裁量労働制は「残業代ゼロ」なのか?裁量労働で残業代が貰えるケースと金額・注意点を解説
2022/12/27

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裁量労働制であっても、条件を満たせば残業代や割増賃金を受け取ることができます。権利を主張するためにも、残業代が請求できるケース、残業代の計算方法、「残業代ゼロ」と言われた時の対処法を確認しましょう。



【前提】裁量労働制は「みなし労働制」の一種

裁量労働制は「みなし労働」の一種なので、実際の労働時間に関わらず「定められた時間の労働をした」と見なされます。みなし労働時間が8時間だった場合、実際の労働時間が7時間でも9時間でも、「8時間働いた」と見なされます。

また通常のみなし労働の場合と違い、裁量労働制であれば「何時間働くのか」を労働者自身が決めることができます。

裁量労働制で残業代が貰えるケースと計算方法

裁量労働制を採用しているからといって、法定労働時間を超えた場合の割増賃金や、深夜や休日に働いた場合の手当の対象外になる訳ではありません。
そのため以下の3つのケースでは、労働者は残業代を請求することができますし、雇用主は残業代を支払う義務があります。

ケース①みなし労働時間が法定労働時間を超えている時

日本では、法定労働時間は「1日に8時間、1週間に40時間まで」と定められており、これを超えた場合には基礎賃金の1.25倍の割増賃金(残業代)が発生します。そのため、例えばみなし労働時間が9時間だった場合、法定労働時間を超えた1時間分については、残業代が発生します。
この場合、残業代は以下のように計算します。

平日1日の残業代=1時間当たり基礎賃金×1.25×(みなし労働時間-8時間)


みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合、上記の残業代が給与に含まれていなければなりません。「残業代が払われていないのでは」と思ったら、みなし残業時間や給与の内訳を確認してみましょう。

ケース②深夜労働をした時

22:00〜5:00の労働に対しては、基礎賃金の0.25倍の残業代が追加で発生します。そのため、例えばみなし労働時間が8時間で実際には12:00~24:00まで働いた場合、労働時間は8時間と見なされますが、22:00~24:00の割増分は受け取ることができます。 深夜に労働した場合の割増分は以下のように計算します。

深夜1時間当たりの割増分=1時間当たり基礎賃金×0.25


裁量労働制やみなし残業を取り入れていない給与体系であれば、深夜労働に対して基礎賃金の1.25倍が支払われます。裁量労働制で0.25倍の「割増分」しか貰えないのは、基礎賃金分はみなし労働時間に含まれてしまうからです。

ケース③休日労働を行った時

休日労働に対しては基礎賃金の1.35倍の賃金が発生し、これは裁量労働制であっても適用されます。 ただし厳密には、休日にも「週に1日または4週に4日設けなくてはならない法定休日」と「会社が自由に定める所定休日」があり、割増賃金が発生する休日労働は「法定休日の労働」のみです。

法定休日に勤務をした場合は裁量労働制で定めたみなし労働に含まれないため、例えば法定休日に4時間働いた場合は、4時間分の割増賃金を請求することができます。 休日に労働した場合の残業代は、以下のように計算します。

休日1時間当たりの残業代=1時間当たり基礎賃金×1.35


なお、法定休日の深夜に労働した場合は、休日労働の1.35倍と深夜労働の1.25倍を合計した1.60倍の賃金を受け取ることができます。

【関連記事】残業は何時間以上だと長い?平均残業時間と違法となる時間数

基礎賃金の計算方法

1時間当たり基礎賃金=(月給)÷(1ヶ月当たり平均所定労働時間)

月給には、基本給と一部の手当を含みます。ただし家族手当、通勤手当、住居手当など、労働の対価というよりは従業員の個人的な事情に対して支払われるものは計算に含みません。

1ヶ月当たりの所定労働時間の大まかな数字は、「(1ヶ月の勤務日数)×(1日の所定労働時間)」で算出することができます。
厳密に計算したいのであれば、「(1年間の勤務日数)×(1日の所定労働時間)÷12ヶ月」で求めることができます。

例えば月給が40万円、1年間の勤務日数が240日、1日の所定労働時間が8時間の場合、1ヶ月当たりの所定労働時間と基礎賃金はそれぞれ以下のようになります。

  • 1か月あたりの所定労働時間=240日×8時間÷12か月=160時間
  • 基礎賃金=40万円÷160時間=2500円

裁量労働制とみなし残業の違い・併用

裁量労働制は「みなし労働」の一種ですが、この他に「みなし残業」という制度もあります。名前は似ていますが、裁量労働制とみなし残業制は全く別物です。

みなし残業制は固定残業制とも呼ばれ、給与に一定時間分の残業代が含まれています。

例えばみなし残業が20時間の場合、20時間分の残業代が予め給与に含まれており、実際の残業が10時間であっても20時間分の残業代を受け取ることができます。一方で実際の残業時間がみなし残業時間より長い30時間の場合には、超過した10時間分の残業代を追加で受け取ることができる制度です。

これに対して裁量労働制の場合、平日に何時間労働したとしても、みなし労働時間の分だけ働いたと見なされ残業代は発生しません。

「残業代ゼロ」と言われた時の対処法

既にご紹介した通り、裁量労働制であっても休日や深夜など残業代が発生するケースがあります。それにも関わらず会社が残業代を支払ってくれない場合は、以下のような対処法があります。

対処法①自社の裁量労働制は適切なのかを確認

まずは「自分は本当に裁量労働制の対象なのか」「自社の裁量労働制は適切なものなのか」を確認しましょう。裁量労働制の対象外である場合、また会社の裁量労働制そのものが違法である場合、制度は無効)となります。

実は、裁量労働制を適用するには厳しい条件があります。裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、例えば前者の専門業務型裁量労働制は以下の19業務の人にしか適用できません。この他にも、様々な条件があります。

  • 新商品・新技術の研究開発
  • 情報処理システムの分析・設計
  • 新聞・出版や放送番組の制作取材・編集
  • ファッションデザイナー、インダストリアルデザイナー、グラフィックデザイナー
  • 放送番組、映画などのプロデューサー、ディレクター
  • コピーライター
  • システムコンサルタント
  • インテリアコーディネーター
  • ゲームソフト作成者
  • 証券アナリスト、金融商品開発者
  • 大学研究者、大学教授
  • 公認会計士
  • 弁護士
  • 建築士
  • 不動産鑑定士
  • 弁理士
  • 税理士
  • 中小企業診断士


もう一つの裁量労働制である企画業務型裁量労働制は条件が更に厳しく、適用されている人は全労働者の0.2%(出典:厚生労働省令和4年就労条件総合調査)のみです。

厚生労働省も、不適切な裁量労働制をとっている企業に対して指導や社名公表を行うことを発表しています(出典:厚生労働省報道発表)。そのため、まずは自社の裁量労働制が適切なものなのかを確認してください。

対処法②自分の勤怠を記録しておく

残業代を請求するには、残業していたことを示す証拠が必要です。以下のような記録が有用ですが、手書きのメモや手帳でも証拠として認められる場合があります。

  • 新商品・新技術の研究開発
  • タイムカード
  • 業務用パソコンの使用時間記録
  • メールの送受信履歴
  • 日報


また残業代を正しく計算するために、雇用契約書、就業規則、給与明細書なども必要になります。

対処法③内容証明の送付や労働基準監督署への相談を検討する

直接会社と交渉するのであれば、まずは会社に支払請求書を送付しましょう。 それでも残業代が支払われない場合は、内容証明郵便で改めて支払請求書を送付してください。「残業代を請求した」という記録が残り、残業代請求権の消滅時効を止めることができます。

会社と直接やり取りするのを避けたい場合は、労働基準監督署や弁護士に相談するという選択肢もあります。 労働基準監督署とは、企業が労働に関する法令を守っているかを監督する機関です。立ち入り検査や是正勧告などをしてくれるので、穏便に済ませたい場合は、まずは労働基準監督署に相談するところから始めても良いでしょう。ただし必ず立ち入り検査に来てくれる訳ではない点に注意が必要です。

転職するなら残業について情報収集を忘れずに

転職を考えているのなら、応募先や内定先の労働時間制度や残業時間についてきちんと確認しておきましょう。

最近はインターネットで実態を調べることもできますし、その企業や業界に詳しい転職エージェントに話を聞くのも良いでしょう。「残業時間が少ない企業」「平均残業時間が20時間未満の会社」といった希望を伝えて企業を紹介してもらうこともできます。

Liigaでは、担当者のプロフィールや口コミを見ながら転職エージェントを選ぶことができます。ぜひ志望する企業・業界にぴったりのエージェントを見つけてください。

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コラム作成者
Liiga編集部
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