はじめに
外資、日系、大手、ベンチャーなど転職の選択肢はさまざまですが、スタートアップもその1つ。Liiga会員のみなさんの中にも、キャリア戦略としてスタートアップへのジョインや、自ら起業することを検討されている方もいるのではないでしょうか?
25年間ベンチャー企業の成長戦略に携わっているジャフコ・パートナー三好啓介氏、国内に留まらず、海外事業への投資も手掛けるRecruit Strategic Partners・シニアヴァイスプレジデント松田仁史氏。先日リクルートキャリアによって開催された「VCが語るスタートアップの選び方」セミナーでは、ベンチャーキャピタリストの両氏によるパネルディスカッションが行われました。
2部作の第1回となる本コラムでは、スタートアップの選び方について、リアルな現場を体験しているプロフェッショナルの視点をご紹介します。
・スタートアップを見極める軸は「共感」
・注目は「掛け合わせ」のビジネス
・スタートアップはこの先も成長し続ける
スタートアップを見極める軸は「共感」
ーー25年間スタートアップ企業の成長戦略に携わられている三好さん、海外投資を多く手掛ける松田さん、お二人は投資先を判断する際の基準、気をつけていることはありますか。
三好:以前は、投資判断をする際には、経営者や企業の成長性などの観点から見極めていました。しかし、今は、見極めるという感覚ではなくなってきています。 「この経営者と一緒に事業を創っていけるのか、事業を伸ばしていけるのか」という点で、投資するかどうかを決めています。
社員数10名程度といったフェーズのスタートアップに出資することが多く、我々がもっているリソースやネットワークを活用することで、そのメンバーと一緒に事業を推進できるのか、想像するのです。その結果、それができそうであれば、投資をすることにしています。
松田:私も投資判断におけるベースの考え方は三好さんと同じです。
当社の投資領域が前提ですが、その企業が何を成し遂げたいのか、何の課題を解決したいと思っているのか、という点をまず見ます。加えて、ビジネスの市場規模やポジショニング、それを成し遂げる経営陣のタレントが揃っているのかを見ています。
ーー”タレント”と言うキーワードが出てきましたが、人材やその力量を見極める判断軸はあるのでしょうか。
松田:私の判断軸は、「ビジネスメイキング力」と「スピード」です。
ビジネスを見極める上で、細かい指標も見る必要があります。しかし、私が投資を担当しているアーリーステージのスタートアップに関しては、ビジネスメイキング力とスピードの2点が何よりも重要だと思っています。この2点を実現することができる経験や技術を経営陣がそれぞれ持ち合わせているのか、チームとして機能しているのか、を重要視しています。
三好:まず、投資検討の時に必ずすることは、経営者がいつ、どこで、どんな環境で生まれたのか、どんな経験をしてきたのか等、その方がどういった人生を歩んでこられたのかを教えてもらえます。場合によっては1回目の面談では、事業のことは一切聞かず、その人自身の過去の話だけ聞くこともあります。
将来に向けて考えていること、さらに、これから直面する事や生じる課題に対して向き合う姿勢は、全てその人の今までの経験からなる判断軸や原点に基づいているはずです。だからこそ、その人の経験を、実際に成し遂げようとすることと照らし合わせて一貫性があるのか、という点を見ています。
ーー「事業の中身」より「人となり」を見る、ということですね。
三好:特にスタートアップの場合は、資金もなく、人材も少ない、クライアントもいない状態から始まります。
その状況でスタートアップのメンバーがモチベーション高く働くことができるのは、「その事業を実現したい」という強い思いがあるからです。実現したい事のために相応の人が集まって、お互いがお互いのことを知り合い、お互いに共感することでスタートアップが成り立つのです。
そのため、それぞれのメンバーが会社のビジョンに共感して集まっているのか、という点を見極めることで、そのスタートアップが今後成長できるかどうか、分かります。その上で自分が会社のビジョンに共感できたとき、その会社に投資すると決めています。
ーー逆に投資を躊躇する場合もあると伺います。それはどのような時なのでしょうか。
三好:私と相手方が、それぞれ考えている「事業の展望」にズレを感じたときでしょうか。
初めてお会いした際に聞いた事業の話を元に、自分なりに事業の展望を想像します。そして次にお会いする際に、私が考えている事業の展望が正しいかどうかを確認するのです。最初に投資しようと思っていても、自分が考えていることと、相手方の話にズレを感じた時は投資をためらいますね。
松田:ビジネス側面での判断だと、その事業が新たなテクノロジーによってディスラプト*されるように見えた時は投資をやめます。また、競合優位性が蓄積されにくいビジネスへの投資は断念することが多いですね。
それから、ビジネス側面が良かったとしても、そのチームがうまく機能していない場合は、投資を見送ることにしています。
*ディスラプト…新たな技術によって、既存のシステムが破壊されること。
注目は「掛け合わせ」のビジネス
ーーパートナーである三好さんにお聞きします。今、注目されているセクターやトレンドはありますか。
三好:注目しているのは「掛け合わせ」のビジネスです。
具体的には、今までのインターネットを通じたサービスモデルに、医療や不動産などの異なるインダストリーが組み合わさって一つのサービスを作るような事業が増えてきています。つまり複数の領域が一つのセットになったビジネスがどんどん生まれてきているのです。
このようにITと他業界の「掛け合わせ」のビジネスが起きて、その分野の産業を変えようとチャレンジしていきます。これがあらゆる領域で生まれ、加速をしている、これが今の日本の状況と言えます。
ーー海外案件も多く見ておられる松田さんの考えもお聞かせください。
松田:三好さんと同じ考えですね。
今や、AIを導入すること自体はコモディティ化していて、その次にAIを使って何をするのか、どんなデータを蓄積し、どのようなユースケースを作るのか、という見方が増え、世界的にAIの活用法に期待が高まっていると思います。
それからFintechにも注目しています。カスタマーの行動変容によって、これまで銀行が手つかずであった領域にFintechが出現してきました。今後は海外のように規制緩和も進み、Fintechの領域は盛り上がっていくと考えています。
ーーFintechが話題に上がりましたが、三好さんはFintechについてどのようにお考えでしょうか。
三好:我々もFintech領域で既に投資しています。
今の日本では、ものすごい勢いで様々なサービスが繋がっています。一見、マーケット規模が小さい領域のサービスであっても、異なるサービスと繋がることで、インフラとなりうるビジネスに進化し、大きな利益が創出されるという事例が多々あるのです。
この流れの中では、次の世の中がどうなるのかを見据えた上で、個々のサービスを見極めていく必要があります。
Fintechは個々のサービスとしてはどのように儲かるのかが分かりにくいものですが、金融と技術を繋げています。そのため、次の世の中に適したビジネスとして、Fintechの領域は成長していくでしょう。
スタートアップはこの先も成長し続ける
ーースタートアップに参画することで得られるスキル、スタートアップの魅力を教えてください。
松田:スタートアップは成長機会が多い環境です。大企業だと、新たな取り組みに着手するまで時間かかります。その点、スタートアップはスピード命なので、会社の成長スピードに準じて、大企業よりも高い水準で仕事のスピード、質が求められています。そのため、それ相応のスキルが身につくはずです。
スタートアップの魅力は、成功すると次のステップへの活動資金がたまりますね。成功後に、さらに自分で次の事業に挑戦している人を何人も見ました。
三好:松田さんのおっしゃる通りですね。
今、日本の転職市場では、人材が流動化していることから、ベンチャー・スタートアップに関心を持つという波が止まらないところまで来ています。その流れの中で、ベンチャーで成功している人を知る人が「自分もできる」と考えてベンチャーに挑戦する、という連鎖反応があらゆるところで起きて、ベンチャーに挑戦する人が増えてきているのです。
それから、今の潮流として、大企業はM&Aによって、ベンチャー・スタートアップ企業を買収して、新しい事業領域や優秀な人材を自分たちの会社に取り込もうとする傾向にあります。これによりベンチャーでチャレンジしてきた人が、相応の知見を持ってまた新たな環境へのチャレンジができるようになっているのです。
このように循環している以上は、おそらくベンチャーの成長は加速していくと考えられます。
松田:それから、今まで大企業しかできなかったことが、テクノロジーの進化によってスタートアップでもできるようになってきたことは大きなポイントですよね。
大企業の技術や事業に対して、テクノロジーを活用してスタートアップが勝負できる時代がきていると思うので、スタートアップの今後の可能性は大きいと思います。
ーーありがとうございます。最後に、転職の選択肢としてスタートアップへのジョインを検討される際、企業選びのアドバイスを頂けますか。
三好:一つは、その人がなぜその事業をやりたいのか、聞いてみることですね。
もう一つは、オフィスに訪問して働いている様子、雰囲気を感じることです。みんながどのようなモチベーションを持って働いているのかを感じられます。
松田:その会社のビジョンに共感できるか、その会社に自分がフィットできるのか、この2点が重要です。
アーリーステージなら、社長や経営陣と話す機会はあるはずです。その時に、なぜこの事業を始めるのか、何を成し遂げたいのかなど、深掘りしていけると良いと思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回は、ベンチャーキャピタリストの視点からスタートアップの現状、魅力、見極め方についてパネルディスカッション形式でお話しいただきました。今後成長を続けるであろうスタートアップの可能性を感じていただけたのではないでしょうか。
「VCが語るスタートアップの選び方」第2回では、ベンチャーキャピタルとしての両社の特徴と実際の投資事例について語っていただいています。ご期待ください。