「初めはカオス。カルチャーすらなかった…」外資投資銀行→CxO転職の光と影Vol.1 マネーフォワード・金坂直哉取締役執行役員
2019/07/12
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外資系投資銀行からベンチャー企業に身を移し、幹部として経営に携わる人材が増えている。「世界を変える」べく突き進むベンチャーならではの“夢”が、事業会社の側面支援に徹するバンカーを惹きつけるのは、想像に難くない。ただ、金融とベンチャーの世界に大きな隔たりがあるのも事実。企業規模、ビジネスモデル、働き方など-。転身で失敗しないためのポイントは何か。初回は、ゴールドマン・サックス(GS)からマネーフォワードに移った金坂直哉氏に話を聞いた。

〈Profile〉
金坂 直哉(かねさか・なおや)
株式会社マネーフォワード取締役執行役員コーポレートディベロップメント担当
2007年、東京大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス証券株式会社の東京オフィス、サンフランシスコオフィスにて約8年間勤務。テクノロジー・金融業界を中心にクロスボーダーM&Aや資金調達のアドバイザリー業務、GSが運営する投資ファンドを通じた投資及び投資先企業の価値向上業務に携わる。2014年9月、マネーフォワードに参画。2015年6月同社CFO、2019年3月より現職。
2児の父、好きなTV番組は「テラスハウス」。

“カオス”の創業期ベンチャーに転職

「初めはまさしくカオスだった」-。金坂氏がマネーフォワードに入社したのは2014年。会社はその2年前に設立したばかりで、従業員は20-40人と今の10分の1にも満たない。当初はカルチャーギャップどころか、「カルチャーすらなかった」。資金調達をはじめとした財務周りのほか、労務関連業務の必要性などにも直面。「ゼロから仕組みを作っていったものもある」と当初の苦労を振り返る。

投資銀行部門(IBD)からベンチャー企業へ転職する例は増えているが、成功が約束されているわけではない。特に創業期のベンチャーは一人一人が広範な業務を担うことが多く、未経験の仕事に携わることも“普通”だ。「外資金融出身で苦手な労務で頑張っている人もいる。これはこれで凄いこと。私はできなかったので、もっと得意な人に任せた」と金坂氏は明かす。自身のGS時代の同期は既に半分以上が転職し、一定数はベンチャー企業に入社。ただ、「外資金融に戻る例もある」という。

金坂氏の場合、慣れ親しんだ金融・財務分野でも苦戦があった。転職直後から十数億円規模の資金調達を主導したが、投資側を説得しきれないケースもあり、調達プロジェクトは難航。「上場企業とベンチャーの資金調達は全く違う。ベンチャー特有の指数関数的な成長ストーリーを理解してもらい、信じてもらうのは簡単ではない」。

伝統的ビジネスならば調査レポートなども出回っているため投資側は判断しやすいが、ベンチャーのビジネスはそうもいかない。「(苦戦は)想像していたが、それ以上だった」-。金坂氏は苦笑いする。

こうした壁に何度か直面しつつも、2017年9月の新規上場(IPO)に代表される激動の時期を経て、既に入社から5年近くが経過。2019年3月からは自ら採用に動いた元シティグループ証券IBDの内河俊輔氏に財務トップを任せ、自身はアライアンスやM&A戦略の陣頭指揮を執るなど、今や日本を代表するFintechベンチャーであるマネーフォワードの“要”として、定着した。

では、金坂氏のようなIBD出身者がベンチャー企業で活躍するためのポイントは、どこにあるのだろうか。「ベンチャーは社会課題の解消を目指すなどの理念がある。理念に共感できるかは、やはり大きい」-。金坂氏は断言する。 description

世界に埋没する日本を変える

2014年前半のある週末、GSに在籍中の金坂氏は、知人の紹介で当時東京・三田にあったマネーフォワードを訪れていた。オフィスは雑居ビルにある質素なもので、六本木ヒルズ内のGSとは似ても似つかない。いわゆる設立間もないベンチャーの姿が、そこにはあった。

向き合っていたのは、辻庸介社長ら複数の創業メンバー。「日本の金融サービスや社会を変え、もっと良くする」という強い言葉には、心動かされるものがあった。自身も幼少期とGS時代の1年を米国西海岸で過ごした経験から、「日本の存在感が世界に埋没している」という危機感を抱いており、同じく海外居住経験を持ち日本を変えようとする辻氏の理念に共鳴。その後数週間で、入社を決めた。迷いなき理念への共感は、以後の苦境に打ち勝つ原動力になったという。

「ベンチャー企業はどの会社も基本的にオープン。入社前に社内の色々な人と会い、よく話をした方がいい」。金坂氏は転職を考える現役バンカーにエールを贈る。共感できる理念をトップが持ち、またそれが社内に浸透しているかを見極めるのに必要なのは、「会社に遊びに行ったり一緒にランチに行ったり、とにかく“中の人”とコミュニケーションをとること」と言い切る。

ただ、理念に共感できるベンチャー企業に出会っても、「以前とやることが全く違うことは、意識しないといけない」と金坂氏は釘を刺す。IBDのバンカーは顧客へのアドバイスなどにより自ら収益を上げるが、ベンチャーCFOなどの場合、直接収益を生む立場ではない。マインドセットの刷新は必須だ。

また、金融は比較的属性の近い人が集まりやすいのに対し、ベンチャーはより多様性に富むのが特徴だ。「エンジニア、デザイナー、ビジネス職、カスタマーサポートなどが一つのプロダクトを多面的に支え、各ポジションのどれが欠けても成立しない。価値観、会社に求めているもの、モチベーションなどが皆異なるため、互いに尊重し合うことが凄く大事になる」と金坂氏は強調する。

転職すべきはVP?それともMD?

転職のタイミングはどうか。金坂氏はGSでVP(ヴァイスプレジデント)になった後の入社8年目で転身を決意。「元々、VPになるくらいまでは(GSで)働こうと思っていた」という。IBDにおけるVPはプロジェクトマネジメントなど一定の裁量を与えられる立場だ。クロスボーダーM&Aをはじめ重要案件をVPとして手掛けた経験が、大きな財産になったことは言うまでもない。

当時、29歳。若さもあり「チャレンジしたいと思った」。プライベートでは入籍間もなかったが、妻も「予想より早かったけど、がんばってね」と背中を押してくれた。結果的に、「時期としてはちょうど良かった」と振り返る。

他方、最適な転職時期については「人それぞれなのでは」と金坂氏は指摘する。GSで先輩だった瓜生英敏氏はMD(マネージングディレクター)になった後、20年近く勤めたGSを退職し、2018年2月にビザスクに転職。現在はマネーフォワードの監査役も務める。瓜生氏は金坂氏にとってGS時代の最後数年を共にした仲であり、「プロとしての姿勢を学んだ」と尊敬する人。MDクラスだからこそ得られる“凄み”も、存在するという。 description

ベンチャー転職に不安なし

ベンチャー転職には一定のリスクが存在する。金坂氏に不安はなかったのだろうか。決断に影響したのが、2012年夏から約1年のサンフランシスコ勤務の経験だ。Uber、Airbnbなど現地スタートアップの急成長を目の当たりにし、「スマートフォンのプラットフォームを使って社会を変えるサービスが次々と出てくるという感覚は、強く持った」という。スマホを通じ家計簿を最適化するマネーフォワードへの転身に、「不安は感じなかった」。元GSとなると収入面で一時的なダウンは避けられないが、「ベンチャー転職はそういうもの。深く考えたら転職できない」と金坂氏は笑う。 

「だれかがやったもののコピーは、ワクワクできないことが多い」と語る金坂氏。今後については「キャリアのイメージみたいなものはあまりない」とほほ笑む。現ポジションでさらなる進化を遂げるか、それとも新たなチャレンジに動くか-。いずれにせよ、「1個人として社会に貢献し続けることが大事。会社経営はGS時代から関わり、やりがいを感じている。これからも経営に関わることになるはず」と先を見据える。 description

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コラム作成者
Liiga編集部
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