ジョブローテーションとは?意味やメリット・デメリット、導入ポイント
2023/10/19
#キャリア戦略概論

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社員の適性理解や組織の活性化に役立つ一方、現在では「時代遅れ」とも言われるジョブローテーション。ここでは制度の意味や期間、企業と社員それぞれのメリット・デメリット、導入のポイントなどを解説します。

ジョブローテーションとは

ジョブローテーションは、人材育成などのために定期的な職場異動や職務変更を行う制度です。社員は半年〜数年のスパンで部署や職務を変更し、様々な経験を積んだり、人脈を広げたりします。
独立法人労働政策研究・研修機構が1万社を対象に行った調査(2016年)では、53.1%の企業がジョブローテーションを採用していました。
※出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業の転勤の実態に関する調査」

人事異動や社内公募制度との違い

人事異動とジョブローテーションでは、実施の意義・目的が異なります。人事異動は欠員補充や部署の強化など、課題の短期的な解決を目的とした配置転換です。一方ジョブローテーションは人材育成や組織の活性化など、人事異動に比べて中長期的な視点で行われます。
社内公募制度とジョブローテーションの違いは、異動に対する自主性の有無です。 社内公募制度は、特定部署への異動希望者を募る制度で、社員が自主的に立候補します。一方ジョブローテーションでは、経営側が社員や部署の選定を行います。ただし現在は、社員の意思を尊重したジョブローテーションを行う企業も増えています。

実施スパン(期間)と頻度

一般に、ジョブローテーションは短くて半年、長くて3〜5年ごとに行われます。
社員の年齢や経験によって期間・頻度が異なる場合も多く、例えば新入社員は短期間でジョブローテーションが行われやすいです。これは新入社員の職務適性を見極めたり、社員に企業の全体像を知ってもらったりするためです。
一方、中堅社員以上では業務理解の深化や人脈構築のため、ジョブローテーションの頻度が下がる傾向があります。

ジョブローテーションの意味と目的

企業がジョブローテーションを行う目的は、主に以下の3つです。

  • 人材育成
  • 組織の活性化
  • 属人化の防止

人材育成

新入社員に関しては、企業や自社商品・サービスに対する理解、視野の拡大、幅広いスキルの習得などを目的としてジョブローテーションを行うことが多いです。また中堅社員以上では、一般にリーダー人材の育成を目的に行われます。

株式会社国際協力銀行 企画部門 池原学志氏

例えば新卒の場合は、最初はさまざまな部署を経験してもらい、職務遂行能力を培い、キャリアイメージを形成してもらいます。
(中略、中堅になった)以降は、認定されたある程度絞られた分野の中でジョブローテーションをしながら、リーダーシップや専門性を付けていきます。「社内のことが広く浅くできるようになる」といったジョブローテーションではないんです。

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組織の活性化

同じメンバーで業務を担っていると、業務の進め方や物事の捉え方がワンパターンになりがちで、部署間の交流も滞ってしまいます。ジョブローテーションは人材の入れ替えによって業務に対する発想の転換を促すとともに、部署間でのコミュニケーションを取りやすくします。

属人化の防止

特定の業務を一部の社員だけで担うと、社員の負担は大きくなりがちです。休職や退職があると穴埋めが難しく、業務が滞る可能性もあります。こうした業務の属人化を防止し、業務を多数の社員で共有することもジョブローテーションの目的の一つです。

制度のメリット・デメリット

ジョブローテーションの導入は、必ずしも良いことばかりではありません。以下のように、企業・社員それぞれにメリットとデメリットがあります。

メリット デメリット
企業側 ・適材適所の人材配置を考えられる
・人材育成を促せる
・業務の属人化を防げる
・組織の活性化に繋がる
・スペシャリストを育成しにくい
・異動直後は生産性が下がりやすい
・社員のモチベーション低下や離職に繋がることも
社員側 ・幅広い業務経験を得て視野が広がる
・キャリアパスを描きやすくなる
・人間関係が広がる
・専門知識・技術の習得がしにくい
・異動直後はキャッチアップに苦労する
・希望しない部署への配属もあり得る

企業側のメリット・デメリット

企業側としては、ジョブローテーションで社員の適性を見極めたり、企業の将来を担う人材育成ができたりします。また社内の連携強化や業務改善にも繋がります。
しかしスペシャリストの育成には向かず、特に異動直後は社員の作業効率も下がります。望まない部署への異動や慣れない業務が原因で、社員が離職する可能性もあります。

社員側のメリット・デメリット

社員側のメリットは、視野の拡大やキャリアパスの具体化に繋がることです。様々な経験を通して成長できるだけでなく、実務を通して業務の向き不向きを知ることができます。また相談できる同僚が増えたり、部署間でお互いの業務への理解が深まったりする点もメリットです。
一方で異動のたびに人間関係の形成や業務のキャッチアップが必要であり、「負担が大きい」と感じる人も少なくありません。望まない部署に長期配属され、働く気を失ってしまう人もいます。

株式会社国際協力銀行 望田典子氏

JBIC(国際協力銀行)の場合は、異動を重ねて得たスキルが全てつながってくると思います。今やっている業務が、次の部署でも生かせる。そこは大きく違いますね。
また、ジョブローテーションがあってお互いの仕事についてもよく知っているので、ほかの社員に助けられることが非常に多いです。

※インタビュー全文はこちら

実施に「向く企業」「向かない企業」

現在でも多くの企業が採用しているジョブローテーションですが、企業によって導入の向き不向きがあります。

ジョブローテーションに向く企業

ジョブローテーションの導入に向いているのは、以下のような企業です。

  • 部署や社員の数が多い(大企業)
  • 1つの事業に多くの部署が関わる
  • 企業文化の醸成・浸透を目指している

部署数が多くないと制度自体が成り立ちにくいこと、また人材育成に一定の時間やコストがかかることから、ジョブローテーションは大企業に向いています。また部署間の関わりが深い企業ほど、連携強化などの効果を得やすいです。
この他に「中小企業を傘下に入れた」「全国規模でサービス品質を安定させたい」など、企業文化の醸成や浸透を目指す場合も、ジョブローテーションは有効です。

【ジョブローテーションを採用している企業例】

ヤマト運輸/日本郵便/三菱UFJフィナンシャル・グループ/サントリーHD/アサヒグループHD/三井ホーム/三井物産/野村総合研究所/富士フイルムHD/双日/商船三井など

※ジョブローテーション導入企業のインタビューはこちら

ジョブローテーションに向かない企業

以下のような企業の場合、ジョブローテーションは向かないでしょう。

  • 各部署の専門性が高い
  • 職種ごとに給与体系が異なる
  • 長期的なプロジェクトを請け負う
  • 人材育成に時間やコストをかけられない

専門性の高い部署や事業でジョブローテーションをしていては、商品・サービスの品質維持が難しいです。またこうした企業は職務ごとに給与体系が異なる場合も多く、会計処理も複雑になってしまいます。
長期プロジェクトを請け負う企業も、ジョブローテーションには向きません。業務の引継ぎが大変なだけでなく、クライアントとの信頼関係にも影響する可能性があります。

ジョブローテーションは時代遅れ?

現在はジョブローテーションを「時代遅れ」「無駄」と評する声も少なくありません。これは、同制度が日本独自の雇用体系を前提としているからです。
海外では、新卒採用でも業務内容やポジションごとに人材を募ります。求められるのは「その業務のスペシャリスト」であり、社員は決まった業務のみを遂行するのが基本です。一方、日本では採用段階で業務内容などを限定せず、専門性も求めない代わりに企業側が部署の選定を行います。
このように、日本では企業主体の人事が主流で、ジョブローテーションもこの前提で成り立ってきました。しかし世界的には「自分で業務内容や働き方を選ぶ」のが一般的で、最近では日本でもこうした考えが浸透してきています。

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ジョブローテーション導入のポイント2つ

ジョブローテーションには様々なメリットがあり、一概に「無駄」とは言えません。しかし制度を上手く活用しなければ社員のモチベーションが下がり、企業全体の生産性も下がってしまいます。そのため導入では、以下の2つのポイントを押さえましょう。

ポイント①実施目的を明確にする

1つ目のポイントは、「なぜジョブローテーションを行うのか」「制度が将来どう役立つか」を明確にすることです。ジョブローテーションが企業だけでなく、社員に有益な制度であると分かれば、社員のモチベーション低下を軽減できます。

ポイント②社員のキャリア形成を考慮して実施する

もう1つは、社員のキャリア形成を考慮したジョブローテーションにすることです。事前に社員の「やりたいこと」「理想の働き方」を把握して配属先を決めれば、ジョブローテーションによる離職や生産性低下のリスクを下げられるでしょう。
実際に、社員の希望を考慮してジョブローテーションを行っている企業は少なくありません。

野村総合研究所コンサルティング 事業本部 西和哉氏

また、入社1年目社員にはジョブローテーションを実施しています。私の場合は1年目の前半は今と同じグローバル製造業に。下期はソリューション系の部署でシステム系の業務を経験しました。入社前から製造業を担当したいと伝えていたので希望通りの配属ですし、半年間別の部署で異なるアプローチ方法を学べたことも成長につながっていると感じますね。

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日本政策投資銀行 人事部 高松和浩氏

つまり、先ほど申し上げたような企業理念を軸として、非常に幅広い業務が展開されているわけですね。そのため、まずはジョブローテーションで複数の部署や業務を経験していただき、これらの業務をつなぎ合わせている共通の理念・価値観を体得いただいた上で、ご自身の専門領域を決めて成長していってもらうというスタンスを取っています。

※インタビュー全文はこちら

働く側が改めて考えるべきこと

ジョブローテーションは、働く側にもメリット・デメリットがある制度です。様々な経験を積むことができ、人間関係も広がるというメリットがある一方、スペシャリストになることには向かず、新しい環境に慣れるまで負担もかかります。
より良いキャリアを形成するためには、会社ごとの人事制度も踏まえて職場環境を選ぶ必要があるでしょう。ジョブローテーションが精神的に大きな負担になったり、自分の目標に合わなかったりする場合は、転職して環境を変えるのも一つの選択肢です。
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コラム作成者
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