起業よりも海外就職よりも「自分が本当に大事にしたいこと」を考えてみてほしい ~30歳アフリカ起業体験記(後編)
2019/10/11
#ポスト戦略コンサルの研究
#起業する
#海外で働きたい
#海外大MBAに行く

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前編では、戦略コンサルティングファーム、海外MBAを経て、ケニアで起業をされたAさんに「ビジネスアイデアをどうやって見つけたのか?」「アイデアをどうやってブラッシュアップしたのか?」について語っていただきました。

後編の今回は、「資金調達や創業メンバーをどうやって集めたのか」「ケニアで起きた、想定外のトラブル」「起業を決心できたコーチングの存在」について語っていただきます。

前編:https://liiga.me/columns/336



<目次>
・一見意味不明でも、粘り強くやれば助けてくれる人は出てくる
・他国展開も視野に入れつつ、サービス・オペレーションを作り上げる
・起業を決心できたのは、留学準備の中で「自分の価値観」を整理できたから
・起業?海外就職?それよりも「自分が本当に大事にしたいこと」を考えてみてほしい

一見意味不明でも、粘り強くやれば助けてくれる人は出てくる

ーー資金調達については、どのようにされましたか?

Aさん:親からの借金とベンチャーキャピタルからの出資で賄いました。

ーー借金や投資を受けたことに、プレッシャーは感じませんか?

Aさん:親からの借金は、どんなことになってもいずれ返せると思うのでそんなにプレッシャーは感じていません。一方で投資家については、投資してもらっている以上、それを上回るリターンを返さないといけないというプレッシャーは確かにありますね。

それは外部から投資を受入れると当然起こることなので、そういうものだとは思っていますし、そもそも自分を信じてくれているという信頼関係のもとで出資して頂いているので、事業の成長の方が気になります。

ーー資金調達をする際には、多くのVCを回られたのでしょうか。

Aさん:はい、色々と回りました。私は資金調達の面ではラッキーだったのかもしれません。たまたま多くの投資家が集まっていたあるイベントで、私の考える事業について「面白い」と言ってくださるファンドの方々に会えて、そこから話がスムーズにいったので。

面白いと言って下さった理由は、今でもはっきり分からないですが(笑)アフリカに単身乗り込んで起業。というストーリーがウケたのかもしれません。また、たまたまヘルスケア領域のコンサル経験というバックボーンがあったので、「業界知識がある人が面白そうなマーケットに乗り込む」という図式に可能性を感じていただいたのかもしれません。

ーー創業メンバーは、どのように集めたのでしょうか。

Aさん:知人で興味ありそうな人達に話したり、紹介してもらったり、ですね。アイデア創出をはじめ、創業期に必要なことを色々と手伝ってもらいました。

創業メンバーで日本人のフルタイムは基本私一人です。現在日本に私の経営を手伝ってくれる方がいるのですが、こちらはパートタイムで手伝ってもらっている形です。

ローカルのチームは、ケニアにもリクナビのような求人サイトがあるので、こちらのサイトで求人をして集めてきました。100人近く面接したと思います。

ーー臨床検査に必要な専門知識はどのように賄ったのですか。

Aさん:専門知識だなんて口が割けても言えないですが、最低限話についていけるように、自分で該当の疾患・検査について勉強したり、医師にお話を伺ったり、臨床検査技師の方にインタビューをしたりして地道に情報を集めました。

特に、営業は私自らも行きますので、その際には、医師や臨床検査技師といったバックグラウンドの方とも話が出来ないといけません。今でも勉強ばかりですね。

ーー資金調達もチーム作りも知識も、全てご自身でなんとかしてきたのですね。

Aさん:いえ、先ほど話したみたいに色んな人に助けてもらいました。一人でできたというのは、語弊があると思います。 最後は自分一人でもやる、くらいの気持ちではいますが、それで何とかできるわけでもないですね。傍から見ると意味わかんないことでも、ちゃんと正しい方向で粘っていれば何か面白がってくれる人は出てきて助けてくれるんだと思っています。

他国展開も視野に入れつつ、サービス・オペレーションを作り上げる

ーー最初の顧客は、無事獲得できましたか?

Aさん:実は引き合いが来て、比較的スムーズに受注できました。これはとても良かったんですが、その後の追加での受注や、新規営業、支払いなどにはなかなか苦労していました。コンサルやってても、一定ポジションに行かないと営業しないから、営業やっときゃ良かった、って心底思いましたね笑

ーーアフリカを含む新興国で起業をする上で必要な能力はありますか。

Aさん:どんなビジネスをしたいかにより必要な能力は大きく変わると思うんですが、自分が見てきた限りでいうと、「顧客が欲しがってるものは何か」「そのマーケットがどの程度成長していくのか」を本当に日々考えぬいて、仮説修正していく能力は必要なんじゃないかな、と思います。

アフリカに関していうと、まだまだ一カ国あたりの経済規模は小さいです。僕のいるケニアでも一カ国だけでみると経済規模は10兆円もないわけで、必然的に多国展開は考えざるをえません。

その一方で、目の前にいる顧客候補が欲しがっているものは何か、そういう人はどのくらいいそうなのか、何をどう伝えれば動きそうなのか etc. そういったミクロレベルの仮説を立てて日々修正して、他国展開に耐えうるオペレーションモデルにまで持っていくことができるか、ということは常に考えなくちゃいけないと思っています。これを能力というのか分からないですが、頭の中には置いてあります。

ーーケニアで立ち上がりの時に、想定外だったことはありますか。

Aさん:色々ありますけど、一番想定外だったのは「信頼というものがかなり希薄なのかな」、というところですね。これは分かっているつもりでしたけど、自分が実際にビジネスをしだして、想定を超えて大変な部分でした。

現地においては、相手が言っていることも自分が言っていることも、日本人的な感覚で言うと話半分みたいなところが多々あって、それが行政サービスからビジネスにまですごく響いている。

例えば、時間通りに来なかったり、締切を守るってことに関する感覚はかなり緩いですね。ここに対して最初はかなりイライラしてたりしましたが、ここは自分でコントロール出来る部分とそうでない部分があると思って、その中でどう時間を上手く使うか、という発想を持つようにしています。

設立登記一つとってもガイドブックには一週間で終わると書いてあるものが一か月以上掛かったり。何かとタイムラインはずれ込んで、焦りばっかりが生まれてた時期がありましたね。

起業を決心できたのは、留学準備の中で「自分の価値観」を整理できたから

ーー起業を決心した理由は、MBA留学対策で受けたコーチングだったと伺いました。詳しく教えていただけないでしょうか。

Aさん:私は元々ミーハーな人間で、東大→大学院→新卒戦コンとわかりやすいキャリアを歩んでしまってました。。一方で、戦コンと言っても私が勤めていたファームは合コンで騒がれるような誰もが知る有名な会社ではなくて、自分がその中で特に優秀と感じることもなくて(笑)。そんな自分を経歴で覆い隠すために当時は、経歴的に引け目を感じないようにするために、MBA留学、特にハーバードMBAへの留学を考えていました。今思うとホントダサいんですが(笑)

海外のMBAに留学するには、留学先の大学院への出願にあたってTOEFL、GMATという筆記試験のスコアに加えて、特定のテーマに対するエッセイを提出しないといけないんですが、TOEFL、GMATはそれなりに時間掛けながらも何とか出願の半年前に最低ラインは突破して、残すはエッセイってところまで来たんですね。

。そこで早速エッセイのフォーマットを眺めたところ、ここでで問われた設問が当時の私にとって深く突き刺さりました。

「あなたはどういう人なんですか?」 「あなたが人生で達成したいことはどういうことで、そのために何故MBAに行くのですか?」

この問いを聞かれた際に、私は明確に答えられなくて、遅れてきた思春期みたいに思い悩んじゃったんですよね(笑)

そこで、知人の紹介MBAへの進学を手伝って下さるエッセイカウンセラーの女性にコーチングをお願いすることにしました。そこで指導を受けたことが自分にとっては、とても大きかったです。

ーーコーチの方は、どんなことを言ったのですか。

Aさん:この方は生徒の価値観を掘り下げることに、非常に強いこだわりを持った方でした。エッセイに手を付けることなく、最初にやったことは自分が小さい時から現在に至るまでの行動や好き・嫌いを可能な限り挙げさせて、そのファクト自分の価値観の仮説出しでした。

「なんでこんなファクトからこの価値観が出てくるねん!やり直し!」

アウトプットを出すたび、怒られっぱなしで、自分のロジカルシンキング能力を激しく疑う日々が4か月ほど続きました(笑)

この時期は、夜の10時頃にコンサルタントの仕事が終わり帰宅すると、そこから3時間くらいかけて自分の過去の行動を掘り下げて、そこから仮説を出してはアウトプットにフィードバックをもらう、という感じでした。

当時、MBAの留学には出願出来るタイミングが年に3回あり、早めに出せば出すほど有利というのが受験生の中で定説みたいになっていました。一般にエッセイ書き上げるまでは3か月くらいとか言われてたりするのですが、3か月経った時点で自分はまだ自己分析をやっている。これはヤバいと思ってましたね。

ある時意を決して「先生、1st Roundの締め切り迫ってるんですが…」と言ったところ「ん?2ndもあるし、そんなんどうでもええんよ」と回答が返ってきたので衝撃でした(笑)

ーーMBA留学のために始めたエッセイ対策なのに、ですか。

Aさん:そうです。おかしいですよね。今思うと、私はこの異常なまでのコーチングをあのタイミングで受けられて本当に役に立ったんです。

こんなことを繰り返してたある時、自分の行動や感じることの原理みたいなものが言語化できて、すごいしっくりきたんですよね。それと同時に「世間的とか他人にどう思われるかとか本当にどうでもいいな」、って思えるようになって。

小さい時から一見すると訳分かんない、複雑なものを自分で構造化しながら理解して、それをハックするプロセスが異常に好きなんですよ。リスクを負ってもいいから、それを解明して何とかするのが好きというか。ゲームのバグ技見つけて実行したりとか序盤に異常に強い敵が出るところで、何とかレベル上げしたりとか。高校時代はひたすらヤフオクやって、服の転売やったりとかしていました。

大学生時代からアフリカとか新興国でのビジネスとか何かやりたいと思ってたんですが、「あ、アフリカでのビジネスに惹かれてたのはその延長だったのか!」ということに気づいたんです。まだまだ社会制度的にも経済的にも過渡期で、テクノロジーと知恵を組み合わせると、その構造変えられる余地が結構ありそうだな、と。

そこから、留学志望先も「アメリカからアフリカにちかいところがいいや!」みたいな感じに考えが変わり、ヨーロッパになったんです。そして、最終的にフランスの学校にオファーもらえて、「フランス語学べてアフリカのフランス語圏の国に行くのにちょうどいいや」、と思い留学しましたね。

起業?海外就職?それよりも「自分が本当に大事にしたいこと」を考えてみてほしい

ーーもし起業したいという方にアドバイスをするとしたら、何が大事だと伝えますか?

Aさん:他人から見て良いと思われるかどうかよりも「自分が大事にしたいことは何なのか?」を考えることが大切だ、と伝えます。

良いキャリア、良私い学歴を歩んでいたからこういうことをすべき、という「暗黙の縛り」に囚われている人が多いと思うんです。

例えば、私も、MBAのコーチングを受ける前は、「世界銀行などの国際機関という道」と「現地に展開するスタートアップに行く道」の2つの道で同じぐらい悩んでいました。

その話をコーチにした時に、「その2つの選択肢は、真逆のことを言っている。訳が分からない」と言われました。

周囲が良いとされるキャリアに引っ張られると、いざそれに進んだ後で、ちょっと違うと永遠と悩むことになると思います。なぜなら、それが本当に自分が大事にしたことなのかというのは、全然話は別だからです。

歩んできたキャリアが違えば価値観も違うはずで、そういう人たちがいるから自分もやらなくてはいけない、といったことって実はないのではと思います。

ーー周りの言う理想のキャリアが、必ずしも自分にとって正解というわけではない、ということですね。

Aさん:その通りです。私も自分の経歴にコンプレックスを感じていたんですが、が、コンプレックスを埋め合わせるために経歴を履歴書に書き込んでいくような人生をもし選んでしまった場合、そこから抜け出すのはすごくしんどくなると思ったりしますね。

自分が日々の積み重ねの中で、大切にしてきたものを明らかにしてから初めて「どんな仕事がいいか?」といった話になるのではないかという気がしています。それを見つけるために内省することはすごく大事ないかな、と私は思います。

ーーと言っても、レールから外れることは怖くはありませんか。

Aさん:なんだかんだ言って、35歳くらいまでは職歴と実績がそれなりにあればレールを外れたとしても戻ってくるのは難しくなさそうと思うんですよね。だから別に怖くはないですね。

これはMBAで学んで良かった授業の話なんですが、は「自分が創業者でスタートアップを売却できた時の人生の期待値」と「サラリーマンを続けていた時の期待値」を比べることをやったんですよ。

すると分かったことは、例えば「そのままどこかのメーカーでサラリーマンを続けて、max年収1200万円位で終わる時の生涯利益」と、「年収200~300万円くらいで会社を起業して、3年間粘ったが失敗し、サラリーマンに戻ってきた時の生涯利益」は、そんな極端に変らなかったんですよね。のです。

一方で、起業して成功し、数年で年収2000~3000万円ぐらいとなり、かつキャピタルゲインかイグジットして数億円~数十億円手に入る世界と比べると、起業した方が期待値が圧倒的に高そうだと、僕なりに思いました。

ーーそれで起業した方が明らかに得だ、と感じたわけですね。

Aさん:そうですね。加えて市場価値としても、コンサルずっと続けてもこれだけ人数増えてるとコモディティ感あるよなぁ、と。それに比べて「海外で事業立上げた人」は、圧倒的に少なくて、これから少子高齢化で海外に出ざるえない日本企業のことを考えると、雇ってくれるところはどこかあるだろ、みたいな考えはありますね。

コラム作成者
Liiga編集部
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