外資系企業で働くとは?ハフィントンポスト日本版編集長インタビュー
2017/04/14
#ITベンチャー仕事の実態
#ベンチャーで成果を出すスキル

*こちらの記事は「外資就活ドットコム」からの転載となっております。

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グローバル化の進展とともに、外資系の企業で働く日本人が増えています。メディアの世界も例外ではなく、外国に拠点を置く新興メディアが日本に進出しています。その一つが米国発のネットメディア「ハフィントンポスト」です。

朝日新聞で経済記者などを経験したあと、ハフィントンポスト日本版の編集長に転じた竹下隆一郎さん(36)に「外資系企業で働くこと」の意味を聞きました。(取材・構成/亀松太郎、撮影/岸田浩和)

グローバルに展開する外資系メディア「ハフィントンポスト」

――竹下さんは今年5月、ハフィントンポスト日本版の編集長に就任しましたが、ハフィントンポストというのはどんなメディアでしょうか。

ハフィントンポストは、アメリカではスタートアップの雄というか、ネットメディアがこれだけ盛り上がるきっかけの一つになったメディアです。

――サイト開設は2005年ですね。

そのころは、ネットが今後、ゴミ情報だらけになるのか、もっと可能性があるのかという議論の転換期だったと思うんですけど、ネットでもちゃんとした報道や議論ができるよということを証明したメディアだと捉えられていますね。

――有名なところでは、2012年にピューリッツァー賞(米国での報道の最も権威ある賞)を受賞していますね。

そうですね。ピューリッツァー賞を取ったり、ニューヨークタイムズ(電子版)のユーザー数を抜いたりとか。あとは、今回の大統領選で、ヒラリー・クリントンが演説やウェブサイトでハフィントンポストの記事を引用しています。大統領選の有力候補が引用するメディアになったというのはすごいと思いますね。

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――ハフィントンポストはアメリカでスタートしたあと、ヨーロッパやアジアなどで海外展開をしていますよね。各国版はいくつあるんですか。

いまは、16です。この11月に17カ国目として、南アフリカ版が始まります。

――まさにグローバルに展開しているわけですね。

日本のメディアだけを見ていると、「何々新聞がデジタル化に力を入れている」とか、「バズフィードが日本に来た、大変だ」という話になるんですけど、私は全くそんなふうに見ていなくて、「世界でメディアをどうするか」ということを考えているんですね。

たとえば、フェイスブックがこんなに独占的でいいのかという議論を、編集長同士でよくします。世界のメディアがきちんと残っていくために、フェイスブックとどう付き合えばいいのかとか、フェイスブックがアルゴリズムを変えてきたときにどうするのかということを、みんなで考えています。

「外資」にいないと世界中の人と対等に議論できない

――そういう形で、海外のいろいろな工夫を取り入れたり、海外の編集長と議論したりすることが日々行われているわけですね。

そういうことを日々やっていたら、怖くなってきました。

――どういうことですか?

もしいまも朝日新聞に残っていたら、こんなことを考えていなかったんじゃないか、と。30代という働き盛りのときにこの視野を得られていなかったとしたらどうなるのかと、恐ろしくなってきましたね。

おそらく「外資」という環境にいないと、世界中の人と対等に議論できないと思うんです。これは、ニューズピックスや日経新聞を読んでいても分からないことで、自分の同僚として海外の人と対等に話していないと、この恐ろしさは分からないでしょうね。

たとえば、フランスやアメリカの人が「5年後のメディアは文字がなくなってしまう」と雑談で言ったとしたら、そうなる可能性があるんですよ。そこがリアルな話として入ってくる。こういうことをやっている日本のビジネスパーソンは極めて少ないと思います。

――なるほど。そこでは、どんな議論が行われているんでしょうか。

たとえば、アメリカでは、メディアをめぐる議論が非常に進んでいるんですね。「ジャーナリズムからサービスへ」と言って、メディアはサービス企業になるべきじゃないかと言う人がいたり、「文章の塊」でニュースを伝えるのではなく、「一行ずつ」のニュースのほうがいいんじゃないかという人もいます。

そういう議論が日々、チャットとかグーグルハングアウト(ビデオ会議ツール)で行われているんです。そして、それはすべて英語で行われています。まだ本に載っていないような膨大な情報が、そこでやりとりされています。

――そういう議論が、ハフィントンポストの社内で行われている、と。

社内のチャットと、あとはブログですね。アメリカのメディアに入ってしまえば、誰がどんなことを発信しているのかが分かります。その議論をフォローしているかどうかで、大きな違いが出てくると思います。

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――ネットはオープンな世界で、日本にいても海外のブログにアクセスできると思いますが、活用しきるのは難しいということでしょうか。

日本語のネットはクローズドで、英語のネットはオープンだと思うんですね。多くの日本人はクローズドな日本語のネットしか知らないと思います。いまのソーシャルメディア時代を本当に体現しているのは英語のネット環境で、英語のネットを見ないとチャンスも情報も全然違う。日本語は、ネットでは滅びていると思いますね。

――少し前に「日本語が亡びるとき」という本(2008年に筑摩書房から出版された水村美苗氏の評論集)が流行りましたよね。

私が2014年から15年にかけてスタンフォード大学に客員研究員としていたとき、「日本語が亡びるとき」をもう一回読んだんですよ。すごくリアリティがあって、恐ろしくなりました。ネット時代にこそ読まれるべき本だと思います。

人間関係を「フラット」にしないと情報が入ってこない

――ハフィントンポストは外資系の会社ですが、日本の企業とカルチャーの違いはあるんでしょうか。

私が5月に来てから、良くコミュニケーションをとっていて、信頼していたアメリカ側の中心的人物が、2人も辞めているんですよ。半年も経たないうちに、大事なプレイヤーが辞めている。そうなると、会議で話していても「この人と次は会わないかもしれない」と思うんです。次には転職しているかもしれない、と。

――いつ転職するか分からないというのは、外資系企業らしいですね。

その緊張感がたまらないですね。半年で2人も、自分が信頼していた中心的社員が辞めたとしたら、「このミーティングですべてを出し切らなければいけないな」と思うんですよ。その緊張感というか、時間を大事にしている感じがすごくいいです。

――「一期一会」ですね。一方で、日本の会社、特に古い会社は全く逆で、経験のある社員が1人辞めるたびに大騒ぎするという感じがありますね。竹下さんが朝日新聞を退社したときも、そうでしたよね。

そうでしたね、大騒ぎでしたね。

――外資系と日本企業と、何が違うんですかね。

一期一会をちゃんと考えているかどうかでしょうね。きちんと一期一会で会話をしていたら、途中で辞めても「貸し借り」がないはずなんですよ。

――「貸し借り」というのは?

日本の会社員は、貸し借りで生きているんですね。会社が若手の社員をプロというよりは教育する対象と捉えている。だから、会社を辞めようとすると「お前、教育したやったのに返していないじゃないか」と、緊張関係が走るんです。そういう「貸し借り」が発生しているから、退社のときにこじれるんじゃないですかね。

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――外資系と日系の企業がそれだけ違うと、移ってきて戸惑うことはないんですか?

戸惑うことはないですね。もともと、自分の中にあった「外資系的な部分」が花開いたというか。すごくやりやすいです。

――それは面白いですね。

私はできれば、日本語の敬語をなくしたいんですね。いまも敬語を使っていますけど、不自由で、自分の中で翻訳して話している感覚があるんですよ。その点、外資系のハフィントンポストは、日本語の敬語を使っていても、もう少しフラットな関係になっています。もちろん英語を話しているときは敬語が要らないので、気が楽です。

――人間関係が日本企業よりもフラットというのも、外資系の特徴でしょうか。

日本の企業の会話は「先生・生徒モデル」で、どちらかが教えて、どちらかが教わるという関係だと思います。日本の組織の問題もありますが、「敬語」の問題もあると思うんです。上の人が間違えていたときに敬語で訂正するのって、難しいですから。

――竹下さんの場合は、フラットなほうが気持ちがいいんですね。

一つは、できるだけ多くのことを知りたいという気持ちがあって、そのためにはフラットにしないと情報が入ってこないと思うんですね。水と一緒で、水は上から下へ流れますけど、下から上へは流れないじゃないですか。フラットにしていけば、水にいつでも触っていられるし、水の流れを気にしなくてもいい。

――そういう人間関係のフラットさが「外資系的な部分」ということですね。

そうですね。フラットな部分が一番大きいと思いますね。

竹下隆一郎さんプロフィール

1979年生まれ。慶應義塾大法学部政治学科卒。2002年に朝日新聞社に入社。経済部などで記者を経験した後、2013年からR&Dや新規事業を展開する「メディアラボ」に所属。2014年~15年、米スタンフォード大の客員研究員。2016年4月末に朝日新聞社を退職し、5月よりハフィントンポスト日本版の編集長に就任。 「議論やつぶやきではなく、『会話が生まれる』メディア」をめざしている。最近は、ネット時代にふさわしい「新しいリベラルのかたち」を考える記事や、ネット上の話題をもとに対話を促す報道が話題を呼んでいる。

コラム作成者
Liiga編集部
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