*こちらの記事は「外資就活ドットコム」からの転載となっております。
はじめに
企業の口コミ情報サイト・キャリコネなどを運営するITベンチャー「グローバルウェイ」は創業から12年目の今年4月、東証マザーズに上場を果たしました。
創業者で社長の各務正人さん(43)は3つの外資系企業で働いたあと、31歳で起業しました。ユニークなのは、それぞれの会社でエンジニア、トレーダー、営業と異なる職種を経験していることです。それは、起業を見据えた戦略的な行動でした。「若い人はディレクション(方向性)を持て」。そう語る各務さんに、外資時代の体験を聞きました。(取材・構成:亀松太郎)
3つの外資系企業を渡り歩いた
――各務さんは米国のワシントン大学を卒業して、UBS証券に入ったということですが、職種はエンジニアだったんですね?
大学時代からITで起業したいと思っていました。ITの会社をやるなら、エンジニアの現場を知らなければいけないだろうと考えていたので、大学を卒業して日本に帰ってくると、まずエンジニアでUBSに入りました。
――その次はドイツ銀行に移ったんですよね?
エンジニアとして株の分析をするアプリを開発しましたが、ユーザー側の経験も必要だと感じました。証券業界ではトレーダーが花形ということもあり、トレーダーを経験したいと思ったんです。でも、社内での異動は難しかったので、ドイツ銀行に転職することにしたんですよ。
――ドイツ銀行でトレーダーとしての経験を積み、また、転職したんですね?
今度は、米国系のソフトウェア会社に営業として入りました。ウェブメソッド(現ソフトウェアAG)という会社です。UBSとドイツ銀行は大手ですが、ウェブメソッドはNASDAQに上場したばかりのベンチャー企業でした。日本法人ができたばかりで、社員が10人もいないぐらいでした。
――3つの会社で働いている間も「起業」が頭にあったんですか?
そうですね。起業のために必要なもの、つまり、「キャリア」と「経験」と「お金」を貯めるためにどうしたらいいかと考えたときに、外資の証券会社と営業という選択になりました。
――創業資金を貯めるという目的もあったわけですね。ちなみに、給料はどれくらいだったのでしょう?
ドイツ銀行のトレーダーをしていたときは、年収1400万円ぐらいでした。でも、26歳でそろそろ起業したいなと思ったとき、まだまだ資金は足りなかったし、企業に必要な人脈や経験も不足していた。そこで、成長性のあるベンチャー(ウェブメソッド)に移ったんですが、最初は年収600万円からのスタートでした。
――半分以下に下がってしまったんですね。
でも、営業なので、ソフトウェアを売れば、その分、コミッションが入ってくるわけです。身を粉にして働いて、数千万円から億単位のソフトウェアを売りまくり、海外本支店を含めたトップセールスまで上り詰めました。年収も急上昇して、30歳のときには7500万円までいきました。
「お金は道端に落ちていない」
――外資系らしいというか、すごい上昇ぶりですね。
ただ、その分、厳しい世界です。売れなければ年収は低くなりますし、成績がすごく悪いとクビになるんです。
――外資系はすぐクビになると聞きますが、本当なんですか?
本当です。ソフトウェアの営業もそうですが、その前にいた金融の世界も厳しかったですね。ドイツ銀行でトレーダーをやっていたとき、上司から指示されて「Do it or else.」とよく言われたんですが、「else」というのは「クビ」という意味なんですよ。実際にクビになった人もいます。
――そうなんですか?
新しい人が入ってきたなと思っていたら、2週間くらいして「あれ、あの人、どこに行ったの?」ってことがありました。
――ハードな世界ですね。
上司からは「お金は道端に落ちていない。自分で見つけてくるんだ」と教えられました。特に証券会社のトレーダーの場合は、お金を稼ぎたくて働いているという人が多いし、「稼ぎたい」という気持ちが強い人のほうが成績がいいですね。
――なるほど。
少し前に、ドイツ銀行時代の同僚に会ったんですね。彼はまだトレーダーを続けているので、「仕事好きか?」と聞いたら、「お前、何言ってるんだよ。そんなこと、考えたこともないよ」と言われました(笑)。好きとか嫌いで、仕事をやっているわけではない、と。
――本当にお金を稼ぐためだけに働いているんですね・・・
外資の証券会社は、稼ぎたくて来ている人が強い。極端に言えば、レオナルド・ディカプリオが主演した映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の世界。そして、この業界はアメリカ人やイギリス人といったアングロサクソン系が強いですね。
――何が違うんでしょうね?
一つは、お金に対するモチベーションが全然違いますね。それから、金融の世界は数字に強いことが求められます。つまり、理系出身で数理分析能力に秀でていて、かつ、お金を稼ぎだす嗅覚とモチベーションが備わっている人が出世する世界ですね。
外資に行くなら「本社」を目指せ
――あくまでも仮定の話ですが、もし各務さんが大学生に戻って、就職活動をするとしたら、どこに行きますか?
僕の場合は、ベンチャーに行きますね。100パーセント。
――なぜですか?
大手企業の場合、若手のうちは経営に近いところで働けないからです。特に外資系の日本法人の場合、経営のことは分からない。本社で決めたことが落ちてくるだけだから。起業したい人は、最初からベンチャーに行ったほうがいいと、いまは思っています。ベンチャーの経営は、ベンチャーに行かないと分からない。だから、もしやり直せるなら、僕はベンチャーに行きますね。
――一般的には、将来起業を考えている人でも「まず大手企業で経験を積んでから」という場合が多いようです。その中には、各務さんのように、外資系の金融機関に入ってから起業する人もいますよね。
今後もそういうルートはありだと思いますが、外資系の会社に行く人に僕が言いたいのは、「学校に入るつもりで行くな」ということです。
――どういうことですか?
お金をもらって働くんだから、「トレーニングが充実している」とかいう理由で外資に来るなよ、と言いたいですね。それから、ただ単に「給料が高そうだから」という理由だけで、外資に行くのもやめたほうがいい。きちんとセルフマネージメントできる人でないと、生き残っていくのは難しいと思います。
――逆にいうと、外資系に行けば鍛えられるということでしょうか。
そういう面はあるでしょうね。僕も鍛えられました。自分で自分をマネジメントしていかないといけないので、独立心が養われたと思います。ただ、若い人には「ディレクションを持て」と言いたい。10年後、20年後にどうなっていたいのか、自分の目標を定めて、それに向かって仕事をしていったほうがいい。
――その人なりの戦略を持って外資系企業に入る人も多いと思います。中には外資系の会社で上を目指そうという人もいるでしょう。そんな人には、どんなメッセージを送りますか?
外資に行くなら本社を目指せ、ということですね。
――というと?
外資系の嫌なところは、重要なことが本社で決まってしまうことです。結局、ローカルはローカルなんですよね。せっかく外資系の会社に入るのなら、ローカルで終わるのではなく、本社のマネージメントに食い込むことを目指してほしい。本社の役員になれば、経営に携われる仕事ができるし、報酬も高くなりますから。