」みたいな感じでしたね。

それで、2012年4月に初めて会いました。

――なぜ興味を抱いて会おうと思ったのでしょうか。

横路:最初は単純に、アイディアを実装して形にするのが好きだからですね。実現のハードルが低そうな話でしたし。軽いノリで何かを作って試すのは昔から好きで、全く苦にならないんです。ソニーに入る少し前には、同期入社予定の仲間が交流できるSNSや、イベント用のゲームを自作したりしていました。

――佐々木さんの第一印象はどんな感じでしたか。

横路:喋り方とか、Tシャツに短パンという格好も含め「ラフな人だな~」という感じでしたね。それで話を始めると、ビジネスや世の中全体についてすごく詳しいことが分かりました。僕より年上で、Google以外にスタートアップのCFO(最高財務責任者)や、PE(プライベートエクイティ)ファンドでの勤務も経験していましたしね。

それに佐々木もご両親が美容院を営んでいて、実家が自営業という点が僕と同じでした。最初から話が弾んだのを覚えています。

――そこから、どのように共同創業に至ったのでしょうか。会社の設立は同じ年の7月でしたよね。

横路:はい。4月に会った後、5月にプロダクトの原型を一緒に作り、6月に共同創業を誘われて承諾しました。

――それまで明確に起業を考えてはいなかったことを踏まえると、短期間でかなり思い切った決断をしましたね。迷いなどはなかったのでしょうか。

横路:実はほとんどなかったんです。当時は20代後半に入ったくらいで未婚でしたし、住まいは会社の狭い寮で……失うものがないというか、全てを捨ててチャレンジする上でのハードルが低かったんだと思います。「面白いことをやれるなら、それに懸けたい」といった感じでした。

20代での起業は「体力で勝負できる」。最初の1年は、ほぼ無休で開発

――当時、佐々木さんとコミュニケーションを取る中で印象的だったこと、横路さんの背中を強く押したエピソードなどはありますか。

横路:「うまくいかなかったら1年でやめるからやってみない?」みたいなカジュアルな誘い方だったので、乗りやすかった面はあると思います。それから、資金調達するまでは「俺の財布から給料を出す」みたいなことを言ってくれたことも、印象的でした。

あと覚えているのが、5月にプロダクトの原型を作ってみた時のことですね。その1カ月前の段階で佐々木が経験していなかったRuby on Railsを短期間で習得していて、一緒に手を動かして開発してくれたんです。

「この人、すごい……口だけじゃなくて本気だな」と心が動きました。

――名門のソニーを離れることへの抵抗は、ありませんでしたか。

横路:ソニーは技術者にとって良い環境ではありました。毎年、製品のアイディアを発表・展示する機会があって、ワイワイと議論したりするのは楽しかったですし、優秀な人も多い。

ただ、自分の作るものがユーザーに届くまでの時間が、いろいろな意味で「長い」とも感じていました。僕がいたチームだと、製品の企画などをまとめるリーダーに昇格するまで、10年くらいかかるともいわれていましたし……。

――ところで、起業は横路さんのように若いうちにしたほうがいいと思いますか。

横路:ケースバイケースですが、僕の場合は若くて良かったと思います。創業期の大変な時は体力で乗り切った感がありますから。最初の1年くらいは、ほとんど無休でしたね。平日にプロダクトを開発して、土日は自社のホームページを作る……みたいな……。

一方、30代以上での起業ならビジョンに対する思いはもっと強くなっているでしょうし、「気合」みたいなものは出るのだと思います。なので、創業期を体力で踏ん張るか、気合で切り抜けるか、の違いになるのではないでしょうか。

メンバーが、楽しそうじゃない……。挫折を経て、今は3年後を見据えた取り組みに注力

――初期の印象については既に聞きましたが、創業後に共同経営する中で見えてきた佐々木さんの特性はありますか。

横路:今何が必要かを素早く見極めるセンスと、それにフルコミットする姿勢がすごいと思います。

プロダクトがないと始まらないビジネスモデルなので、先ほど述べたように最初はプログラミングを覚えて一緒に開発してくれましたし、それが2013年前半にひと段落したら一気に切り替えて、カスタマーサポート、マーケティング、資金調達といった他業務にフォーカスするようになりました。

役割を次々と変えていった佐々木と比べると、その面で僕は失敗しているんです。

――どういうことでしょうか。

横路:創業時から役員であるにもかかわらず、単なるプロダクト開発の主導役という意識が、ある時点まで抜けきらなかったことですね。

創業当初はプロダクト作りが一番重要だったので、そこにフォーカスしたのは良かったんです。ただ会社が大きくなるにつれて、例えば採用やチーム作りなど開発以外のことも大事になる時期がある中で、自分を変えきれませんでした。

――その失敗が明らかになって、自己変革する契機があったのでしょうか。

横路:はい、2015年くらいだったと思います。エンジニアが30人ほどになったのでアプリケーション系とインフラ系の2チームに分けて、僕と現在CDO(最高開発責任者)を務めている平栗(遵宜さん)で1チームずつ担当した時期がありました。

そして、その体制で開発を進めると、明らかに僕のチームのメンバーが楽しそうに働いていないことが分かったんです。

――平栗さんのチームと比べて、ということですか。

横路:そうです。まさしく、挫折でした。それからですね、マインドを変えたのは。

――組織作り・管理などの役割について、前より意識的になったということでしょうか。

横路:ええ。あと、自分は決まったチームのマネジメントなどより自ら動いて何かを立ち上げたりする方が得意だと分かったことも踏まえて、その時その時で必要かつ、自分に向いている役割を担うようになりました。

――具体的にはどんなことをやっていったのですか。

横路:その2015年くらいから3年ほどは、短期的に必要になったチームなどを、どんどん立ち上げることに力を注ぎました。

例えば、セキュリティー対策チームの「CSIRT(シーサート)」や、ビジネス系のメンバーをITツールでサポートする「GYOMUハックチーム」とかですね。立ち上げて、軌道に乗ったら自分は抜けて次の立ち上げプロジェクトなどに移る、みたいな感じです。それを何度も何度も繰り返しました。

――3年ほどそれをやった後、今は違う仕事にフォーカスしているのでしょうか。

横路:そうですね。2018年くらいから、会社の体力的にも3年後の未来を考えた投資をできるようになってきました。なので、全社横断で検討する中期的な投資戦略を踏まえて、技術面では何をやっていくかを考えて実行するようになっています。具体的には、ある程度長い目で見たチームを作ったりしていますね。

今僕が受け持っているアプリ基盤のチームも、その一つです。当社が持つさまざまなアプリで横断的に使える機能を、40人くらいで作っています。
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共同創業がうまくいった要因は、「大風呂敷を広げる」意識の共有と、技術を尊重するカルチャー

――経験を踏まえて、共同創業するエンジニアが大事にすべきなのは、どんなことだと感じますか。

横路:必要なことなら何でもやるマインドでしょうね。お伝えした通り、その点で僕は1度失敗しました。CTOの役割を「単なる開発のリーダー」に限定している限り、会社に対して大きなインパクトは生めないと思います。場合によっては、自分を変えることが必要になります。

他のスタートアップのCEOと話す中でも、「CTOが開発のリーダーの役割にとどまっていて、経営者とは目線の高さが違う」みたいな悩みを結構聞いたりします。

もう一つ大事なのは、創業メンバーとして会社のビジョンを自分の言葉で語ることですね。エンジニアの採用などにおける、僕の存在意義の一つだと思っています。

――佐々木さんと衝突するようなことは、これまでにあったのでしょうか。

横路:ほとんどなかったと思います。たぶん、2人ともエゴで企業経営をやっているわけではないからでしょうね。ビジョンの実現を最優先する意識を共有しているので、議論などが生じても生産的な形でできていると思います。

――そのほか、うまく連携できている要因はありそうですか。

横路:リスクを取って「デカいこと」を目指すのが2人とも好き、という点は大きいかもしれません。最初に会った時から、大風呂敷を広げるような話で盛り上がっていましたからね。

あとは、佐々木はGoogleにいた影響もあり、エンジニアリングやプロダクトで勝負するビジネスへの理解が深かったことですね。当社のようなBtoBのITサービスを提供する会社は営業力で勝負しがちですが、そうはならなかった。その流れでエンジニアリング、そしてプロダクトへのリスペクトがあるカルチャーになったのは、良かったと思います。 description

参考コラム:~創業10年に向け、用いる技術を刷新~

「もうすぐ創業10年。技術スタックは、一通りアップデートできたと思います」―。

横路さんは、freeeが開発で用いる技術の現状を、こう紹介する。ここ3年ほどで、インフラ・ミドルウエアでのKubernetesの採用、バックエンドにおけるRuby on Rails の最新版導入などを推し進めた。 description ◆freeeの公開資料から引用

「最初の技術スタックに縛られると、ビジネスの進化が止まってしまいます」というのが、横路さんの基本的な考え。その上で、「プロダクトビジョンに基づいて10~20年で実現したいことがあるので、モダンな技術スタックに入れ替えながら、いつの時代もトップランナーとして走り続けたいですね」と意気込む。

足元ではエンジニア組織を100人規模から500~1000人に拡大すべく、採用を強化中。「新しい技術に触れつつ力を高められるのも、当社で働くことの面白さだと思います」と、横路さんはほほ笑む。

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