海外MBAで宇宙人扱い!30歳アフリカ起業体験記(前編)
2019/10/04
#ポスト戦略コンサルの研究
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#海外大MBAに行く
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Liiga読者の中には、ネクストキャリアとして「起業」や「MBA(経営学修士)進学」を考えている方も少なくないかと思います。

今回は、戦略コンサルティングファームに就職後、欧州のMBAに進学し、アフリカのケニアで起業したAさんに、「起業体験」を語ってもらいました。Aさんが起業した時期は昨年(2018年)の30歳のタイミングで、現在まさにアフリカで事業をグロース中の現役起業家です。

前編では、「ビジネスアイデアをどうやって見つけたのか?」「アイデアをどうやってブラッシュアップしたのか?」について語ってもらいました。また後編では、「資金調達や創業メンバーをどうやって集めたのか」「ケニアで起きた、想定外のトラブル」「起業を決心できたコーチングの存在」について語っていただきます。



【目次】
・「MBAに来て、何で就活しないの?」宇宙人扱いされた起業前夜
・ひたすらデスクリサーチ&壁打ち!そして生まれたビジネスアイデア
・検討したプランが次々にダメ!思考錯誤の結果、見つけたホワイトスペース

「MBAに来て、何で就活しないの?」宇宙人扱いされた起業前夜

ーーまずはご経歴を簡単に教えてください。

Aさん:新卒では、外資系のブティック戦略コンサルティングファームに入社しました。ファーム時代は主に医薬品・ヘルスケア業界を担当していました。また、新卒2年目の終わりくらいから、副業として知人のスタートアップの創業支援をしていました。

ファームは4年間勤務した後、海外のMBAコースに留学するために辞めました。MBAコースには一年半程在籍していましたね。

MBAを取得したら、すぐにアフリカで起業したいと思っていました。そこで、MBAに在学中からアフリカでリサーチをしたり、事業に有効なコネクションを持つ方々にコンタクトをとったりと、自身の事業アイデアを検証していました。

MBA取得後しばらくしたところで、「これだったら何とかなるかな」と思えるレベルまで事業を検証できた段階で、やや見切り発車気味にアフリカで起業しました。その後、資金調達に成功して、今ケニアで事業をちょうど立ち上げているところです。

ーーどのような事業を運営しているのですか。

Aさん:現在、私はケニアにて「臨床検査センター事業」を運営しています。血液や尿、細胞の検査を医療機関から受託し、その結果をお返しする、というような事業です。

日本法人を作ったのは2018年の2月で、現地法人を作ったのは2018年の9月なので、創業してまだ1年程度です。また、今在籍している社員は9名で、私以外は全員ケニアローカルのスタッフです。

ーーアフリカで起業となると大変なことも多いかと想像します。なぜ、アフリカで起業をしようと考えたのでしょうか。

Aさん:元々新興国に学生時代から足を運んでいて、課題がいっぱいある中で、大きく国として成長していく様子に惹かれていました。

特に初めてケニアに行った時に、課題に対して色んなサービスが立ち上がっていたんですね。例えば銀行口座持っていない人がいっぱいいるのにモバイルマネーはすごく流行っている。

「これは日本では味わえない面白さがめちゃくちゃ味わえそうだ」と思い、それ以降、アフリカビジネスにのめり込み、暇さえあればビジネスリサーチしていました。

ある時、アフリカビジネスの勉強会に参加し、そこで出会った方が立ち上げていたスタートアップを手伝うことになったんです。そのスタートアップを手伝う中で、自分がコンサル業務で培った経験が活きたことが、すごく楽しくて。その経験が、アフリカでの起業を志したきっかけになりました。

ーー海外のMBA留学後に就職せず起業したのは、珍しいように思えます。

Aさん:確かに少数派だと思います。MBAは基本的に「就職予備校」という側面が強いです。だから、私が事業検証をしている間、同僚は誰もが必死に企業のインターンシップや卒業後の就職面接に励んでいました。だから私は、「何で就活していないの?」と、周りから宇宙人扱いでした(苦笑)。

ひたすらデスクリサーチ&壁打ち! そして生まれたビジネスアイデア

ーーそれでは本題に移ります。起業につながったビジネスアイデアは、どうやって発見しましたか。

Aさん:まず、「実際にアフリカや新興国で流行っているサービス」をリストアップして、「流行っている要因」をデスクリサーチして考える、という作業を私はしていました。

といっても、流行っているビジネスをそのままやろうとしていたわけではありません。「上手くいっている要因」や、「当時のどういうニーズにこのビジネスが合致したのか」などを整理検討するのが目的でした。

また、ビジネスの流行はタイムマシン的に伝播する傾向があるので、先進国のビジネスをリサーチし、その中で「今後アフリカで流行する可能性があるビジネスはあるか?」をチェックしました。他には、テック系のメディアなども頻繁に目を通し、テック系のメディアで注目されている事業がビジネスとして成功するまでの過程を理解しようとしていましたね。

つまり、これらの作業では共通して、成功したビジネスを抽象化して、「どういう領域にオポチュニティがありそうか?」を徹底的に考えていました。

ーーそのような作業をする中で、今回の「臨床検査センター」のビジネスアイデアに至った、というわけですね。

Aさん:その通りです。正確には、デスクリサーチをしながら壁打ち的に色々な方ととにかくお話をしていました。その際にアイデアが出てきました。

ある日、たまたま元コンサルで製薬会社に勤めている方と壁打ちをさせていただいた時に、その方から「インドや東南アジアに行くと臨床検査をする施設は病院内にはなく、外注している。そういった外注ビジネスが儲かっている」、という話が出てきました。そのことがきっかけでこのビジネスアイデアに至りました。 アフリカでもビジネスとしていけそうだ」と思い、詳しく検討をしていきました。

ーーその時のお話をもう少し詳しく教えてください。

Aさん:日本では、病院には通常様々な病気の検査施設がフルセットで備わっており、施設内で検査をするケースが多いです。しかし、東南アジアやインド、アフリカなどの新興国の病院では、自前で全ての施設を調達できるだけの資金余力が無いので、アウトソースする場合が非常に多いのだそうです。結果、アウトソースを受注する会社はすごく儲かっているそうなんですね。

そこで調べてみたら、実際に新興国だとかなり利益率が高いことが分かったんです。そのようなことから、このアイデアを深ぼることにしたのです。

ーーその後、どのようにビジネスモデルを深めていきましたか。

Aさん:その後考えた結果、ただ検査センター業務を請け負うだけでなく、加えて「検査内容のデータ化」ができると、ビジネスのポテンシャルが非常に大きいのでは、という考えに至りました。

この臨床検査センタービジネスを展開すると、検査した患者のデータが自然と入ってくるので、データのN数がかなり稼げそうだと感じました。しかも、請け負う中で私たちの共通システムを使ってもらえるようになれば、データの項目なども全部揃えられるため、分析がものすごくしやすくなるという感覚がありました。

実際に、サンフランシスコで近しい事業をやっているスタートアップ企業は、バリュエーションで数百億円という規模感で評価されていたんです。

その会社がやっていたことは、検査した患者のデータを集めて、その解析により「感染症がどういう広がり方をしているか」についての予測モデルを作り、感染症の危険度の予報通知をしてくれる事業を展開をしていました。このようなビジネスモデルを、アフリカでも提供可能だと思えたのです。

検討したプランが次々にダメ! 思考錯誤の結果、見つけたホワイトスペース

ーーいざ実際に起業に踏み出すときには躊躇しなかったですか。

Aさん:躊躇しましたね。なぜなら、検査ビジネスは設備投資や機械購入など、「多額の先行投資」が必要だからです。だから、この事業アイデア一本で行こうと最初は思っておらず、他にもいくつか案を出しました。臨床検査ビジネスは、当時いくつかあったビジネスアイデアの一つにしか過ぎませんでした。当時はその中でどの順番で事業を試そうか分からず、悩みましたね。

結局、「比較的早く事業検証ができるビジネスから始めた方がいいのでは」と考え、当初は臨床検査ビジネスよりも先に、他の事業の立ち上げに取り組んでいました。

具体的には、

・薬局向けのITシステム ・癌のスクリーニングを通じた患者登録サービス

などの事業案に、初期投資が比較的少なくて済むので取り組んでいました。

ーー結果的には「臨床検査センター」のアイデアに戻ってきたのですね。なぜですか。

Aさん:アフリカで色々な方にインタビューを行い、各事業アイデアを検証した結果、結局「臨床検査センター」のアイデアに絞られたのです。

実は、MBAは在学中に休みが3カ月ほどあるのです。私は、その期間にケニアに足を運び、現地で色々な方にインタビューをしたり自分の考えをぶつけてみて、事業アイデアを徹底的に検証しました。その結果、多くのことが分かりました。

まず、「薬局向けのITシステム」の事業アイデアは非常に厳しいことが分かりました。

なぜかというと、現地の薬局は、田舎のおっちゃんおばちゃんが運営している調剤薬局のようなものが多いことが分かったからです。そのような状況だと、点在する小さな薬局一つ一つにITシステムを導入して回るオペレーションはとても大変であり、加えてシステムを入れても1薬局あたりからあげられる収益はたった数百円程度と極めて収益を上げにくい事業構造になることが分かりました。

加えて、かなり規模の大きいあるプライベートエクイティ・ファンドが自前で薬のEC事業を5億円投資して始めた、という競争環境の変化があったのです。

だから、この事業でPLを回すのは厳しいですし、自分自身が立上げてあまり勝てる要素が無いと考えて、断念しました。

ーー「癌のスクリーニングを通じた患者登録サービス」のアイデアはいかがでしたか。

Aさん:結局、そのアイデアもこのままでは難しいことが分かりました。

癌のマーケットは先進国だととても魅力的な市場です。そのため、アフリカでもこの領域にマーケティング費用を払いたい製薬会社や医療機器メーカーが出てくるだろう、だから、癌のデータ提供事業のビジネスは成立するのでは、と考えていました。だからまずこのアイデアで、色々なビジネスプランコンテストに出ていました。

癌の初期的な検査は多くの場合、圧倒的に価格が安く、検査数を大量にこなさないとあまり収益にはならないことが分かりました。一方で、検査数をこなすにしても、ケニアではまだまだ健康に対するリテラシーが低く、黒字化できるまでの需要が無いことも分かりました。「無料なら受けるがお金を払うなら受けない」というような、「あったら便利だがなくてもいい」ビジネスだったのです。

悩んだ結果、癌検診単体でのマネタイズはあきらめ、アイデアを切り替えることにしました。

ーーどう切り替えたのですか。

Aさんまず、「自分が病気かもしれない」「検査を受けないといけない」と多くの方が実際に思っている病気・言われている病気、に対する検査をターゲットにすることにしたのです。

日本で利益率の高そうなビジネスの事例を調べた時に、「性病クリニック」が出てきたのに着目しました。

世の中には、風俗店に行って病気を貰ってしまう人が結構います。病気の疑いのある方々は、診療に行くわけですが、もし検査履歴が保険の記録に残ると、パートナーからあらぬ疑いをかけられてしまい、円満な家庭生活が崩壊しかねません。だから、そういった方々は「何万円払ってでも検査記録が残らない形で検査を受けたい」という希望があるそうで、実際にこの検査はとても料金が高いのです。この単価の高さに私は着目しました。

特にアフリカはHIVなどが流行っているのでなおさら検査の需要があります。だから、確実に需要がありそうなこの領域でやってみることにしました。

関係者へのヒアリングの結果、既存の性病検査領域の事業構造の中に「ホワイトスペース」があることを見つけ、そこを埋めに行きました。

ーーその「ホワイトスペース」とは。

Aさん:病院は検査を外注するわけなのですが、国内ではなくケニア以外のアフリカの別の国、もっと遠くだと中東などにサンプルを送り検査していることがわかったんです。現状だと時間も輸送費もかかるので、病院にとっても患者さんにとってもペインが大きいと分かりました

だから私たちは、ケニアの現地に性病臨床検査センターを立ち上げることにしました。ローカルでオペレーションができるので、検査期間も短縮できますし、輸送費などもかからないという点が、弊社の競争優位点です。

ーーだから「ケニアの現地」に臨床検査センターを立ち上げたのですね。

Aさん:そうです。将来はBtoCのクリニックもしたいのですが、資格をとったり医師を確保するのに時間がかかるため、先にBtoBのビジネスから参入しています。

ーーちなみに、MBAの授業は起業に役立ちましたか。

Aさん:正直、MBAで学んだことは、「起業してすぐ使う知識」ではなく、「起業して少し経った後に使うであろう知識」が多かったです。学んだ内容が全く無駄だった、とは思いませんが。

なぜなら、MBAの授業では「0→1」が必要なシーンにフォーカスされた内容がほとんど無いからです。「0→1」にも少しは触れますが、それでも実践に基づいた内容が少ないため、結果あまり使えない知識が多いです。MBAの授業内容は、「10→100」「100→110」が必要なシーンにフォーカスされた内容がほとんどだと思います。

単純に0→1フェーズのことを学びたいのだったら実践に勝るものはないな、と感じます。

後編へ続く)

コラム作成者
Liiga編集部
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