一部上場企業から社員20名の人材ベンチャーへ。だからこそ実現できる“成長したい人のための転職支援”とは?【ネオフェクト 井手裕典氏インタビュー】
2021/07/31
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「CxOを目指したい、独立したい、だからベンチャーやスタートアップに転職したい、というのは実は正しい考え方ではありません」。

そう話すのは、株式会社ネオフェクトの代表取締役であり、成長ベンチャー、スタートアップ企業の幹部候補専門の転職エージェントとして活躍する井手裕典さんです。

井手さんは、自身も一部上場企業から当時社員20名だった大手人材総合系メガベンチャーへ転職し、同社が3,200名を超えるメガベンチャーになるまで支え続けた経験を生かし、多くの“成長したい人”の転職支援を行なっています。

今回はそんな井手さんに、自身が一部上場企業時代に抱えていた不安や危機感、そしてベンチャー時代を振り返っていただきながら、それらの経験の中で確立されていった転職エージェントとしてのスタンスについてお聞きしました。

〈Profile〉
井手 裕典
株式会社ネオフェクト 代表取締役
1998年に新卒で東証一部上場企業に入社。その後、2004年に大手人材総合系メガベンチャーに入社。2018年に独立し、株式会社ネオフェクトを設立した。その間エージェントとして、あらゆる業界・職種で7,000人以上の転職支援に携わり、1,000社以上の経営者や現場担当者とやりとりを積み重ねてきた。Liigaでは2021年7月現在平均口コミ星4.3(27件)という高い評価を得ている。


【目次】
・「30歳で独り立ちできてなければ人生終わり」危機感に苛まれていた一部上場企業時代
・「転職相談に一般論は必要ないと思っています」候補者にあえて“主観”をぶつける理由
・「ずっと現場にこだわり続けたことが独立につながった」メガベンチャーへの成長の只中で経験してきたこと
・「転職は手段の一つに過ぎない」井手氏が考える“成長したい人のための転職支援”とは?

「30歳で独り立ちできてなければ人生終わり」危機感に苛まれていた一部上場企業時代

――井手さんが転職をされたのは2004年。まだ日本では転職が一般的ではない時代ですよね。

井手:そうですね。転職サイトも充実しておらず、就職した会社でずっと働く人が多かったです。私の周りは大手企業に行く人が多かったので、なおさらでした。周りからすれば、20代後半で20名規模のベンチャー企業に行くなんて、わけがわからなかったでしょうね(笑)。

――にもかかわらず、どうしてベンチャーへの転職を決めたのですか?

井手:私には強烈な危機感しかなかったからです。というのも、私が卒業した大学はOBに経営者が多いところで、私が主将をしていたヨット部のOBにも経営者の方々がたくさんいました。

そのOBの方々とお酒を飲んでいるときに、こんなことを言われたんです。「30歳になった時に、会社を辞めてもどこでもやっていける状態になっていないと、お前、人生終わりだぞ。20代は気合入れて過ごせよ」と。

――なかなか厳しいアドバイスですね。

井手:その言葉を聞いたあとに上場企業で働き始めたわけですが、結果としてずっと危機感に苛まれることになったんです。

――どうしてですか?

井手:理由は2つあります。一つは実力以上の給料・賞与をもらえてしまうこと、もう一つは会社の看板で仕事ができてしまうことです。

――大企業で働く若手として、一般的な状況ではありますが……。

井手:しかし私としては、自分の実力で稼いでいる実感がないので、不安でしようがありませんでした。

もちろんできる限りの努力はして、営業成績で全社1位をとることもあったのですが、やはり「30歳で独り立ちできてなければ人生終わり」というOBの言葉が頭から離れませんでした。

――誰かに相談しなかったのですか?

井手:時代的な状況もあって、なかなか相談できる相手はいませんでした。だからずっと苦しかったです。

当時は転職支援サービスも充実していなかったので、誰か自分のことをキャリア・実力・価値観について等身大で把握してくれて、「お前ならこうした方がいいんじゃないか」とアドバイスしてくれる、兄貴みたいな人がいてくれたら……と切望していました。

――ではどうやって転職先を見つけたのですか?

井手:運によるところが大きかったですね(笑)。最初は、会社の先輩の友人でベンチャーで働いている方と飲む機会があり、あまりのレベルの違いに衝撃を受けて、そのままその方の会社に転職しました。

ただ、その会社の経営状況が悪く、生計を立てるためにバイトをしなければならなくなった。候補に上がったのが企業の新規営業開拓のテレアポでした。

企業相手のテレアポだったら、バイトのついでに企業のことも知れるからちょうどいいなと思い、応募しました。その応募先が、創業間もない大手人材総合系メガベンチャーだったのです。

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「転職相談に一般論は必要ないと思っているんです」候補者にあえて“主観”をぶつける理由

――本当に運命的な出会いだったんですね。

井手:そうですね。ただ苦しんでいた期間が6年ほどあるので、今でも候補者様に相談をいただくたびに、当時の自分と重ねて「あの頃の自分だったらどんなアドバイスが欲しいだろう?」と考えます。

エージェントになって18年以上経ちますが、その視点は今も変わりません。だからこそ、候補者様にはあえて主観をぶつけるようにしています

――どういうことでしょうか?

井手:例えば、本人や市場の状況に照らしてみて、転職しない方がいいと思ったらそう伝えます

転職相談に一般論は必要ないと思っているんです。ネットで調べれば出てくる情報ですから。候補者様はそういう情報ではなく、私の経験を踏まえた上で私の主観を聞きに来ているのだと考えています。

――確かにそちらの方が説得力がありますね。

井手:実際、私が転職はやめた方がいいとお伝えすると、「自分も早計だと思い始めてたんです」とおっしゃる方は少なくありません。

エージェントとして7,000人以上、前職の会社の社員を入れればそれ以上の人たちを見てきていますから、どんな人がどんな選択をするとどんな結果になるかはある程度わかっているつもりです。

だから「人生と同じでキャリアに正解はなく、あくまで私の一意見ではありますが」と前置きをしたうえで、そのまま自分の主観を伝えるようにしているんです。

「ずっと現場にこだわり続けたことが独立につながった」メガベンチャーへの成長の只中で経験してきたこと

――上場企業からベンチャー企業に転職して、何か違いを感じることはありましたか?

井手:最初の会社で「自分はこのままで大丈夫なんだろうか」と悶々としながら働いている頃に比べて、無名の小さな会社で、しかも当時人材紹介のサービスを利用している企業が外資系企業が中心で非常に少なかった時代、人材紹介事業をスケールさせていく過程は、ワクワク感がありました。

――何もないところからのスタートだからでしょうか?

井手:そうだと思います。実績が積み上がるたびに自分の自信になっていくんです。それが楽しくて土日も夜中も普通に働いていましたね(笑)。仕事は辛くて苦しいだけのものだと思っていたのが、初めてやりがいを感じるようになりました。

そんな中で、自分が本当にやりたいことも見つかっていきました。

――それは何だったのでしょうか?

井手:転職支援の現場で、求職者様と企業様に向き合うことです。私が入社した頃20名だった会社が、独立する14年後には3,200名になっていたわけですが、そうなると求められる仕事もかなりのスピードで変わっていきます。

100名くらいまでは数字を出していれば良かったのが、それ以上になるといかに事業をスケールさせていくのかという話になる。人によってはマネジメント側にキャリアを描いていく人もいました。

――ベンチャーに入る人たちは、そちらの人の方が多いように思います。

井手:そうですね。でも私はマネジメントの仕事ではなく、現場の仕事にやりがいを感じていました。だからずっと現場に張り付いて、プレイングマネージャーをやり続けたんです。

――どうしてそこまで現場にこだわったのですか?

井手人材紹介の仕事をしていると、自分にとってやりがいのある仕事に出会えずにいる人がいかに多いのかがわかります

でも私は30代の時点で現場の仕事にやりがいを感じていた。「これはもう手を放しちゃいけないな」というのは、なんとなくわかっていました。しかも、結果的にずっと現場にこだわり続けたことが独立につながっていくんです。

――どういうことでしょうか?

井手:一般的には、実績を残すことでマネジメントレイヤーへのキャリアパスが用意されたりするのですが、全社MVP等の実績があって、かつ現場にこだわる人は少かったりします。するとこだわり続けるほど、希少性が増して、独立してもやっていけるレベルの市場価値が手に入った、というわけです。

また、独立できた要因としては、辞める前の3年間で2回、事業オーナーとして新規事業立ち上げ責任者を任せてもらえたのも大きかったです。

――どれくらいの裁量権があったのでしょうか?

井手:ほとんど全てです。私がいた大手人材総合系メガベンチャーは、経営陣がリスクを負って社員の成長機会にコミットする企業でしたので、売上と売上総利益と事業収支の3つの数値目標を握ったら、あとは全部事業責任者に任せてしまいます。しかもその3つの数値も、事業責任者が自分で考えて決めます。

――もし目標を達成できなかったらどうなるのですか?

井手:仮に事業収支1,000万円以上でも、目標が未達成であれば「赤字」とみなされます。その結果として、場合によってはアルバイトや派遣の人たちの雇用調整せざるを得ないようなケースがあったりします。

――厳しいですね……。

井手:その代わり、目標よりも上振れたらメンバーに還元したり、新しい成長機会を与えたりできるようになります。確かに非常に厳しいのですが、事業の権限も責任も丸ごと任せてもらえるので、事業やメンバーの人生を背負うとは実際にどういうものなのか、非常に貴重な経験になります。視座の高さがまるで変わります。

――具体的にはどういうふうに変わるのでしょうか?

井手:一つ一つのチーム、業務を見ていたのが、事業全体を見ることになります。事業責任者は、営業、企画、コーポレート、バックオフィス、開発エンジニアといった全ての職種に目を配りつつ、市場、顧客といった外部環境を見ながらターゲット選定をして、商品開発をして、バリューチェーンを組んで、組織設計……これら全てに権限があり、責任がある。

こればかりは、何百冊と本を読んでも身につきません。バッターボックスに立って、バットを振り続けるしかないんです

――経験しているかどうかが全てということですね。

井手:そうです。そんな経験を独立前にさせてもらって、いずれも事業が順調に推移したので、大きな自信にもなりました。

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「転職は手段の一つに過ぎない」井手氏が考える“成長したい人のための転職支援”とは?

――こうした経験を積んできた井手さんから見て、成長ベンチャー、スタートアップ企業への転職を検討している人たちが、まず考えるべきことは何ですか?

井手自分が本当にやりたいことは何なのかです。自分と全く同じ価値観を持っている人はいませんから、自分の好きなことを突き詰めて成果を出せば、希少性が増し、アイデンティティが確立され、自ずと道は開けてくると思います。

私自身が実際に体験していますし、私がご転職支援させていただいた方の中にも同様の経験をされている方はたくさんいます。

――しかし、自分がやりたいことを見つけるというのは、一番難しいことのように思います。

井手:その通りだと思います。先ほども話しましたが、実際に相談に来る方の多くはやりたいことを見つけられていません。だから私は相談を受けたら、必ず丁寧に掘り下げるようにしています。

――どんなふうに掘り下げていくのですか?

井手:ひたすら壁打ちをしながら、一緒に考えていきます。

転職は結局ところ、「自分は将来こうなりたい」という理想を実現するための手段の一つでしかありません。しかも依然としてリスクの高い手段です。

にもかかわらず、その手段が本当にクリティカルなのかどうかがわからないまま、現状を変えたいからという理由だけで転職を選んでしまう人がけっこう多いんです。

――他にも手段はあるのだから、落ち着いて考える必要があるんですね。

井手:社内での部署移動、MBA留学、副業でのキャリア形成など、本当にたくさんあります。

だからまずは実現したい理想を見つけて、それに対して適切な選択肢を検討し、結果として転職が最適解なら、その人に合った会社を案内する―――これが私の転職相談のスタンスです。

――今後、井手さんは業界内でどんなポジショニングをしていこうと考えていますか?

井手:主軸にしたいのは、成長したいと考えている方、高い目標を掲げている企業―――私はこれを成長ベンチャー、スタートアップ企業の定義としています―――で経営幹部を目指していきたい方にとって、よりよい選択肢を提供できるポジショニングですね。

――よりよい選択肢とは、具体的に何を指すのでしょうか?

井手:先ほど話したような、事業責任者に事業収支まで裁量権を持たせてくれる会社のことです。でもそういう会社は絶対数が少なく、かつ求人票に記載されることもなかったりします。だからエージェントとしてラインナップを増やしていく努力は欠かせないと考えています。

――やはり、小規模企業が多くなるのでしょうか?

井手:いえそんなことはありません。小規模企業でも裁量権が小さいところはありますし、大企業でもしっかり裁量権を与えてくれるところはあります。

――企業規模だけを見ていても、成長できる環境かどうかはわからないんですね。

井手:はい。会社によっても違いますし、部署によっても違います。同じ会社でも、どんな人がマネージャーなのかによって変わってきます。だから私は企業と人ではなく、人と人のマッチングを目指しています。

――「企業」という括りでは、解像度が粗すぎるということですか?

井手:そうです。もちろん入ってみないとわからないことも多いのですが、人それぞれで外しちゃいけないポイントはあるもの。そこをしっかり見極めるのも、エージェントに求められる役割だと思っています。

――本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございました。

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コラム作成者
Liiga編集部
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