論理的であろうとするために陥ってしまう「ケース問題の罠」とは。プロによるケース面接対策 #01
2016/06/07
#戦略コンサルのケース面接対策

はじめに

さて、前回の「都内のタクシー台数」推定のお題では、「ありがちな良くない例」を示しつつ、基本的な心構えを中心に記載させていただきました。今回は、もう少し踏み込んだケースの内容を、3部構成にてお伝えしていきます。

前回のコラム:フェルミ推定のプロフェッショナルが語る!ケース面接で見られる論理力の本当の意味とは?

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ケース面接の落とし穴

私が、多くの方のケース面接練習をマンツーマンで行っていく中でわかってきたことの1つは、多くの方は「論理的であることを伝えよう」とするあまり、かえって「論理的でない考え方」をしてしまう方が多いということです。

詳細は後述しますが、本来「考える」ことと、「伝える」ことは違うはずなのですが、ケース面接といわれると、ついつい論理的に伝えることばかりを重視してしまい、本来あるべき考えるプロセスが歪んでしまったために、非常に非論理的な解を導いてしまう方が多いです。

また、「論理的に考えられた答え」を考え出そうとして、いきなり「論理的な視点」から考えようとしてしまうために、結果として偏った/非論理的な答えを導いてしまいます。

しかし、本来の「考えるプロセス」を思い返せば、いきなり「論理的な視点」から考えようとするのは不自然なアプローチです(こちらも詳細は後述します)。

一方で、彼らも「ケース面接」と言われなければ、もっと柔軟な考え方をもとに、上記のような問題が発生しない解き方ができるはずなのですが、「ケース面接」ということを意識するあまり、普段は行わない不自然なアプローチで取り組んでしまい、かえって「非論理的」な回答をしてしまいます。

問題解決プロセスの前提確認

本題に入る前に、そもそも「問題解決をどのようなプロセスで行うか」について、ここで簡単に確認しておきます。今回は、一般論ではなく、みなさんのわかりやすいように若干修正を加え、下記のような分け方で記しました。

------------------問題解決プロセス--------------------

①情報/視点を収集する ・基礎的な「情報」を収集する

②「業界を見る視点/考え方(考える上での、物事の分け方/軸/変数)」を整理する

③考える ・集めた情報をもとに、現状分析を行う ・「問題点/課題/重要ポイント」を特定する ・「問題点/課題/重要ポイント」にあった、解決策を考案する

④伝える ・聞き手が不自然に思わないプレゼンストーリーを、考えた内容から作成する ・プレゼン資料に落とし込む(資料を作成する)

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大きくは、「情報/視点を収集する」「考える」「伝える」の3ステップです(抽象的な言葉が多いので、イメージしにくいかもしれませんが、具体例を持って後述致します)。

捕捉 情報を収集するとありますが、ケース面接の場合は、インターネット検索、書籍・雑誌、ヒアリングなどの一般的な情報収集手段を利用することができません。そのため、「必要な情報を面接官に尋ねる」「頭の奥底にある記憶を引っ張り出す」ことが重要となります。

ありがちな良くない例の提示

今回は、その一例と解決策を、「ありがちな良くない例」を用いて提示します。例示するケースは、「ラーメン屋の売上を推定し、その売上を上げる方法を考えてください」です。

今回は、ラーメン屋の立地を、「東京都のJR東京駅の八重洲口近辺に位置するラーメン屋さん」とします。

これは、前半部分の「売上推定」がフェルミ推定にあたるものであり、後半の「売上を上げる方法」がケース問題にあたるものであり、回答例では分けて記載します。

皆さんは、いったん「面接官」になったつもりで、この例を読んでみてください。

ありがちな良くない例(売上推定) **【パートA】** まず、3分程度考える時間をいただいてもよろしいでしょうか(ここで3分考えて、考えをまとめる)。 【パートB】 まず、ラーメン屋の売上は、「客数×客単価」に分けられます。 この「客単価」については、私の感覚では、だいたいラーメン1つで800円程度であるため、ここでは800円と致します。 「客数」については、「席数」と「席の回転」の話に分けられます。 「席数」については、10席としたいと思います。 「席の回転」については、時間帯別に異なるので、以下では時間帯に分けて考えたいと思います。まず、ラーメン屋の回転時間は、11時から22時と致します。 【パートC】 ここからは、具体的に、各時間帯の席の回転を見ていきたいと思います。 まず、11時から13時は、サラリーマンの昼食需要があるため、ほぼ満席であると思われます。そのため、1人当たりの席の占有時間を20分とし、席が100%埋まっていると考えれば、1hあたりの1席の回転は3となり…(途中省略) (13時~20時は、いったん省略) 20時~22時は、「遅くまで働いたサラリーマンの夕食需要」と「サラリーマンの飲み会後の需要(2次会需要)」の2パターンが考えられます。そのため、1人当たりの席の占有時間を、2次会需要を考慮して、少し長めの30分とし、席が50%埋まっていると考えれば、1hあたりの1席の回転は1となり…(途中省略) 【パートD】 最後に、上記で求めた、客数500人に対し、客単価800円をかけることで、1日あたりの売上を40万円と見積もれます
ありがちな良くない例(売上向上策) 【パートE】 売上向上策として、主に2つを考えます。 【パートF】 まず1つ目は、夜の20-22時の客数増です。そのために、お店の近くで、「チラシ」「クーポン」を配るなどの呼び込みをします。さらに、ビールやおつまみなどのメニューの種類を増やし、2次会需要を満たせる商品をそろえます。 【パートG】 2つ目は、ヘルシー路線の客の呼び込みです。女性はもちろんですが、最近では男性でも健康を気にしている人が増えており、ラーメン一杯の高カロリーを気にして、さける方が増えてきました。 そのため、低カロリーやオーガニックラーメンなどをメニューに採用し、ターゲット客層を広げることで、客数増加を狙います。 (以下省略)

実は、このケースを練習に使うと、大半の方はこのようなプロセスで解答を導き出します。

さて、面接官になったつもりで、上記のケース例を読む中で、どこに疑問点が発生するでしょうか。

・【パートD】で、全顧客の客単価を800円としているが、【パートF】でも言及している通り、ビールやおつまみの分だけ20時~22時は客単価が上がると思う。話している内容が矛盾している気がする。

・【パートC】は、客層として、サラリーマンしか言及されない。しかし、八重洲は東京駅という、「交通の要所」「飲食店以外のお店も多い」場所にあるため、「旅行/移動中の客」「買い物客」など、様々なお客さんがいるのでは?

・【パートF】で言及している通り、飲み会後の2次会需要がある地域なのに、【パートB】で設定した、22時閉店は早すぎる。「経営的に非合理 or 特殊なラーメン屋」であり、そのことに対する捕捉がないことも考慮すると、適切な「前提」とは思いにくい。

・【パートG】で新たな客層を増やす話をしているが、単純に「女性客」「低カロリーを意識する客」を増やしても、大半はお昼に来店するのでは?その場合、お昼はすでに100%席が占有されており、客が増えないと想定される。

・【パートF】と【パートG】の両方にいえることだが、「思いつき」を提示されている気がする。そもそも「これらの施策が最良なのか」「なぜこの施策を実施すべきなのか」などの、これらの解決策に至った背景や論理が見えてこない。

全体感の欠如が、良くない回答を生み出す共通要因

実は、このような回答になってしまう共通原因として、全体感の欠如があります。

全体感が欠如していると、その時思いついた「一部の要因や情報のみに言及」したバランスの悪い回答を行ってしまい、結果として面接官から「理由を後付けした」「思いつきを回答した」様に聞こえ、論理的な回答に聞こえなくなります。

以下では、この全体感の欠如が起こる原因を示していきます。

ケース面接の回答者は、「業界のプロ」ではなく、ただの素人である

まず、上記の回答に対する比較対象として、仮に「ラーメン屋再生コンサルタント」なる「プロ」の方がいた場合、どのように考えるか、想像してみましょう(「売上向上策」のみを記します)。

ラーメン屋コンサルタント(仮)の頭の中 「八重洲駅に近く、固定費負担が高そうだ。このような場合、立地が良いため、昼間はサラリーマンのお客さんで満席だが、その程度の売上では固定費を賄えないことが多い。 今回、相談を持ちかけられた背景は、「客数はそれなりにあるが、収益性がよくない」といったところだろう。 こういう場合は、今までの経験上、「サラリーマンランチ需要のリピート顧客を、ピーク外の周辺時間へずらす」、もしくは「サラリーマン以外の客層のトライアル需要を取り込む」ことが、有効である場合が多い」

(※注: 筆者は“ラーメン屋再生コンサルタント”ではありません。イメージを持ってもらうため、勝手な推測を元に書いてあります。)

さて、この頭の中の考えには、下記のような、考えるための様々な業界を見る視点(変数)が出てきます。

・費用:「固定費」「変動費」 ・客層:「サラリーマン」など ・時間帯: 「ランチ」「ランチの直前直後の時間」など ・利用経験: 「トライアル」「リピート」

さらに、これらの視点を組み合わせつつ、「固定費が高くランチ以外の客獲得が必要である」という「現状分析」「課題把握」を行い、この課題を解決できる策の方向性を2種類示しています。   さて、ここからは「ありがちな良くない例」と比較していきます。この「ラーメン屋再生コンサルタント」の回答は、本記事の最初で言及した「問題解決のプロセス」の「情報/視点を収集する」「考える」プロセスを一通り踏襲しています。

念のため捕捉すると、「情報/視点を収集する」プロセスは、明示的には行われていません。

しかし、「ラーメン屋再生コンサルタント」にとって、ラーメン屋経営は日常的に触れているテーマであるため、必要とされる大部分の情報/視点が、すでに頭の中に整理されていると推定されます。

よって、「情報/視点を収集する」プロセスを明示的に行わなくても、「考える」プロセスが、しっかり実行できているのです。

捕捉 一方で、この「プロ」の回答は、「なぜその選択肢を選んだのか」といった全体感が、面接官には伝わってこない(彼の頭の中にはあると思われる)ため、「伝える」プロセスを別途検討する必要があります。しかし、今回の範囲を超えるので、省略させていただきます

一方の「ありがちな良くない例」は、最初に述べた通り「全体感の欠如」が発生しています。具体的に何が起こっているか、回答例への疑問例4つを、2パートに分けて、確認してみましょう。

まず、1パート目は、下記の3例について、再確認します。

・客単価の不自然さは、一般的にラーメン屋がどのようなメニュー(ビールなど)を取り揃えているか、あらかじめ整理しておけば、売上向上の打ち手を考える前に気づけたはず

・周りに飲み屋が多いという情報をおさえていれば、2次会需要が考えられるため、「22時閉店」が極めて不自然な前提であると気がつくはず

・時間帯別の需要において、結果的に「サラリーマン」需要のみに言及してしまったが、そもそも「どのような需要パターンが存在」するか、あらかじめ整理しておけば、他にもたくさんあることに気がつけたはず

このような状況が起こるのは、「情報/視点を収集する」プロセスが抜けていることが原因です。もし、このプロセスを行い、「情報」や「業界を見る視点/考え方」があらかじめ整理できていれば、このようなミスは起こりにくくなります。

次に2パート目は、以下の一例について確認します。

・売上向上策を考える前に、そもそも「現状分析」や「課題把握」といったプロセスがないので、2つとも「思いつき」に見える

「現状分析」「課題特定」が行えていないこと自体は、あくまで表面的な問題であり、「現状分析」「課題特定」ができない理由があります。

「現状分析」「課題特定」を行うためには、ある程度の「情報/視点を収集する」プロセスを経て、ラーメン屋という「業界に対する全体像」がないと、「相対的」に見てどこに大きな「問題」や「課題」があるかを特定できません。

よって、「情報/視点を収集する」プロセスがないこと自体が、そもそもの問題でもあります。

「業界のプロ」ではないため、まず「情報/視点を収集する」プロセスが必要

ここで上記2パートをまとめておきます。上記の「ありがちは良くない例」は、そもそも「情報/視点を収集する」プロセスが不足しているために、「考慮すべき情報や視点が抜けてしまう」「現状分析や課題特定が行われない」という問題が発生しました。そのため、全体感のない、思いつきのような回答が多くなりました。

一方、「ラーメン屋再生コンサルタント」は、「情報/視点を収集する」プロセスを、普段(過去)から行っているため、結果的には、頭の中にはまとった情報や視点を持っていました。そのため、「論理的な飛躍」や「きわめて偏った不自然な論理」が少ない回答を導き出せました。

以上の様に、ケース面接は、回答者が詳しくないテーマについて、行われることが多いです。その場合は、まず「情報/視点を収集する」というプロセスを怠らないようにしなければなりません。それによって、業界に応じて、どのような視点で考えることが可能か整理でき、状況に応じて、最適なポイントを指摘できるようになります。

捕捉 このことは、実際のコンサルティングの仕事にも言えることです。すでに経験のある業界のプロジェクトであれば不要ですが、なじみのない業界のプロジェクトに配属が決定された場合は、事前に、まず業界の書籍や雑誌を読むなどの方法にて、最低限の業界知識や業界特有の視点をインプットします。

今回のまとめ & 次回の内容

今回は、「ラーメン屋の売上を推定し、その売上を上げる方法を考えてください」というテーマに対し、「ありがちな良くない例」を示し、「情報/視点を収集する」プロセスが少なすぎることが原因であることを指摘しました。

ところが、皆さんとケース面接の練習をしている時に、「情報/視点を収集する」というプロセスを、しっかり行うようにアドバイスしても、うまく実践できない人が多いです。

なぜ、アドバイスがあっても、「情報/視点を収集する」プロセスができないのか、どうすればこのプロセスを実行できるのか、次回の記事で示したいと思います。

続き:仮説思考の間違った実践とは|プロによるケース面接対策(2)

コラム作成者
Liiga編集部
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