中央官庁から投資銀行へ転職。「知らないから教えてくれ」は間違いだった
2021/01/12
#投資銀行の仕事内容
#連載「私はこうして失敗を乗り越えた」

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人生において失敗はつきものだ。失敗から何を学び、どのように乗り越えるかで人生が変わってくる。連載「私はこうして失敗を乗り越えた」では、仕事や転職における「失敗」を生かして人生を好転させた人を紹介する。

転職編の1回目は、中央官庁から投資銀行への転職に失敗したと話す渡辺さん(仮名)に話を聞いた。「投資銀行の業務の厳しさは理解した上で転職したつもりだったが、そのハードさは想像を超えていた」。そう語る渡辺さんは、自分の準備不足を悔やむ。【斎藤公也】

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〈Profile〉
渡辺智弘(仮名)
大学卒業後、中央官庁勤務。その後、外資系投資銀行に転職。現在は、投資ファンドで働く。


「このままだと来年は居場所はないかもよ」

――中央官庁にお勤めされていたと聞きました。

渡辺:はい。大学を卒業して入省しましたが、入って5年程度の若手職員が経験する海外留学もしないうちに転職しました。現実のビジネスに近い場所で働きたくなったからです。

――転職先はどちらでしょうか。

渡辺:外資系投資銀行です。大学の先輩から紹介されたエージェントが勧めてくれた企業でした。当時、投資銀行についてあまり知識がなかったため、本を読んだりして、知識を深め、投資銀行とは何をやっている会社なのか、何となく分かっていたつもりでした。

――入社後は、順調にお仕事をされていたわけではないのですか。

渡辺:完全に準備不足でした。実際に自分が具体的に何を求められていて、どういう成果物を出していかなければならないか、を考えていませんでした。

投資銀行に入社するときに、OB・OGや先輩のネットワークを十分に活用できなかったのが要因かもしれません。

中央官庁から投資銀行に転職する人がそもそも少ないという背景があるにせよ、少ない情報を頼りに突き進んでしまったと思います。もちろん情報は有益ではありましたが、働いている「中の人」から聞かない限りはなかなか実情を把握するのは難しいと思いますね。

ですので、期待値に届くような成果を出すことに、とても苦労しました。現実に、入社間もないころの評価は低かったです。

評価を上げようと、勉強は欠かしませんでした。働き方改革が進む前だったため、午前9時くらいに出社して、夜中の3時に退勤する毎日でした。ですが、なかなか成果を上げられない。正直、転職は失敗だった、辞めたいなって思いながら毎日過ごしていたのが実態ですね。

――「成果が上げられない」というのは、どういう状況でしたか。

渡辺:ピッチブックと呼ばれる、M&Aの提案資料を作成していましたが、先輩の修正がたくさん入って、私が担当した箇所はほぼ残らない状況でした。アウトプットとしてのクオリティーの低さが目立っていたからです。

第二新卒で入社しましたが、中途入社で即戦力、と見られて、厳しく成果を求められました。こういう状況でしたから入社直後から「このままだと来年は居場所はないかもよ」と冗談ながらに言われ続けました。

――とはいえ、投資銀行の業務の厳しさは、よく知られていると思います。

渡辺:ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」を全て捨てる覚悟で入社しましたが、ハードさは想像を超えていました。中央官庁も時間的にはハードでしたが、成果物の質が全然違います。投資銀行では、数字を使った資料の作成が必須ですが、すでにお話した準備不足が原因で、資料を作成するための予備知識やスキルが足りませんでした。全てOJTでキャッチアップすることしかできませんでした。

仕事に対する姿勢もよくなかったと思います。業界未経験での入社だったため、「知らないから教えてくれよ。教えてくれたらできるようになるから」という思いがあったと思います。

ですが、社員の業務に対するトレーニング方法は、企業によって異なります。手取り足取り教えてくれる企業もあれば、そうではない企業もある。私は、当時の投資銀行に淡い期待をしていたのかもしれませんが、それは、私の準備不足による間違いでした。

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「低い評価をひっくり返してやろう」。些細なことまで留意しながら自分の120%を出した

――その後、この状況をどのように挽回していったかを教えていただけますか。

渡辺:今お話ししたような状況で空回りが続きストレスがたまっていたため、勉強をせずに、飲み歩いたこともありました。転職して給与が大幅に増えたので、金銭的な余裕はありました。

ですが、このままだとまずいと思い、がむしゃらに仕事に注力するようにしましたね。どんな些細(ささい)な仕事でも丁寧に対応することを心掛けました。資料提出などの締め切りを守ることはもちろん、周囲の意見を聞き、改善をしながら、完成度を高めていきました。

面倒見が比較的良い上司のもとで働く機会が増えたことも大きかったですね。とにかくこの人の全てを吸収しつつ、初めの低い評価を全部ひっくり返してやろうという思いで働きました。少しずつではありますが、評価も上がっていきました。

どの仕事にも当てはまると思いますが、イメージが重要だと思います。周囲は、その人の勤勉さや正確さなどをよく見ています。例えば、適当な仕事をしたり、文章で誤字脱字が何度もあったりすると、評価は上がりません。上の人から要注意人物とみなされると苦しくなります。一度定着したイメージは、なかなか抜けません。

そうならないためには、自分の持てる力を120%出してピッチブックを完成させる必要があります。些細なことにも留意して、仕事を任せても大丈夫と判断されれば、成果次第で評価も上がっていきます。

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「先輩や上司からかわいがってもらうこと」も重要だとわかった

――外資系投資銀行から、さらに投資ファンドに転職しました。投資銀行に移るときの失敗は生きましたか。

渡辺:そうですね。投資銀行に転職する当時のことを踏まえて、できるだけ実際にファンドで働いている人の話をたくさん聞き、企業ごとの特徴や働き方、業務内容などの情報を入手したうえで、転職活動をしました。そのため、入社後のギャップはないですね。

現在所属している企業も、特に面倒見がいいわけではありませんが、業務内容を十分に把握してから入っているので、安心感はあります。

投資銀行には6年ほど在籍しました。投資家としての視点などは足りませんが、投資銀行で得た知識やスキルは現在の仕事でも生かしています。

――どういうことを心掛けて仕事をしていますか。

渡辺:業務は期限前に仕上げる、夜でも、土日でもメールは返信する、というのは、前職と同様です。また「かわいがってもらうこと」も重要だとわかったので、先輩や上司と頻繁にコミュニケーションをとるようにしています。仲がいい先輩や上司がいれば、率直な話もできます。教えてもらえる機会が増えれば、業務の成果が上げやすくなるのではないでしょうか。

――今後、どのようなキャリアを志向していますか。

渡辺:将来的に何をしたいかが確実に決まっているわけではない中で、何か1つに絞ると選択肢が狭まってしまうのではないか。手広くさまざまなことが経験できるファンドを選択したのは、そうならないためです。

M&Aアドバイザーの価値の1つは、M&Aが成立する瞬間まで立ち会うことだと思います。この売り買いの瞬間までの立会人として、その能力を磨き上げていきたいのか、売り買いの瞬間に立ち会ったあとのプロセスも含めて手掛けることができる人間になりたいかと考えたときに、私がなりたいのは、後者でした。事業に深くかかわり、買収後の成長や、ガバナンス改善などができる人間になりたいと思いました。

CxOになることや起業するなど、ファンドを経験していれば、就くことができるポジションや仕事も増えてくるでしょう。やりたいことが出てきたときに、それに挑戦できるように、スキルを磨いていきたいと思います。

第2回「転職編②」に続く》

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コラム作成者
Liiga編集部
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