社費留学では多額の費用を企業に負担してもらい、学びの機会を得ることができます。キャリアにキズが付くこともなく、自己負担を抑えて自分の市場価値を高めることが可能です。
ここでは社費留学制度の概要や制度を導入している企業、社内選考に通過するポイントなどを解説しています。
社費留学制度とは
社費留学制度とは、企業が学費などを負担した上で、社員を海外留学などに派遣する制度です。
社員に学びの機会を与え、そこで得た知識やスキルを企業で活かしてもらうことを狙いとしています。
特に有名なのはMBA取得を目的とした留学ですが、「社費留学=MBA留学」という訳ではありません。例えば「技術系の社員が理系大学院に留学する」といったケースもあります。
社費留学で補助してもらえる費用
留学に必要な費用は行き先の国や留学期間、その時の為替レートによっても変わりますが、少なくとも1,000万円ほど、場合によっては3,000万円以上かかります。
例えばアメリカでMBA取得を目指すなら、2年間の留学で以下のような費用が発生します。
- 学費:1,000万円~2,400万円
- 住宅費:200万円~800万円
- その他(飛行機代、ビザ申請費用等):30万円~100万円
※食費や交際費は除く。また費用相場は為替レートによって変動する
社費留学における費用補助の範囲は企業によって異なりますが、学費はもちろんのこと、住宅費も全額または一部を補助してもらえるケースが多いです。また飛行機代やビザの申請にかかる費用、予防接種代なども補助してもらえることが多く、企業は留学にかかる大部分の費用を負担してくれます。
海外留学での学費の具体例
ここでは各種MBAランキングの中でも評価の高いHarvard Business SchoolとStanford Graduate School of Businessを例に、学費をご紹介します。
《1年あたりの学費》
- Harvard Business School:7万4,910ドル(=約1,086万円)
- Stanford Graduate School of Business:7万9,860ドル(=約1,158万円)
※日本円での換算額は、1ドル=145円で計算
上記の金額は1年あたりの学費で、MBA取得のためには2年の留学が必要です。入学金や教材費も別途発生します。さらに多くのスクールでは、6〜8月にサマースクールを開催しています。参加費用は数十万円がかかりますが、社費留学ではこの費用も負担してもらえるケースがあります。
留学中は給与も支給される
社費留学では、留学中でも給与を受け取れるのが一般的です。なかには海外駐在手当を支給している企業もあり、「留学中でもお金が貯まった」という声も度々聞かれます。
企業によっては留学による休職を許可しているケースもありますが、この場合は私費留学をしなければいけません。私費留学では学費や生活費で数千万円もの出費が発生します。また自己都合による休職では、原則として給与を受け取ることもできません。
社費留学における注意点
膨大な留学費用を企業に負担してもらうことができ、且つ留学期間中の給与や帰国後の職場も約束されている社費留学制度。しかし、制度の利用にあたっては注意すべき点もあります。
帰国後数年は退職しにくい
企業が数千万円もの費用を負担して社員を留学させるのは、将来その企業で活躍してもらうためです。しかし海外留学やMBA取得の実績は社員の市場価値を高めることになるため、帰国した社員が転職してしまうケースも多々あります。
そこで多くの企業は、社員の転職を防ぐため「帰国後3〜5年以内に自己都合で退職した場合は留学費用の返還を求める」といったルールを設けています。
留学先を自由に選ぶことができない
同じMBA取得でも、トップスクールで学べばその人の市場価値はさらに跳ね上がります。しかし社費留学では、基本的に企業が選定しているスクールに留学することになります。そのため自分で自由に留学先を選ぶことはできません。
社費留学制度のある企業
社費留学制度は全ての企業にある訳ではありません。ここでは社費留学制度のある企業を一部ご紹介します。
業界 | 社費留学制度のある企業 |
---|---|
メーカー | 旭化成、アサヒビール、味の素、キャノン、サントリー、資生堂、ソニー、トヨタ自動車、パナソニック、日立製作所、三菱重工業、三菱電機 |
金融機関・保険会社 | 損害保険ジャパン、東京海上日動火災保険、日本生命保険、野村證券、みずほFG、三井住友銀行、三菱UFJ銀行 | 総合商社 | 伊藤忠商事、三井物産、三菱商事 |
コンサルティングファーム | 野村総合研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、マッキンゼー・アンド・カンパニー |
その他 | NTTドコモ、エネオス、KDDI、三菱地所 |
※募集要項や人材育成に関する企業ページ、過去のインタビュー記事などをもとに情報を掲載していますが、現在は制度が廃止されている企業が含まれる可能性もあります。
Q. 社費留学制度の有無の確認方法は?
社費留学制度のある企業は、新卒・中途採用の募集要項や人材育成(教育制度)の紹介ページで制度について記載していることが多いです。また、採用関係のFAQページに「よくある質問」として記載されていることもあります。
記載がない場合や詳細を知りたい場合は、企業に問い合わせてみても良いでしょう。
社内選考の流れと応募条件
殆どの企業では、社費留学の実施にあたって社内選考を行っています。ここでは社内選考の流れと応募条件について解説します。
社内選考の流れ
社内選考の方法は企業によって異なるものの、一般的な流れは以下の通りです。
- 応募
- 書類選考(志願書、小論文など)
- 面接(2~3回ほど実施する場合が多い)
- 選出
書類選考では、社員のこれまでの実績や語学試験のスコア、志願理由などが確認されます。また社費留学の後に「何をしたいのか」「どのように企業に貢献できるのか」を小論文で提出させる企業も多いです。
競争倍率が非常に高いこともあり、面接は2〜3回ほど行うのが一般的です。なかには英語面接を課す企業もあります。
社内選考の応募条件
元々倍率の高い選考ということもあり、企業では一般に以下のような応募条件を定めています。
- 企業での就業年数(5~10年目の社員など)
- 英語力(TOEFLで100点以上など)
- 上司からの推薦書
- 社内評価の高さ、実績
社内で高い評価を獲得し、周囲から信頼されていることはもちろん、就業年数の条件にも注意しましょう。今後の活躍を見据えて仕事に慣れてきた5〜10年目程度の社員を対象にするケースが多いですが、なかには3〜5年目の若手社員を対象とする企業もあります。
Q. 社内選考の競争倍率はどれくらい?
社費留学(社内選考)の競争倍率は、企業規模にもよりますが、約50倍と言われています。「2〜3人の枠に対して100人前後が応募」というケースが多いようです。
社内選考を通過するための4つのポイント
ここでは倍率が約50倍とも言われる社内選考に通過するためのポイントを、4つに絞ってご紹介します。
ポイント①短期~長期の目標を明確にする
応募にあたっては、以下のポイントを明確にすることが小論文や面接の軸になります。
- なぜ留学したいのか(何を学びたいのか)
- 学んだことを何に活かしたいのか
- さらにその先で何を達成したいのか
つまり留学〜帰国後の働き方について、目標を明確にすることが重要です。自分自身のキャリアについて考えることはもちろん、留学先のスクールの特徴や企業の経営方針までしっかり調べ、それらを踏まえた上でビジョンを描くようにしましょう。
社費留学経験者の体験談より
重要視されるのはやはり語学力と、この留学にかける熱意だと感じます。こと熱意に関しては、面接時の直接アピールに勝るものはありません。
留学先やその他各種情報について調べ上げるのは当然のことです。それに加えて、会社の経営方針を把握して自分がいかに企業に貢献できるかをアピ―ルしたり、他者と比較して差別化できる経験・スキルを分析したり、ロジックを組み立てて簡潔にプレゼンしたりすることも大切なことでしょう。
ポイント②TOEFLで100点以上を取る
入社時や昇進時には、TOEICのスコアを見られることが多いです。しかし留学では、一般にTOEFLのスコアが重視されます。なぜなら留学先のスクール側の応募要件として、TOEFLのスコアを求められることが多いからです。
TOEFLでは少なくとも100点、できれば110点以上をマークしましょう。企業によっては選考中に数回TOEFLを受験させ、スコアの経過を見るケースもあります。TOEICと違ってスピーキングやライティングの実力もチェックされるため、選考応募期間の前からしっかり対策をしてください。
GMATの受験が必要な場合も
MBAなどのスクールでは、応募要件としてGMAT(Graduate Management Admission Test)のスコアも求めるケースがあります。
GMATとは、ビジネススクールで学ぶために必要な基礎学力や思考力を測る試験です。「言語能力(Verbal)」「数学的能力(Math)」「分析的思考力(Data Insights)」の3分野があり、英語以外の能力もチェックされます。
800点満点の試験で平均点は550点前後ですが、MBA留学などでは「650〜700点以上が必要」と言われています。
ポイント③高い社内評価と実績を得る
企業として留学先に送りたいのは、当然ながら「優秀な人材」です。そのため社内で高い評価を獲得し、できる限り目に見える実績(=書類に書ける実績)を残しましょう。
優秀な人材と認めてもらうには、多くの仕事をこなすだけでなく、周囲との信頼関係の構築も重要です。特に、上司には推薦文を書いてもらう可能性があるため、積極的にコミュニケーションを取りましょう。留学の目標を伝えてアドバイスを求めたり、仕事を多く振ってもらったりするのも一つの方法です。
ポイント④小論文・面接は人に見てもらう
小論文の添削や面接練習は、上司や実際に社費留学を経験した社員などに付き合ってもらいましょう。一人で対策すると、客観性を失いがちだからです。
事前に小論文や面接の回答集を作成した上で添削や面接練習を依頼し、「欠けている視点はないか」「もっとアピールできる要素はないか」などアドバイスをもらいましょう。
帰国後のキャリアパス
先にご紹介したように、多くの場合、帰国から数年は派遣元の企業に残ることが求められます。企業に残れば、順調に出世できる可能性が高いです。また日系企業であれば、海外駐在のチャンスなども巡って来るでしょう。
一方で、社費留学をした場合は転職市場での価値が上がります。特に外資系企業に転職すれば、大幅な年収アップを狙える可能性が高いです。そのため「今よりもっと稼ぎたい」という人は、派遣元企業が設定した期限を目安に転職を視野に入れると良いでしょう。
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現在はあらゆる業界でグローバル化が進んでおり、「世界を舞台に活躍したい」と考える人も少なくありません。こうした人にとって、社費留学は大きなチャンスです。
社費留学制度のある企業で勤めたい場合は、転職エージェントなどに相談してみましょう。希望している業界の中から、導入企業を紹介してくれる可能性もあります。
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