最高峰の国家資格でありながら、知られざる業務実態とキャリア~現役公認会計士が語る最前線事情~
2022/01/05
#公認会計士の業界情報
#公認会計士の本当のところ

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通常の転職活動をしていると、公認会計士や弁護士といった職業の方々と会うことは少ないのではないでしょうか。

ただ、投資銀行や戦略コンサルでは、FA(Financial Advisor)として弁護士と並んで公認会計士と仕事をする機会もあるかもしれません。

会計系国家資格の最高峰である公認会計士は日々どのような業務を手掛け、どのようなキャリアを歩んでいくのでしょうか。

今回は2016年に現役公認会計士に業務実態を解説いただいた記事を再構成しました。

数々の関門をくぐり抜ける、公認会計士までの長い道のり

はじめまして。

本記事では、筆者の実務経験に伴って公認会計士の業務について説明します。

業務説明に入る前に、公認会計士になるまでの道を簡単に説明します。

公認会計士になるための道は決して平坦なものでなく、決意してから公認会計士(修了試験合格)になるまで平均で7~8年は要し、途中で夢破れる人が圧倒的多数であるシビアな道のりです。

その道のりの最初のステップである2次試験を合格すると、「準会員(旧会計士補)」になり、一定の実務経験を経たのち修了試験(旧3次試験)を合格すると晴れて「公認会計士」の資格を名乗れるようになります。

この一定の実務経験にはいくつかの要件が規定されていますが、実際は監査業務の経験を要求しているに等しいため、大半の2次試験合格者は監査法人へ行くことになります。

キャリア出発点である監査業務は、シンプルに言うと、株主、取引先、金融業等の人たち(利害関係者という)が正しく会社の状態を判断できるように、会社の作成した決算書が全体的に正しいかどうかをチェックする仕事です。

これは公認会計士の独占業務になる部分です。詳しくは後述しますが、監査業務は後述する、残高監査と内部統制監査に大分されます。


なお監査対象となる開示資料は、有価証券報告書、会社法計算書類、Ⅰの部(新規上場のための有価証券報告書)など専門的にはいくつかの種類があるが、ここでは簡便的に「決算書」とひとまとめに表現する。

嫌われる残高監査。エンロン事件の大きな爪痕

残高監査は、会社が作成した決算書が概ね会社の活動と正しいことを確かめる作業です。

経理部に所属している方であれば、会計ソフトのデータ、決算に関連する証憑一式およびネットバンキングのデータを渡すなどして、会計士との関係を一番密にする時期になると思います。営業部や購買部に所属する方の場合、会計士が選んだサンプルに関係する証憑(*「しょうひょう」と読む。注文書、納品書、受領書等のこと)を集め、経理部に渡した経験があるかもしれません。

公認会計士は証憑の内容をチェックし(特に会社の外部から入手した証憑が重要)、それが会計データに正しく反映されそのデータをもとに決算書が適切に作成されている、という一連の流れを確かめています。

エンロン事件(10兆規模の売上を誇っていた米国の大企業エンロンが巨額の粉飾決算を行い破産した事件)を機に膨大なサンプル数をチェックするようになり、会社から(本音は会計士側も)不評を買っている手続きでもあります。

同じ業務の繰り返し。それが、コンサル業界へ人材を供給している一つの要因

上記の残高監査だけに頼ると監査業務は非常に膨大なサンプル地獄となってしまい、監査法人も会社も疲弊することになります。「会社は業務をミスなく回るように内部の仕組み(内部統制)をつくるのものだから、この仕組みが正しければサンプル数の残高監査手続きを軽減しても大丈夫だろう」と考え、内部の仕組みが上手く構築されているかどうかを評価するのが内部統制監査です。

内部統制監査が対象とする部門は、重要度に応じて毎回監査する部門、時々監査する部門、ほとんど監査しない部門に分かれるので、所属部門によって会計士との接する頻度は変わることになるでしょう。

会計士がやって来て、「どんなフローで業務を進めているのか手順を教えてください」という業務フローを聞くような質問をされた場合や、「ここに上長の印鑑がありません」「チェック証跡を残してください」などとひどく形式的な事を言われてイラッとした経験がある方は、この内部統制監査で質問を受けたと思ってよいでしょう。

余談になりますが、会計士の監査を受けたことがあればお分かりになるかもしれませんが、監査業務は基本的に同じ作業の繰り返しとなる上に建設的な作業でもないことも少なくありません。ですから、これらの業務はつまらないと感じる会計士が多いのが実態です。

したがって、4~5年で一通りのスキルを身に付けると、更なる高みを目指してステップアップを考える人が現れ始めてきます。見方を変えれば、監査法人は会計や内部統制のプロフェッショナルを育成し、事業会社やコンサル業界へ輩出している側面もあると言えます。

監査法人も事業会社も一緒。社内政治も日常業務

往査先のクライアント毎に監査チームが編成されるシステムのため、チームごとにメンバーは変わることになります。ただ、監査責任者が監査チームの希望者を提出し、アサイン会議で配員メンバーが決定されるため、監査責任者の好き嫌いが反映された似通ったメンバーになることが頻繁に生じます。監査責任者へごますりすることで監査法人ライフが有利になる点は、事業会社の社内政治と同様です。

原則として監査チームごとに年次の異なるメンバーを集めることなるため、チーム内の会話は表面的な話題が多くなる傾向にあり、結果として噂話が話題の多くを占めることになる点は事業会社より顕著です。この噂話が好きか嫌いかというのは、監査法人ライフでは結構なポイントになり、「○○のジョブの○○さんが○○した」、「○○さんが○○なミスをしてさー」という会話が大好きな人には天国となる場所です。嫌いな人にとっては苦痛になり早期退職の原因になり得ます。

日常業務を進めるうえでもう一つ特徴的なものは、事務所に自分の席が無い点です。監査業務は恒常的に監査先に行く業務形態であるため、事務所にいる頻度は低く、一人に一つの席を用意することはスペースの無駄になります。そこで事務所に戻った場合は、図書館のようにその都度座席を予約し、場所を確保して使用することになっていました。

キャリアのアドバンテージ。それは、決算の数字から会社やビジネスを読み解けるようになるところ

公認会計士の最大の醍醐味は、数多くの会社を、生の数字を通して見ることができる点だと思っております。

多様な業界の異なるステージの会社を監査業やコンサル業を通じて多様な業界の異なるステージの会社を多く見る事ができると、「この業界の場合は会社内部で重要なポイントはココだ」とか、「このステージの会社の場合はどの程度会社内部が整理されているものだ」といったことがか分かるようになります。この業務経験やスキルは、どの会社のどのポジションに就いても役立つ機会はあるはずです。

また決算数値の専門家としてであるから、決算数字から会社の問題点やビジネスモデルを読み解けるようになる点も、キャリアにおいて大きなアドバンテージになるでしょう。

ポスト公認会計士のキャリア。タイミングやタイプを見極めよ

監査業務で得るスキルと給与のバランスの観点から、監査法人から事業会社やコンサルに移るタイミングは4年目~7年目あたりがベストです。

監査業務は4年間経験すると一通り経験したことになり、あとは同じことを繰り返すためスキルアップという観点では成長は見込めなくなります。また、一般的な事業会社と比較すると給与水準は高く、その給与水準と持っているスキルを比較すると転職先が無くなっていくという面もあります。

監査法人を卒業すると、その次のキャリアパスは下記に列挙するように幾つかに分かれていきます。

  • FAS系のコンサル(M&A、事業再生、財務コンサル)
  • 税務コンサル、確定申告書作成などの税理士業務
  • 事業会社の経理
  • ベンチャー企業のCFO
  • 独立開業
  • その他
  • コンサル業界は、会計のスキルやデューデリジェンス(M&Aや事業再生等で行われる調査)は監査経験が活かせるため、絶えず一定のニーズはあります。
  • 監査業務の経験だけでは独立に向かずスキル不足は否めないので、税務の領域に踏み込む会計士は多いです。確定申告書を作成することはもちろん、グループ企業の節税対策やオーナーの相続対策まで手掛けますが、対象となる会社は中小企業が中心となってきます。世間一般では公認会計士と税理士の区別がつかない方が散見されますが、これは公認会計士が税務業務も行うためであると考えられます。
  • 事業会社の経理ポジションは、需要がもっともあるのではないでしょうか。大量合格者を受け入れ人員余剰になる度、監査法人がリストラを実施したことがありますが、その際に監査法人を辞めた多くの会計士は経理ポジションへと移ったそうです。
  • ベンチャー企業のCFOは、最近になって人気が出てきたポジションです。“プロの経営者”なる職業が、日本でも定着し始めてきたためです。IPOを目指すベンチャーにとって、管理系の仕事全般に知識があり内部統制の構築もできる会計士は有り難い存在となります。
  • 監査法人からすぐに独立開業する者もいます。この場合、公認会計士というよりは街中の税理士として確定申告作成をメインにやっていくことになります。なお、現行の制度上、公認会計士は届け出ることにより、税理士として登録することが可能になります。
  • その他のケースは、起業する人、アクチュアリーになる人、消息不明になる人などさまざまです。

筆者の個人的意見でありますが、監査業務、税務申告、経理業は同じことを繰り返す作業が好きなタイプに向いています。対して、コンサルやベンチャーのCFOは、絶えず頭を使いながら新しいことに挑戦することが好きなタイプに向いていると言えます。

会計不正の背後にちらつく、業界のヒエラルキー

ニュースで会計不正が取りざたされることが後を絶ちません。

会計不正が起きる理由は、決算書を会社自身が作成することが関係しています。つまり、決算書は会社にとっての通信簿のようなものです。自分で通信簿を作れるなら、それをよくしたい、と考えてしまうでしょう。

会計士が露骨に会計不正に加担する例は、直接的には見た経験はありません。また不正に積極的に加担する公認会計士がいるとも思わないです。

金融ビックバン以降、会社が作成する事業計画予想が監査の現場で大きなウエイトを占めるようになりました。これは事業計画をもとに現状だけでなく将来の業績予想も加味して、減損損失、税効果会計、有価証券の評価損など決算書にインパクトをもたらす判断が行われるからです。

このため会社が作成する過度に右肩上がりの事業計画を、いかに適正なものへ修正させるかという戦いが生じます。しかも事業計画は将来の予測であり正解は誰にもわからないし、ビジネスそのものは会社の方が詳しいにもかかわらずです。

ただ一時期、いわゆる「オピニオンセラー」と言われる監査法人があったことは事実です。オピニオンセラーとは、会計不正をしている可能性が高いとわかっていながら、決算書が問題ないとの墨付きを意味する監査意見を金で売ることを意味します。

これは監査法人のヒエラルキーが原因であり、金融業がメガバンク、地方銀行、消費者金融などに分かれているのと同じような関係にあります。つまり優良顧客は4大監査法人が抱えるため、中小の監査法人はそこからあぶれた顧客をつかみます。そうなると業界末端の弱小監査法人は、非常にリスクの高い顧客を選ばないと生き残れません。そして営業的に苦しい場合、不正の香りがしても監査意見を出すことになるという構造です。

公認会計士から見たオーナーや他の士業は

公認会計士側から見た、投資銀行部門、戦略コンサルや事業会社について感じたことについても触れておきましょう。

事業会社のオーナーの場合、専門家のスキルゾーンを理解しておらず、スキルゾーンを超えた過度な要求をしてくる相手がいました。会計士、税理士、弁護士、司法書士…区別が分からないことは理解できますが、さすがにこの領域は出来ないと説明した時は納得してほしいところです。

また、税理士、弁護士、司法書士とは頻繁に仕事をする機会があったため、会話をある程度交わすと、その道のプロとしての大まかなレベルを判断できるようになりました。これは事業会社の立場から専門家を利用する場面で、大きな財産になりそうです。

公認会計士は増加する?試験合格はただの入場券~企業内会計士構想から考える

増えつつあるインハウス弁護士のように、公認会計士も企業内において求められる傾向や、人員過多などの問題はあるのか?

企業内会計士の構想はよく聞かれますが、多くの資格同様、会計士も試験に受かっただけではその世界への入場券を得ただけで、そこから下積み生活を何年も過ごして経験やスキルを獲得しなければ全く役に立たないのが現実です。

会計士の場合は監査法人がその下積みを提供する場でありますが、監査法人の受け入れキャパシティーが増やせない状況では、合格者を増やしても企業内会計士を輩出するのは非常に難しいでしょう。

監査法人のキャパシティーを増やそうとすると、増える人件費を補うために売上を増やさなければならなず、監査先の顧客数は全体では限られている以上、監査報酬の値上げが必要となってきます。

しかし監査を受ける会社からすると、受けるサービスが変わらないのに(実際には経験の浅い準会員が増えるためサービスの質は低下する)、監査報酬の値上げは応じられるものではないでしょう。このため、会社へ提供できる価値をアップさせない限り、企業内会計士構想はうまくいかないのではないでしょうか。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

普段ベールにつつまれた公認会計士の業務内容が分かったのではないでしょうか。

目に見えないところまでチェックする公認会計士は、ただ字面だけを見てジャッジするわけではないため、総体的なモノの見方が求められるハードな仕事です。本コラムが、プロフェッショナルファームや事業会社の経営陣である方、またそのようなキャリアを目指す方の業務やキャリアイメージ構築の一助になれば幸いです。

コラム作成者
Liiga編集部
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