アサイン代表・小瀬村氏がゼロから解説する #03「キャリア戦略の描き方(実例編)」
2018/08/28
#キャリア戦略概論
#良いエージェントの選び方

はじめに

先日、コンサルティングファームへの転職支援を得意とする株式会社アサイン代表取締役・小瀬村卓実氏に、キャリア戦略セミナーを開催いただきました。セミナーの概要をコラムとして以下の3回に分けてお伝えしております。

第1回:「キャリア戦略の必要性を知り、内容を理解する」 第2回:「キャリア戦略の描き方(理論編)」 第3回:「キャリア戦略の描き方(実例編)」

前回のテーマは「キャリア戦略の描き方(理論編)」でした。キャリア戦略セミナー第3回となる本コラムは、「キャリア戦略の描き方(実例編)」です。実際のケーススタディを元にキャリア戦略について語っていただきました。

第1回はこちら 第2回はこちら

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ケーススタディ1:必要スキルの特定

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ここからは実際に私が転職支援を行った方の経歴に少しぼかしを入れてご紹介していきます。このケースのテーマは「必要スキルの特定」です。

この方は新卒で人材会社の経営企画部へ入社しました。その後、総合系のコンサルティングファームへ転職しています。元々は経営スキルを持ったベンチャーキャピタリストになりたいと思って相談に来られた方でした。

しかし、話してみると、経営スキルを持ったベンチャーキャピタリストになるために、何を手に入れなければならないのか、という点で見立てがずれてしまっていたようでした。

例えば、新卒のときの就職活動も、新卒から経営企画部に入れるので、経営スキルを鍛えられるだろうと思い、入社されています。しかし、実際の経営企画の仕事は管理会計の業務に近しいのです。役員が意思決定をする際に、今の事業活動はどうなっているのか、様々なツールを使ってわかりやすく報告し、意思決定を仰ぐ仕事です。

しかし、ベンチャーキャピタルに関しては、そこまで大きな会社の支援はしないので、管理会計の業務を行っても仕方がないのです。求められることは本当に事業の小さい、種の段階からきちんとIPOやEXITに向けて伸ばしていくという経営スキルが求められます。

ベンチャーキャピタルと経営企画部では具体的な業務の内容が異なるため、経営企画で経営スキルが付いているんじゃないかと思う一方で自分がベンチャーキャピタリストになった時に活躍するイメージはつかないという状況でした。

また、その方は面談で「ベンチャーキャピタルでは、投資を行うので、バリュエーションができなければならないのでは」と仰っていました。しかし、実はベンチャーキャピタルにおいて、バリュエーションはそれほど必要ありません。

ベンチャー企業は爆発的に伸びるときもあれば全く伸びないときもあるように、成長速度の変動が激しく、予測しづらいものです。そのため、ベンチャー企業のバリュエーションは現在の会員数やマーケットの規模など大まかな指標で荒い計算になってしまい、正確なバリュエーション能力が求められないのです。

むしろ必要なのは、大手クライアントとのコミュニケーションスキルです。ベンチャーキャピタリストは、ベンチャー企業との折衝を行っているイメージが付きやすいと思いますが、実際は異なります。

彼らが投資している資金は自分たちのものではないため、大手事業会社等の資金が潤沢なところとコミュニケーションを取り、ファンドの元手を集める必要があります。この活動をファンドレイズと呼びますが、ベンチャーキャピタルに行くのであれば、ファンドレイズのためのクライアントコミュニケーション能力を手に入れなければなりません。

彼は今まで経営企画として社内の仕事をしていたので、外向きに情報を発信したり、コミュニケーションをしたりすることはありませんでした。つまり、ベンチャーキャピタリストに必要なスキルはバリュエーションではなく、クライアントコミュニケーション能力だったのです。

このように、「必要スキルの特定」の難しさが今回のケースの特徴です。そして、今後のキャリアとしては、新技術を用いた事業立案の案件をコンサルタントとして少なくとも3つは経験していきましょう、という提案をしました。

その後、ベンチャーキャピタリストになってからは、IPO企業をきちんと支援した実績を作ることも重要であるという話もしています。もちろん40歳までにですね。

結局彼は、総合コンサルティングファームに転職して、現在は自動車会社の新規事業、恐らく自動運転の案件に携わっています。現段階では夢に向かってまっすぐに進めていますし、どこかのタイミングでベンチャーキャピタルの友人につないで、彼の次の転職を支援していくことを考えています。

ケーススタディ2:支援会社の特徴

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2つ目のケーススタディとして支援会社、例えばコンサルや広告会社等のアドバイザリー企業の転職に関してご紹介します。

Liigaの会員の皆さんはなんとなく感じられているかもしれませんが、物凄い勢いで周囲にコンサルタントが増えていると思います。心の中で「みんなコンサル行くなあ」とか思っていらっしゃるかもしれません。実は、こういった支援会社はキャリア上の位置づけで気をつけなければならないポイントがあります。

今回のケースの方は、新卒でコンサルティングファームに入ってサプライチェーン関連の業務に携わられており、将来は事業会社の経営層として活躍したいという話をされていました。ただ、2年目にしてこのままサプライチェーン関連の業務に取り組んでいても経営層として活躍するために必要な経験が積めるのかどうか、疑問に思っており、転職を検討されていたのです。しかし、2年で転職してキャリアに傷がつかないかどうかわからないと相談に来ていただきました。

支援会社の転職業界上の位置づけで覚えていただきたいことが3つあります。1つはコンサルティングファームといった支援会社は3~5年くらい在籍するには物凄く良い環境であるということです。コンサルティングファームであれば、会社の中核領域を連続的に経験することができます。その時に鍛えられるスキルというのは中々鍛えられないものでもあるので、短期間在籍するには非常に良い環境であると思います。

2つ目は、支援会社と事業会社で転職の重みが異なるということです。転職市場においても支援会社は3~5年でスキルを身に付けて他の会社に入るために入社したという共通の認識があるので、希望と全く異なる部署に配属された時、希望の部署に移るためであれば転職することも全く問題ありません。そのため、支援会社における転職の位置づけは少し軽いと言えるでしょう。

しかし、これが事業会社→事業会社だと見え方があまり良くありません。事業会社に入社する人は、スキルを身に付けるためではなく、その事業に貢献するために入社しています。たった2~3年で他の会社に移っているということになると、事業会社に向いている人ではないのではないか、という判断をされてしまいます。

どうすればいいのかと言うと短期間で3~4社も事業会社に行かないということです。次にどんな事業をやるべきか、自分が見えないときは幅広く事業が見えるように支援会社に一旦身を置く等は有効な手です。皆さんの周りでコンサルに行かれている方の全員が全員、正しい選択であるとは思いませんが、現段階では全く問題ありません。大事なことは、これから先、どのようなキャリアを築いていくのか、ということです。

3つ目は、支援会社は5年を越えたあたりから動きづらくなるということです。理由は年収が高いからですね。例えば、7年目になって事業会社に転職しようと思ったときに年収が3割カットになるといった話はよくあります。他の理由として、コンサルタントはPL(損益計算書)を背負うような、損益のバランス感覚を持ち合わせていないことが挙げられます。事業会社に移ってPLがよくなかったら給料が下がるとなると結構負担は大きいのです。そのため、支援会社側に移ることは5年を越えたあたりから、その弊害が出てきます。この点を念頭においた上でキャリアに組み込まなければなりません。

この方には事業会社の経営企画に必ず飛び込みましょうという話をしています。そのためには「ハンズオンの支援経験やコンサルの中でマネージャーまでなるべく早く昇進しましょう。その代わり、7~8年もかけてマネージャーに上がったら、その時の年収やご家族の事情を考えると事業会社に転職する道は考えにくいですよ」と、そういうマインド面も含めてきちんとキャリアを作っていこうと話をしています。

ケーススタディ3:キャリアチェンジのステップ

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最後にキャリアチェンジに関するケーススタディをご紹介します。この方は証券会社の営業からキャリアをスタートさせました。しかし1年目にして、証券会社の営業は自分には向いていないと感じたらしいのです。ただ、非常に真面目な方でもあったので「ここで辞めてはだめだ。きちんと続けて結果を残してから辞めよう」と自分に言い聞かせてその仕事を続けられていました。

これは結構危険なパターンですね。証券会社の営業が自分にあっていれば全く問題ありませんが、それを証券会社の営業が向いていないのに5年間勤めた後にエージェントのところへ相談にくるとなると、転職する際も営業領域が中心になり、だんだん選択肢として狭まってきます。そのため、成果を残すためにひたすら同じ職場に長く居ればよいというわけではありません。

この方に、今後のキャリアについて伺い、価値観から掘り下げていったところ、マーケティング関連の仕事が向いているとわかったのですが、直接マーケティングの仕事に転職することは簡単ではありませんでした。

ではどうするかというと、まずはマーケティングリサーチの営業職として転職していくことを提案しました。そこで単なる営業としてリサーチ結果を売るのではなく、積極的に分析に関わっていくことを勧めました。そして自分が主導したマーケットレポートをその会社から出せるように動いていくのです。このようにして営業ながらもマーケターとしての仕事も少しずつ自分のものにしていくことが重要だと話しています。

もう1つ、副業を勧めました。マーケティングに力を入れているベンチャー企業があったので、そこで副業しながら少しでもマーケティングで実績を残していくことを一緒に考えています。

そのようにマーケティングの実務を経験しながら、次の転職の際には事業会社のマーケティングに移れるようにキャリアを積んでいこうと話しています。

このようにキャリアチェンジの段階では希望の職種に直接的に転職できるわけではなく、少しステップが入ることがあります。だからこそキャリアについてはなるべく若いうちに考えていただきたいのです。今の年次からキャリアチェンジ、及び自分のキャリアを考えていただくに越したことはありません。

まとめ

最後に、長期キャリアを意識したプランを練ることの重要性を再度お伝えしたいと思います。そしてキャリア戦略の出発点というものは必ず価値観からスタートしてください。自分の価値観からスタートしないと、なんとなくブランドがいいから、という他人の価値観に沿った人生を送ることになってしまいます。

しかし何十年以上も生きていると他人からは否定はされないものの、自分のことをごまかせないタイミングが必ず来ます。いかに自分の価値観からスタートしてキャリアを練って、人生100年時代のキャリアを歩んでいくのか、それが非常に大事です。具体的なキャリアのプランというのは職業情報や求人情報、キャリアメイキングに詳しいエージェントをぜひ活用してください。

最後になりますが、Liiga会員の皆さんは朝早くから夜遅くまで働き、上司のためとかクライアントのためとか会社のために働かれていると思います。それだけ頑張っている皆さんですから、社会人1年目とか3年目とか5年目とか、それぞれの区切りで構わないので自分のキャリアについて腰を据えて考える、自分のための時間というものを取っていただければと思います。

キャリアは厳しいところもありますが、自由で楽しいものでもあります。ご自身の価値観に基づくキャリアを歩んでいただければ何よりです。何か私に力になれることがあれば、転職が前提でなかったとしても、いつでもご相談にのります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。キャリア戦略セミナー第3回となる今回は、第1回、第2回でご説明いただいたキャリア戦略について詳しい事例を交えて語って頂いました。3回にも渡る本シリーズを通じて、長期キャリアを意識したプランを練ることの重要性を理解いただけたのではないでしょうか。

ぜひ今後のキャリアのご参考にしていただければと思います。

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コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。
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アサイン
小瀬村 卓実