刺激もリターンも得られる、知る人ぞ知るキャリア「日本人第一号社員」の実情
2023/06/07
#コンサルを出てやりたいことを見つける
#「日本第一号」たちの未来志向

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新卒でコンサルティングや金融といった業界を選んだ人にとって、どんなネクストキャリアが有望か。プライベート・エクイティ(PE)ファンド、国内スタートアップのCxO、大企業の経営企画あたりが、代表例かもしれない。

他方、海外スタートアップの日本上陸時に参画する「日本人第一号社員」は、上に記したキャリアに引けをとらないほど経験値や報酬を得られるものの、さほど知られていない。

今回は、このポジションの経験者2人を紹介する。1人目は、アクセンチュアやOYO(*1)などへの勤務を経て、シンガポール発スタートアップのZenyumに初の日本人社員として参画した、伊藤祐さん。2人目は、A.T. カーニーに勤めた後、OYOに伊藤さんより早く入り、日本事業の立ち上げを主導した菊川航希さんだ。

「“ミドルリスク”で、コンサルだとできないゼロから事業を作ることにチャレンジできる」(伊藤さん)という日本人第一号社員。その魅力を、2人の言葉からひもとく。【藤崎竜介】

(日本人第一号社員については、連載特集「『日本第一号』たちの未来志向」でも経験者のインタビュー記事を読むことができます)

*1 社名はOravel Stays、本文では全てOYOと表記

〈Profile〉
写真左/伊藤祐(いとう・たすく)
Zenyum Japan代表取締役CEO(最高経営責任者)。
慶應義塾大学経済学部卒。2011年にアクセンチュアに新卒入社。フロスト・アンド・サリバンでの勤務を経て、2019年にOYOに参画し、Head of Strategy(戦略企画室長)などを務める。2021年に日本人第一号社員として、歯科用透明マウスピース矯正サービスなどを展開するZenyumに入社。
同右/菊川航希(きくかわ・こうき)
ヨセミテ 代表取締役。
東京大学工学部卒。2015年にA.T. カーニーに新卒入社。2018年にOYOに日本人第一号社員として参画し、OYO LIFEの事業開発を統括する。ソフトバンクに移りビジョン・ファンド事業にかかわった後、2022年に消費財領域のモノづくりプラットフォームを手がけるヨセミテを創業。



起業の相談のつもりが……『それやっちゃいなよ』で無名の海外スタートアップに参画

――伊藤さんはZenyum、菊川さんはOYOの日本人第一号社員として、日本事業を立ち上げました。それぞれ、会社との出合いはどのようなものだったのでしょうか。

伊藤:(Zenyumの前に在籍していた) OYOでHead of Strategyとして働く中で、面白く刺激的な体験をさせてもらっていました。ただやっていく中で、自分自身で全責任を持って売り上げを伸ばしコストを最適化して、いいサービスを社会に出していくことは、やっぱりトップオブトップ(ここでは経営者の意味)じゃないとできないと思うようになっていました。

他方で(自分について)ちょっとネガティブなことを言うと、自分自身はゼロから何かを立ち上げてスタートアップをやるみたいなリスクは取りづらいし、クリエーティビティ―も欠けていると思っていました。

その上で得意分野である英語とかコンサルティング、事業開発みたいなスキルを生かせるという意味で、外資系企業の日本法人立ち上げや、そこからのマネジメントができないかなとぼんやりと思っていたんです。それが2021年の4~5月あたりでした。 description

ただ、その前に海外でMBA(経営学修士)を取得しようと思っていました。なのでIELTS(*2)やGRE(*3)の勉強をして応募の準備をしていたのですが、ちょうどその頃LinkedInでZenyumから誘いを受けたんです。

*2 国際的に認知された英語検定で、正式名はInternational English Language Testing System *3 北米などの大学院が用いる共通試験、正式名はGraduate Record Examination

――菊川さんはどうでしたか。

菊川:(OYOに参画したのは)2018年なのですが、それまで僕はA.T.カーニーで働いていて、(入社から)3年半経ったタイミングで次のキャリアを探していました。一番の候補は、実は起業だったんです。いろいろな事業を検討していたのですが、「これ」というものが見つからなくて……。

その間にいろいろな人たちと話をしていたのですが、もともと学生起業で民泊とかホテルをやっていたので、その領域もちょっと見ていたんです。そのときに、ヤフーの小澤さん(小澤隆生さん、ヤフー代表取締役社長)に、たまたま相談する機会があって。

そうしたら「ホテル関連の事業とか考えているんだったら、今度、OYOという会社の日本進出を一緒にやるんだけど、やらない?」と、『ユー、それやっちゃいなよ』みたいな感じで勧めてくれたんです。 description

――その誘いに乗ってOYOに入ったわけですね。

菊川:ええ、似た領域での起業を検討していたので、初めからすごく興味があったわけではありません。でもすごく熱心に誘ってくれて、その後OYOのCGO(Chief Growth Officer、最高事業成長責任者)のカビ・クルートを紹介されたんです。

で、初めてカビと会った時は、気づいたら2人で3時間くらい話し込んでいて……これは面白そうだなと思い、次の日には汐留にあるOYOのオフィスで働いていましたね。

――翌日ですか……ではカビさんの話の中身が、すごく魅力的だったのでしょうか。

菊川:そうですね。学生時代にやっていた民泊関連の事業やその時考えていた起業アイデアに、OYOのビジネスモデルと似た部分があったんです。宿のオーナーに代わって運営を担う感じですね。OYOはそのビジネスで、本気で世界市場を取りにきていました。

テクノロジーを活用していて、またオペレーションやブランディングの戦略も練っていて、あとはソフトバンク・ビジョン・ファンドという資金面の強大な後ろ盾もありましたし。

そういう整った環境で、学生時代やっていたことに再チャレンジするのも面白いかな、と思ったんです。

――伊藤さんは、Zenyumのどんなところに魅力を感じましたか。

伊藤:事業を通じてどんな社会課題を解決するかが明確になっていて、またヘルスケアという伸びしろのある領域でもある。かつ世界的なベンチャーキャピタル(VC)のセコイアキャピタルなどから計70億円くらいを調達している点も、将来性の表れだといえます。経営ポジションにチャレンジする上で、申し分のない環境だと感じましたね。

あとは、サービスそのものの魅力も大きいと思います。自分自身が心から愛せて、大切な人にも自信を持って勧められるサービスかどうか。この点は、個人的にすごく大事にしています。

本国との調整など「ステークホルダーマネジメントは大変……」

――実際に日本人第一号社員として参画して、このポジションの「よさ」はどんな点にあると感じましたか。

菊川:まずは、グローバルのダイナミックさを持ってゼロから立ち上げられることが魅力です。いい意味で、(進出先には)何もないので、自分が1人目だと採用からオペレーションや営業まで、ほとんどすべてのことをやらないといけません。役職は、事業開発として入りましたが、最初の頃は、実質ほぼ全部やっていました。

例えばヤフーとのリーガル面の折衝(*4)でも、日本語がしゃべれて日本の商慣習を分かっている人が僕しかいなかったので、「待望の日本人が来た」みたいな感じで、あらゆる案件が僕に来ました。まさに期待通りというか、それくらい“ゴリゴリ”と、ゼロから全部やりたいと思っていたので、すごくよかったですね。

*4 OYOは日本上陸当初、ヤフーと合弁会社を立ち上げて事業を推進した。提携関係は解消済み

――他方で「難しさ」もあるのではないかと、想像します。

菊川:やっぱり本社は別にあって、違う国で本当の経営的な意思決定が行われるのは、難点ですね。OYOの場合だとヤフーとのジョイントベンチャー(合弁会社)という形で日本法人が立ち上がりましたが、そうすると株主がインドと日本にいることになるので、そのステークホルダーマネジメントが特に大変でした。

起業や創業期の国内スタートアップと比べ“ミドルリスク”で、リターンも魅力

――伊藤さんは、日本人第一号社員の「よさ」「難しさ」についてどう感じますか。

伊藤:菊川さんの話と重なるところはあります。僕もゼロから、つまり日本法人を立ち上げるところからやる必要がありました。銀行口座の開設、社名の検討、採用、あとプロダクトの日本語翻訳とかですね。

コンサルティングファームのような大きな会社にいては絶対にできない、ゼロから実際に何かを作っていくというプロセス、これはすごく楽しかったし、力にもなったなというところが1点目のいいところです。

2点目は、「虎の威を借りられる」ことだと思います。(起業して)自分だけでゼロから作るのは大変ですが、Zenyumの場合はセコイアキャピタルの名前とか、あとグローバルのそれまでの成果を使えたりするので、そこはすごくやりやすいですね。

――難点はいかがでしょう。

伊藤:PL(損益)をグローバルで見ているので、予算とか売り上げ目標とかが結構厳しいときはあります。結局スタートアップではどの会社でも変わらないとは思いますが、その予算の作成とかが、どちらかというと(本社主導の)トップダウン気味な印象ですね。

とはいえ、主張できる場面とかはあるので、意見を言って調整してもらえますし、かつ、それをちゃんと達成できていたら、いい意味で“放置”してもらえます。

菊川:メリットについて補足すると、リターンの面も大きいと思います。例えば外資系コンサルの人が国内スタートアップのCxOになっても年収が下がることはよくありますが、日本に来るくらい力のある海外勢だと、そのあたりの事情は少し違います。特に勢いのある企業の場合はなおさらです。

なので、リスクとリターンが「いいあんばい」のキャリアといえるのではないでしょうか。

――確かに起業や創業期の国内スタートアップのCxOと比べると、報酬などいろいろな面でリスクは少ないかもしれませんね。

伊藤:そこはZenyumへの参画を決める際、意識しました。要は“ミドルリスク”で、コンサルだとできないゼロから事業を作ることにチャレンジできる。この点が、魅力的に映ったわけです。

菊川:さらに、ストックオプションなど給与以外のリターンが設計されているケースもあります。実際に海外スタートアップの日本人第一号社員に挑戦して、その企業の上場後、まとまったリターンを得た知人もいます。

1人目のユーザーにトンカツ屋でヒアリング……立ち上げ期だからこその高揚感

――日本人第一号社員として参画・勤務する中で、印象的だったエピソードはありますか。

菊川:既に述べた、初めてCGOのカビと話した時ですね。汐留のスターバックスで会ったのですが、カビが突然、店員さんにペンを借りて紙ナプキンに絵を描き始めて……。

――どんな内容だったのでしょうか。

菊川:OYOのビジネス方程式、要は日本での成長ストーリーです。インドや他国でどうやって勝ってきたか、日本ではどう戦っていくのか、そのための重要要素を図解で示してくれたんです。それで、「明日から、これをやってくれ」と。いきなり言われて「うそだろ!?」みたいな感じでしたが……結局、それが一番印象に残っていますね。

インドでもグローバルでも、勝つための本質的な要素はこれだ、という強烈な信念が、ひしひしと伝わってきました。そして、その信念に基づいた“口説く力”で、いろいろな人や組織を巻き込みながら事業を伸ばしていく――。これが当時のOYOの強さだったんだと思います。

――伊藤さんはどんな経験が印象に残っていますか。

伊藤:日本事業が始まった頃、初めてのユーザーがクリニック(*5)に処置を受けに行くのに、同行した時ですね。今はさすがにできないですけど、当時はユーザー一人一人に対して、クリニックまで同行してサポートしていたんです。1人目のユーザーに向き合いつつ、「やっとビジネスがスタートする」という感じでとてもうれしかったですね。

*5 ここではZenyumが連携する歯科医院の意 description

そのユーザーは留学生で日本語が流暢ではなかったので、僕がクリニックとのコミュニケーションを助けたりして……。

終わった後に、日本食が好きだというのでおいしいトンカツ屋さんに連れて行ってあげて、いろいろとサービスの感想を聞くことができました。うれしさや高揚感のせいか、この時のことは忘れられません。

外資で“生き残る”のに必要なのは、状況や思いを「アウトプットする力」

――ミドルリスクという話が出ましたが、とはいえ外資系企業、特にスタートアップだとレイオフなどのリスクはあるのではないかと思います。2人とも、コンサルタント時代を含めキャリアの大部分を外資企業で過ごしていますが、外資で“生き残る”には何が大事だと考えますか。

伊藤:アカウンタビリティーですね。日本語だと、説明責任。今やっているカントリーマネージャーの立場だと特にそうですが、うまくいった場合は、なぜうまくいったか、次さらに1.5倍にするにはどうすればいいかなどを説明しないといけません。

逆に(目標に対して)未達の場合は、どこに問題があったのか、マーケティングなのか、セールスなのか、ローカライズが間に合っていないのか……。それを踏まえて、「こうすれば次はうまくいく」などと説明できるかどうかですね。

コンサルティングファームのマネージャーとか、スタートアップのカントリーマネージャーとか管理職系の職位だと、このアカウンタビリティーは特に大事だと思います。その素養がありそうかは、面接とかでも結構見られるのではないでしょうか。

菊川:外資系企業を目指す理由として、若いときから権限を持ってフラットに働けることを期待する人が、多いのではないかと思います。ただ、それをちゃんと生かせるのは、自分のやりたいこととか、こうやったほうがいいと思っているとかを、論理的に伝えられる人です。

大事なのは自分の仮説に自信を持って、それを伝わる形にした上で、上司などに向けてアウトプットする力。「いや、違うじゃん」っていわれて、ボツになることも若手の頃は往々にしてあると思います。でも、それをやり続けると筋がいいことをいえるようになって、信頼されるようになる。そうなれば、年齢とかに関係なく、いいポジションを与えられたりするんです。

そういうのは、まさに外資ならではかもしれませんね。 description

(日本人第一号社員については、連載特集「『日本第一号』たちの未来志向」でも経験者のインタビュー記事を読むことができます)

コラム作成者
Liiga編集部
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