「一つの専門を深めるだけではCxOになれない」ゴールドマン・A.T.カーニー出身CFOに聞く、CxOになれる人・なれない人【ハウテレビジョン執行役員との特別対談・後編】
2020/01/16
#ポスト戦略コンサルの研究
#投資銀行から広がるキャリア
#ベンチャーCXOの実情
#ベンチャーで大活躍する人の特徴

description

ゴールドマン・サックス証券、A.T.カーニーを経て株式会社WACULにCFO(Chief Financial Officer)として参画した竹本氏と、Liigaを運営する株式会社ハウテレビジョン執行役員の千田の対談記事後編をお届けします。 「CxOになるには」をテーマに、前編では「CFOになるために必要なスタンス・スキルセット」について中心にお届けしました。後編では「CxO職全般に求められるスタンス・スキルセット」「戦略コンサルタントでCxOに向く人・向かない人」についてお届けします。

前編はこちら:ゴールドマン・A.T.カーニー出身CFOに聞く、CxOになれる人・なれない人【ハウテレビジョン執行役員との特別対談・前編】

〈Profile〉
写真/竹本 祐也(たけもと・ゆうや)
株式会社WACUL 取締役CFO
京都大学経済学部を卒業後、2008年4月にゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。 2013年7月にA.T.カーニー株式会社へ。マネージャーとして、グローバルの大企業に対し、通信・メディア・テクノロジー業界を中心に、長期経営戦略および事業戦略の策定、X-Tech領域での新規事業立案など数多くのプロジェクトを手掛けてきた。
2018年7月に、AIを活用したデジタルマーケティングのデータ分析に基づく改善提案SaaSツール「AIアナリスト」を展開するなど「行動データ分析」に強みを持つDX(デジタルトランスフォーメーション)プラットフォームを提供する株式会社WACULの取締役CFO就任。日本証券アナリスト協会検定会員。
▶外資就活相談室:竹本祐也 | CFO at WACUL
▶Twitter:@tkmtyy
〈Profile〉
千田 拓治(ちだ・たくじ)
株式会社ハウテレビジョン 執行役員Liiga事業本部長
一橋大学社会学部卒。新規事業領域に特化したコンサルティングファームであるプライマル株式会社にて、総合商社・通信キャリアを中心に数多くの新規事業案件を支援。2015年株式会社リブセンス入社。新規事業「転職ドラフト」を立ち上げ、同社の新規事業の中でも最速で黒字化を実現した。
2017年9月に株式会社ハウテレビジョン入社、2019年4月より執行役員コンテンツ&マーケティング本部長。2019年9月より執行役員Liiga事業本部長。
▶Twitter:@chidanun




【目次】
・CxOになるには「一つ上の目線を常に追いかけろ」
・職域を広げるカギは「興味の広さ」
・「早期にスタートアップに飛び込む」は選択肢として有効
・戦略コンサルでCxOに向いていない人はたくさんいる

CxOになるには「一つ上の目線を常に追いかけろ」

千田前編では、CFOは経理・財務経験がただあるだけでなることは難しく、「経営戦略の話」ができることが求められるという話がありました。この「経営戦略の話」ができるという要件は、COO(Chief Operation Officer)を目指す場合も同様だと思います。

竹本:そうですね。COOはただの営業部長ではありません。CEO(Chief Exective Officer)はCOOに対して、あくまで「経営目線できっちり相談できる」「対等に議論ができる」という役割と関係性を求めると思います。

千田:たしかにセールス職では、営業部長にはなれてもCOOには中々なれない方をよく見かけます。COOと営業部長は役割として何が違うと思いますか。

竹本:私の感覚ですが、あくまで営業部長は「モノやソリューションを売ってくること」に特化していると思います。一方でCOOのポジションになると、「モノやソリューションを売ること自体を最大化するために、事業全体をどうするか考えること」が求められようになります。 具体的に言うとCOOの場合、ただ自分自身が営業やプロモーションを行うだけでなく、プロダクトのポジショニングも含めて戦略を考えるべきです。今の市場はX社と競合するけれど、価格をあげてターゲットをずらせば、販売数量が下がって結果として売上は横ばいでも、社内のコストは下がって利益は拡大するというのであれば、それを経営会議などで提案し、実行するところまで求められます。つまりCOOは「営業部長よりもう一段俯瞰した目線」を求められます。

千田:たしかにそうですね。ただ売るのではなく、事業全体を考えなければいけない。

竹本:加えて、事業全体がスムーズに行われるためのオペレーションも考えなければならないです。

千田:それはつまり、組織設計や事業の業務フロー設計などもしないといけない、という意味ですね。例えば営業部長の場合、法人営業の直販部隊をマネジメントできた経験だけではスキルセットとしては足りないイメージでしょうか。

竹本:足りないというか、もう一段欲しいイメージです。その経験は無駄ではありません。しかしCOOを務める上では、さらにそこから拡張してほしいということです。 例えば、直販経験だけではなく、代理店開拓戦略を指揮し間接的に販売を拡大できた経験もあると強いCOOになると思います。そして「代理店を開拓をした実績」だけではなくて、「その時に他の戦略オプションとして新商品開発や組織改善など色々あった中で、なぜ代理店開拓を戦略として選んだか?」まで含めて考え、実際に行えるスキルも求めたい。そのようなスキルを持つ営業部長であれば、CxOになる素質は十分にあります。

千田:事業会社出身の方がCxOになるとしたら、COOかCMO(Chief Marketing Officer)を狙うというのが有力な選択肢になると思います。なるにはどうしたらいいでしょうか。

竹本:自分の専門領域を深めるのは当然で、それだけではダメです。まず、「横に理解を広げる事」が大切です。そしてそれを実現するために「一つでも上の目線を常に追いかける事」。この二つがすごく重要かなと思います。

千田:詳しく教えていただけますか。

竹本:COOだからといって自分の配下のことだけを考えるのではなくて、部門軸をこえた理解が大切です。コーポレート部門のこともざっくりでよいので理解して、最適化の議論ができると強いCOOだなと思います。

たとえば、売上があがればよいからと顧客の要望を何でも受け入れて、非定型の取引ばかりを増やせば、それに都度対応するコーポレート部門は疲弊します。100件すべての取引が月末締め翌月払いならコーポレートの請求プロセスのコストは減りますが、それがバラバラであればそれだけコーポレートのコストはあがります。そうした自分の領域の周辺のことまで考えて、YES/NOをいえる人であればCOOに向いていると思います。この考え方はCFOになる場合でも一緒です。そうして自分の議論できる範囲を広くすると自分の地位も上がると思います。

そんな人にどうすればなれるのかを考えた時、すごくいい言葉だなと思っているのが、ディー・エヌ・エーの「2ランクアップ」というものです。自分の目線を常に自分の職位の二階級上の立場に引き上げ続ければ、自然と最後は経営者目線に立てるんじゃないかなと思います。一方で新卒一年目や平社員で経営者目線を持て、というのはちょっと無茶があるなと思っています。

千田:新卒入社時からいきなり経営者目線を求めても、「そんなこと言われてもイメージつかないわ」と思いますよね。

竹本:営業職で入ったのに「中期戦略考えて持ってきてね」と言われているようなものですからね。

description

職域を広げるカギは「興味の広さ」

千田:横に職域を広げるというのは、いざやると中々難しいミッションです。しかし、私は職域を広げるカギは「興味の広さ」なのではないかと思っています。

実は私は今でこそCMOを務めたりしていますが、ハウテレビジョンに入るまでは営業と新規事業企画が主なスキルセットであり、マーケティングは未経験だったのです。ハウテレビジョンも最初は別のポジションで入社しました。しかし、人不足もあり初めてマーケティングをやることになったのです。一度マーケティングをやってみると、面白くてどんどんキャッチアップすることができました。そして、入社後1年半で会社のCMOを務めるまでになったのです。

竹本:「興味の広さ」はすごく重要だと思います。これはCFOをしていて思うことですが、色々なことに興味を持っていないと広い目線で物事を考えられないと日々感じるからです。 また色々な経験の引き出しを持っているほど、仕事の成果をより出すことができると思います。例えば、営業だけをやっていた人よりも、マーケティングの経験もある営業の人の方が、より幅広く活躍できるケースが少なくありません。

よく理想とすべき人材のモデルとして「T型人材」という言葉がありますよね。この言葉が指すように、CxOになりたいならば、何か一つの専門分野に精通して深い知識を持ちつつ、他の分野に対しても幅広い知識と知見をもつ人材を目指すとよいと思います。たとえばCFOを務めるには財務を分かっているのは当然重要なんですけど、財務だけじゃなくて経理の知識も欲しいですし、取締役会や株主総会、定款などをどうするか考えると、会社法の知識も欲しいです。すべてを深く知っている必要はないんです。どこかに自分の専門領域があって、サブ領域がたくさんあるようなイメージです。

千田:その話でいくと、たしかに私がCMOや事業責任者を務めることができたのは、マーケティングだけでなく営業や新規事業企画の経験があったからかもしれません。だから事業全体を見渡して本質的な施策を打つことができやすいのではと。 まとめると、色々な職務を経験しているとCxOになりやすいということでしょうか。その点、御社のCOOは経験の引き出しがかなり多そうですね。

竹本:そうですね。弊社のCOOの井口も、まず新卒でソニーの財務系部署に入社し、次にリクルートでSUMMOの立ち上げや新規事業企画を経験していました。さらにそこから経営共創基盤を経て、WACULの前職では取締役CFO兼CSOとしてコーポレート部門の管掌や内部統制の整備なども経験しています。しかも実は公認会計士試験も経験しています。だから引き出しがとても多く、COOとして適任の人材だと思います。

description

「早期にスタートアップに飛び込む」は有効な選択肢

竹本:ちなみに職域を広げる上では「早い段階でスタートアップに飛び込む」というのも一つの選択肢だと思います。これはポジショントークのように思われるかもしれませんが、本当です。

千田:それはなぜでしょうか?

竹本一つは、早めに社内で上のポジションに昇進しやすいという理由です。もう一つは、人材も足りませんし事業環境も色々変わるので、総じて幅広いミッションを無理矢理やらされやすいという面です。だから自然と職域も広がりやすい環境があります。

千田:たしかに私のキャリアの場合もその通りですね。私はハウテレビジョンにCOO室のマネージャーとして2年前に入社しました。しかしその半年後にマーケティング部の部長をすることになり、さらにその半年後は編集部の部長も兼務することになったのです。しかもその3か月後には会社の上場直前準備もあり、一時的に営業責任者も兼務していました。 このように様々なミッションを半分無理矢理やることになりました。それをやりきることができたから、執行役員に任命されたのかもしれません。

竹本:WACULの場合も一緒ですね。弊社に社会人3年目で三菱UFJモルガンスタンレー証券から転職してきた人間がいるのですが、彼はカスタマーサクセス職から、今では20代ですがプロダクトチームの執行役員をやっています。また、もともとメガバンクにいた人間が、WACULにきて、最初は営業をやっていたものの、IPO準備の流れの中で内部監査室になり、今では事業管理として全社KPIや予実の管理などをしています。ビジネスサイドを理解したコーポレート部門というのはやはり心強いです。

千田:証券会社から異職種で違うスキルセットが必要なプロダクトチームの執行役員に昇進できたのはすごいですね。なぜそんなキャリアが築けたのですか?

竹本:実は彼がカスタマーサクセス担当だった時に、ずっと顧客と相対していたことから「顧客が求めている機能」を誰よりも分かっていたのです。だから当時から、新機能提案などを積極的にしていました。その姿勢が成功要因だったと思います。「こういうプロダクトになればもっと顧客の役に立てる」というのを体感しているので、それを実現する立場に今いるわけです。結果、プロダクトと顧客の両方に精通する人材に成長しました。

description

戦略コンサルでCxOに向いていない人はたくさんいる

千田:現在戦略コンサルの方のネクストキャリアとして、ベンチャーのCxOは人気です。戦略コンサル出身者はCxOになるスキルセットを持っていると思いますか?

竹本:戦略コンサルの方は、実はCxOに向いていない人はたくさんいます。もちろん向いている方も中にはいますが。

千田:なるほど。では、戦略コンサル出身者でもCxOに向いている方と向いていない方の違いについて、詳しく教えていただけますか。

竹本コンサルに求められているのは、「極端なほどすごく突き詰めて考え抜くこと」に特化すること、だと思うんですよね。その理由は、コンサルの顧客である大企業は、ベンチャーのように一度決めたことを朝令暮改には変えられないからです。大企業が一度やると決めたら、その方向にものすごい力で進んでいくことになります。だから大企業では意思決定する前に、事前に考え抜くことが非常に大切なのです。 そこに特化しすぎてしまった人の場合、スタートアップに飛び込んでもそのスピード感についていけません。まだ充分に考え抜けていないからと判断を先送りしていたら、その頃にはもう機を逃している可能性が高いです。そうして柔軟性が低く、あまり価値を発揮できなかったケースを過去に見聞きしました。これはその人のスキルが低いのではありません。単に「キャラクターが合わない」のです。

千田:スタートアップの立場からすると、「重箱の隅をつつくみたいな分析を不必要なぐらいしてしまう」ということですかね。

竹本:そうです。しかし、その柔軟性があるかどうかを面接で見極めることは中々困難ですね。加えてコンサル出身の方の場合、他にも「高いプライドを持ちすぎていない」とか、「お金に執着しすぎていない」などのポイントも面接で見極めることが大切になります。

コンサル出身であることにプライドを持ちすぎると危険です。スタートアップであれば足りないものだらけなので、何でもしなくてはいけません。僕もCFOですが、契約書を見たりすることもあれば、採用のためのスカウトを打ったり、リリース文を書いたり、営業にだっていくこともあります。「俺は考えるのが仕事なんだ!」なんて言われてしまってはどうにもなりません。

また、お金についても同様です。コンサルは給料が高いので、生活レベルを下げることができない人が多いのです。実はコンサルを出た後に製薬会社に行く人がとても多いのですが、それは製薬業界に興味があるからではなく給料が主な理由だと思います。

千田:竹本さんは、プライドやお金にはこだわりがないのですか?

竹本:もちろんお金はあればあるほどよいと思います。けれど、もともと貧乏性でお金を使わないタイプなんです。だから車も持ってないですし、時計は前職のYear End Partyで当たったApple Watch、洋服もユニクロがメインです。高級なものを買わないので、別にスタートアップに移っても以前と比べての生活レベルは変えなくても困らなかったです。

実は、投資銀行からコンサルに移ったときも投資銀行5年目からコンサル新卒2年目レベルでの入社をしたので、給与は半分以下になりました。ただ、外資系から外資系への転職で、下がったといっても一般の水準よりはもらえていたので、困りはしませんでした。「お金を使い切って、自分を背水の陣に追い込むことで、逆に必死に働けるんだ」と唱える先輩が投資銀行時代にいましたが、僕はそのアドバイスは聞き流していました。

スタートアップからCxOを目指す人、特に外資系に今いる若手に伝えたいのは「高いプライドや緩い金銭感覚は、自分の将来のキャリアの選択肢を狭める」ということです。外資系投資銀行で緩い金銭感覚になった人が、競争社会の中で苦しみ、ジリ貧になってくると、すこしずつ給与を下げながら、自分の望まない競合他社や他業種への転職を繰り返して、“逃げ切り”中心の考え方になっていく人も中にはいます。そうならない心構えをあらかじめしておいてほしいな、と思います。

description

コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。