経営者になるのに資格は要りませんが、資格取得によって経営に役立つ知識が身につき、自分や会社の売り込みに使えるケースも多いです。MBAなど経営や起業に役立つ資格とその難易度、また資格以外に評価される知識や経験をご紹介します。
1. 起業や経営に資格は「必須」ではないが、役立つことは多い
起業や経営をするのに、特別な資格は必要ありません。中卒や高卒で経営者になった人もいますし、何の資格も持たずに起業をした人も数多く存在します。
しかし資格の取得やそのための勉強が起業や経営の役に立つケースは少なくありません。
資格が役に立つ主なケース
起業や経営において資格が役立つのは、主に以下の2つのケースです。
会社経営には法律、会計、営業、人事など様々な知識が必要です。資格のために勉強することで、経営に役立つ知識を体系的に身につけることができます。
また経営者が資格を持っていた方が、会社や製品・サービスへの信用にも繋がります。
例えば経営者が会計や財務に関する資格を持っていれば、「この人は会社に必要なお金とその流れについて理解をしている」と思われ、投資家や銀行の信用を勝ち取りやすいでしょう。 また「ファイナンシャルプランナーが作った家計管理サービス」「栄養士が作った健康管理アプリ」など、経営者の持つ資格が営業やマーケティングに役立つことも多いです。
2. 起業・経営に役立つ資格8選と難易度
どんな業種での起業や経営でも役に立つことが多いのが、以下の8つの資格です。難易度 | 一般的な学習期間 | |
---|---|---|
ビジネス実務法務検定 | ★★〜 | 2〜8ヶ月 |
簿記(日商簿記2級など) | ★★~ | 半年~ |
行政書士 | ★★★★ | 半年〜1年 |
社会保険労務士 | ★★★★ | 半年〜1年 |
中小企業診断士 | ★★★★ | 半年~1年 |
MBA | ★★★★ | 2年~3年 |
公認会計士 | ★★★★★ | 1年~3年 |
税理士 | ★★★★★ | 2年~5年 |
5.ビジネス実務法務検定
ビジネス実務法務検定は東京商工会議所が主催している試験で、ビジネスで求められる実践的法律知識が問われる試験です。
昨今は企業のコンプライアンスが重視されており、特に大企業の経営者には高い順法意識が求められます。ビジネス実務法務検定の勉強をすることで、「企業としてしてはならないこと」「経営者としてしてはならないこと」などを理解できます。
ビジネス実務法務検定には1級から3級までの3レベルが用意されており、3級は「ビジネスパーソンとしての業務上理解しておくべき基礎的法律知識」を、2級は「弁護士などの外部専門家に対する相談といった一定の対応ができるなど、質的・量的に法律実務知識」を有しているレベルと定義されています。
(※東京商工会議所ホームページより)
6.簿記
簿記とは「帳簿記録」の略語で、企業の取引やお金の出入りを正しく記録し、企業の経営成績や財務状況を明らかにすることを指します。
この簿記の能力を示すための資格は「日商簿記」「全経簿記」「全商簿記」の3種類があり、最も知名度が高いのが東京商工会議所主催の「日商簿記」です。
簿記が分かれば、売上やコスト、キャッシュフローの状況を正しく把握できるので、経営者として素早い意思決定ができます。また起業した直後など、経営者が自分で経理の仕事をする時にも重宝するスキルです。
7.行政書士
行政書士は行政書士法に基づく国家資格で、官公庁への届け出に必要な「書類作成業務」、作成した申請を代行する「許認可申請の代理」、相談を受けてアドバイスを行う「相談業務」の3つを行います。
行政書士の資格があると、会社設立に必要な定款などの作成に加え、会社運営に必要な契約書や会計帳簿などを作成できます。また行政書士は雇用や特許に関する申請や助言も行うため、資格取得のために勉強することで「外国籍の人を雇う時には特別な手続きが必要なのか」「特許の申請を考えた方が良いだろうか」といった判断もできるようになります。
行政書士として独立する道もあるので、特に自分で起業を考えている人、それほど大きくない企業の経営者を目指している人に役立つ資格でしょう。
8.社会保険労務士
社会保険労務士は「社労士」とも呼ばれ、社会保険労務士法に基づく国家資格です。経営資源である「人・モノ・金」の「人」の部分のエキスパートであり、労働社会保険諸法令に基づいた「書類作成業務」、作成した書類の「提出手続代行業務」、そして労務面からの課題や改善を提供する「コンサルティング業務」の3つを行います。
社会保険労務士になるためには労働社会保険関連の法律を学ぶ必要があるため、法律に則った労働環境を作ることができるようになります。労働者の安全管理は経営者の責務なので、安全や衛生に高い意識を持てることは経営者にとって大きなプラスです。
また各種給付金や奨励金の申請も自力でできるようになるため、特に起業したばかりの経営者にとっても嬉しいスキルです。社会保険労務士として独立する道もあるので、いずれは開業したいと思っている人にもおすすめです。
9.中小企業診断士
中小企業診断士は中小企業支援法に基づく国家資格で、ビジネスマンに人気のある資格です。経営コンサルタントが能力の証明として取得する他、勤務先での異動や昇進、新しい会社への転職、あるいはコンサルタントとして独立するために取得されることもあります。
経営戦略、組織・人事、マーケティング、財務・会計、生産管理、店舗運営、物流、経済学、IT、法務と幅広い知識が求められるため、経営に関わる知識を全般的に身につけることができます。
どんな人でも受験でき、また独学でも準備ができるため、社会人にも挑戦しやすい資格です。実際、これまでの資格受験者も多くが民間企業に勤務している人でした。
(※中小企業診断協会ホームページより)
10.MBA
MBAとはMaster of Business Administrationの略で、日本語では「経営学修士号」と呼ばれます。経営学の大学院修士課程を修了すると授与される「学位」で、厳密には「資格」ではありません。 そのため資格試験の受験ではなく、大学院のカリキュラムを受け、卒業することが求められます。
MBAでは経営戦略・マーケティング、人材マネジメント、財務・会計などを学び、ケーススタディやディスカッションを通じて思考力も磨かれます。こうした知識や思考力は、大企業の経営や新規事業の検討で役立つことが多いです。
MBAを取得すれば学歴も大学院卒になり、またビジネスへの深い理解を示すことができるため、社内での昇進にも有利です。また経歴に箔がつくので、会社や自分への信用を高めることにも使えます。
11.公認会計士
公認会計士は公認会計士法に基づく国家資格で、会計のプロフェッショナルともいうべき存在です。企業への監査は公認会計士にしかできない業務であり、その他にも財務・経理やそのマネジメント、株式公開支援、会計コンサルティングなどを行います。
財務諸表など財務や経理に関する書類を理解する能力は経営者に不可欠ですし、株式公開などの知識も上場を目指す経営者の助けになります。
年齢や学歴に関わらず誰でも受験できる資格ですが、試験の合格率は毎年10%と難易度が高く、試験合格後も実務補習の受講と2年以上の実務経験が必要です。 しかし弁護士・医師と並ぶ三大国家資格の一つであるため、経営に役立つのはもちろん、公認会計士として独立したりコンサルティングファームに転職したりとキャリアの可能性を大きく広げる資格です。
【関連記事】最高峰の国家資格でありながら、知られざる業務実態とキャリア~現役公認会計士が語る最前線事情~
12.税理士
税理士は税理士法に基づく国家資格で、適切な納税やそのための申告をサポートするプロフェッショナルです。税務に関連する書類作成や申告の代行に加え、納税額の計算や、法律の範囲内で認められる節税のためのコンサルティングも行っています。
企業には納税の義務があり、納税を見越した資金繰りをするためにも、経営者には税に関する知識が求められます。また税理士試験では財務諸表なども出題されるため、財務や経理に関する書類も読めるようになります。
税理士試験は出題資格が複雑で、「大学、短大または高等専門学校を卒業した者で、社会科学に属する科目を1科目履修した者」「公認会計士試験の短答式試験に合格した者」など様々な選択肢があるため、受験を考えている場合はまず受験資格を確認しましょう。
税理士になるには、試験合格後に2年以上の実務経験が必要なため、その点でもハードルが高い資格です。
3. 起業や経営に役立つ「資格以外」の知識や経験
資格取得を目標にすると勉強の励みになりますし、体系的に学べるというメリットもあります。しかし起業や経営を目指す上では、実践も重要です。
フレームワークなど分析の観点は様々なシーンで役立つ
会社経営を取り巻く環境や課題が理解できるようになっておくと、起業のヒントになりますし、経営者として「今後の方向性」を決める時にも役立ちます。
その第一歩は、分析のためのフレームワークを身につけることです。ただフレームワークを「知っている」だけではなく、そのフレームワークを「使える」ようになるのが重要です。そのためにも、実在する企業で経営課題を分析してみましょう。
自分の分析結果が、その会社の中期経営計画と近いものであれば、かなり高いレベルの分析ができるようになっている証です。経営者に求められる高い視座を身につけられていると言っても良いでしょう。
【関連記事】経営戦略とは?定義、種類、フレームワーク、戦術や事業戦略との違い
業種や企業を横断して事例を学べるコンサルというキャリアも
「経営者になるためのトレーニングをしたい」と考えているのであれば、コンサルタントとして経験を積むのも一つの選択肢です。多くの企業と向き合い、経営者の視点で考えるという経験ができる点で、コンサルティングファーム以上の職場はありません。
例えば「DeNA」を設立した南場智子さんはマッキンゼー出身、また回転寿司「スシロー」を経営する「あきんどスシロー」の会長水留浩一さんはローランドベルガー出身です。
Liigaではコンサルティングファームの求人はもちろん、コンサル転職を支援してくれるエージェントの口コミ、コンサル経験者のコラムなども掲載していますので、ぜひ活用してください。