仮説思考の間違った実践とは。プロによるケース面接対策 #02
2016/06/07
#戦略コンサルのケース面接対策

前のコラムの振り返り

前回のコラムでは、「ラーメン屋の売上を推定し、その売上を上げる方法を考えてください」というテーマに対し、「ありがちな良くない例」を示しつつ、「なぜこのようになってしまうのか」について示し、「情報/視点を収集する」プロセスが少なすぎることが原因であることを指摘しました。

ケース面接は、「詳しくない業界」に対して出題されることが多いため、いったんその業界の最低限の情報や、業界について考える上での視点を整理することが必要です。

前回のコラム:論理的であろうとするために陥ってしまう「ケース問題の罠」とは|プロによるケース面接対策(1)

本記事の内容

今回は、その「情報/視点を収集する」プロセスが必要だとわかっていても、うまく実践できない方が多いことについて、言及したいと思います。前回の記事を読んでいることが前提ですので、まだ読んでいない方は、まずそちらを閲覧してください。

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「情報/視点を収集する」プロセスは、必要だとわかっていても、なぜかうまくできない

実は皆さんとケース面接の練習をしていると、上記のように「情報/視点を収集する」というプロセスを行うようにアドバイスしても、その直後の練習にて、「情報/視点を収集する」プロセスが、全然うまくできていないことが多いのが実情です。

なぜ、アドバイスがあっても、「情報/視点を収集する」プロセスができないのか、どうすればこのプロセスを実行できるのか、示していきたいと思います。

そもそも、「情報/視点を収集する」プロセスがうまくいかない原因が、大きく分けて2つあると考えています。その2つを以下で示したいと思います。

①ケース面接では、「仮説思考」を誤った形式で実践してしまう傾向がある

1つ目は、「仮説思考」の間違った実践です。

仮説思考には、様々なレベル感があるのですが、今回問題として取り上げるのは、比較的「大枠」のものであり、最初に述べた「問題解決プロセス」全体にかかる仮説思考となります。具体的には、以下の様なレベル感のものです。

今回の解説に合わせた、「大枠」の仮説思考のプロセスの説明 ・まず、情報や視点の収集(+現状分析)を、いったん「総花的」に行うが、「ほどほど」の分量/労力にとどめておく(対象の「業界」に詳しく、すでに最低限の知識を持っている場合、このプロセスは不要) ・次に、この時点でいったん「仮説」を考える ・この考えた仮説に沿った、「方向性」のある「情報や視点の収集」と「現状分析」を再度行う ・現状分析の結果、仮説が正しそうであれば、解決策作成の方向に向かう。仮説が外れた場合は、もう一度仮説を考える。

(仮説思考にもいろいろな種類やレベル感があります。しかし、今回この記事で言及する「仮説思考」は、特に注意がなければ、以上のもののみと考えてください。)

仮説思考に慣れていない人は注意が必要

「仮説思考」は、正しく利用すれば、非常に有用なツールです。しかし、仮説思考に慣れていない人が利用する場合には、仮説思考が悪影響を及ぼすこともあります。

例えば、「5日間で答えを考えて」といった形式であれば、仮説思考に慣れていない方であったとしても、仮説思考を意識することによって、無駄な情報収集や現状分析が減り、うまくいくことが多いです。

一方、ケース面接のような、「30分で考えて」となると、仮説思考に慣れていない方は、残念ながら仮説思考が悪い方向に作用することが多いと感じています。

具体的には、仮説思考によって、以下の様な考え方のプロセスになる方が多いです。

ケース面接にありがちな、誤った仮説思考の実践 ・「総花的」な情報収集があまりに少ない(ほぼ0)の状況で、いきなり仮説を出す(つまり、ここで言う「仮説」は、本来の「仮説」と呼べるような代物ではなく、実質的には単なる「思いつき」となる。)(無論、「自身が詳しいテーマがケースの題となった場合」や「仮説思考に慣れている方」は、この問題が発生しない) ・現状分析の結果、仮説が正かったか否かを判断する機会を設けず、最後まで(解決策を出すところまで)最初の「仮説(思いつき)」で突っ走る

ケース面接中の具体例を示すと、ケース面接において与えられる「最初の3~5分間」という極めて短い時間内で、「最初」の情報収集から、「最後」の解決策の方向性まで、すべて完了しようとします。

しかし、「30分ある面接時間のうち、最初の10%の時間(3分)で、最後の解決策の方向性まで出す必要があるのか」「そもそも、3分間で最後の解決策の方向性まで出せるような簡単なテーマなのか」ということを考えてみてください。(少なくとも、私であれば、「無理です」と答えます。)

まず、「考える時間が3~5分」という面接時間の1割程度という短さであることを考慮すると、完了しているべきプロセスは「情報/視点を収集する」程度であると思われます。そのため、「情報/視点を収集する」を中心に行えば十分だと思われます。

また、前回の「都内のタクシー台数推定」のお題でも言及しましたが、自身で100%を考え出す必要はなく、適時面接官の助けをもらうことは、全然問題ないと思われます。

その観点から見ると、いきなり最初の3~5分が終わった時点で、「解決策は○○です」といわれ、間のプロセスが大雑把であった場合、面接官も質問や助言に困るでしょう。

つまり、個別のプロセスにて、面接官のアドバイスをもらえるよう、ステップを踏んでコミュニケーションを行った方が、面接官も面接しやすいはずです。

仮説思考のことは、いったん忘れてみよう

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私は、ケース面接の練習をするとき、まず初めのうちは「仮説思考」のことを、いったん忘れた方が良いと考えています。その理由は3つあります。

理由の1つ目は、上記の様に、ケース面接に限定していえば、仮説思考が、論理的な解を考える上で悪い方向に作用していることが多いからです。

2つ目は、面接の評価における、仮説思考の優先度が低いと想定されるからです。

仮説思考は、単なるお作法であり、「フレームワーク」に近いものです。しかし、前回の「タクシーの台数推定」のテーマでも話しましたが、本来面接で見たいのは、「考える力」であり、このような「お作法」ではないと思われます。

なぜなら、このようなお作法は、入社した後で身につけることが可能だと考えられるからです。よって、優先度は低いと思われます。

3つ目は、「仮説思考」と対局にある、「総花的思考」に偏ったとしても、その偏りが極端でなければ、「ケース面接」に限って言えば、相対的に見て小さな問題と思われるからです。

前回の「タクシーのお題」でも話しましたが、ケース面接は、面接官と相互にやり取り/議論しながら進みます。そのため、「総花思考」に偏りすぎたとしても、面接官から「ここをもっと詳しく考えて」といった形で誘導が入る可能性が高く、「総花思考に陥ったために、『考える力』を示す機会を大きく減らした」とはなりにくいと想定されます。

一方、上記で述べたような、極端(不適切)な仮説思考になると、考えるべきステップ(現状分析、課題特定)を誤って省くことや、特定の項目の一点突破(サラリーマン需要)する可能性があります。

これは、前回の記事の「タクシーの台数推定」でも話した通り、面接官からすると、質問や議論が行いづらくなるため、結果として「考える力」を示す機会を大きく減らしてしまいます。

最後に、誤解のないように確認しますが、仮説思考そのものは非常に有用なツールであり、可能であれば利用すべきだと、私は考えています。

しかし、ケース面接に限って言えば、今までの様々な方との練習から考えると、仮説思考は弊害が大きく、どちらかといえば、「『総花的思考』が不足していないか、常に意識せよ」とアドバイスすべき方が多数派であると実感しております。

「タクシーの台数推定」の題でも話しましたが、仮説思考という名の「フレームワーク(お作法)」に惑わされ、本来あるべきプロセスを見失わないよう、注意してください

また、補足ですが、細かいレベルでの「仮説」を持つことは重要です。例えば、「『収益』は『売上』と『コスト』に分けられるとした後に、まずどちらから先に考えるか」といった、小さな1つ1つのプロセスレベルにおけるものです。

しかし、このレベルの「仮説」を元にした考え方は、そもそも考える上で必須であり、大抵の方は程度の差はありますが、実行できているので、今回は解説を省略させていただきます。 (ちなみにこのレベルの「仮説」を持った考え方ができない方は、「売上とコストのどちらから先に考えるべきでしょうか」といった質問を面接官に行ってしまいます。これが「考える」力を面接官に見せる上で、良くないことは、わざわざ説明をしなくてもご理解いただけるかと思います。)

②「考える」ことと「伝える」ことを、しっかり分けられていない。

「情報/視点を収集する」プロセスがうまくいかない原因の2つ目は、「考える」ことと、「伝える」ことが、同一化してしまっていることです。

長期間で解く場合と、短期間で解く(ケース面接)の場合でなぜかアプローチが異なる

このことを説明するために、まず「ツリー形状」による整理について、議論したいと思います。

もし、今回のラーメン屋のお題を、「5日間で考えてみて」と言われた場合、どのように解くでしょうか。おそらく、自然と、情報収集をはじめに行う方が大半だと思います。例えば、下記のような内容です。

-----------------5日間で考える場合------------------- ・インターネットで調査(「ラーメン屋経営とは?」「八重洲はどんなところ?」) ・視察(八重洲に行って、周りの状況を見てみる) ・ブレインストーミング(他のメンバーがいれば、お互いの知識や考え方を共有する) -------------------------------------------------------------

一方、「ケース面接」といわれると、「まず、売上は客数と客単価に分けられて…」といった感じで、構造的(ツリー形状)に整理し始める方が非常に多いです。面接時間は30分程度しかないため、急いでいるからかもしれませんが、なぜか「5日間で考えてみて」とは、大きくやり方やプロセスが異なっています。

さて、ここで大きな問題となるのは、この「ツリー形状」の整理から始める方法でアプローチして、本当にうまくいくか否かです。それを検証するため、この「ツリー形状」の意味について考えてみましょう。

ツリー形状で考えることの弊害

ここで、一度「ツリー形状」という手法は、どの段階で利用するものなのか考えてみてください。例えば以下の2点のメリットと、それに応じた利用機会が考えられます。

--------ツリー形状のメリットと利用機会--------- ・「モレやダブりがないか確認/整理できる」 ⇒ これは「考える」プロセスの後半で利用します。なぜならば、「考える」プロセスにおいて、最初に思考を発散(様々な考えや意見を出す)ことに時間を使い、次に、考え漏れていることはないか確認するはずだからです。

・「相手に話の構造が伝わりやすい」 ⇒ これは、「伝える」プロセスです。つまり、すでに考え終わって、どんな解決策を打ち出すのか決定した後に行うことです。 --------------------------------------------------------------

以上のように、「ツリー形状」で考えるのは、一連の「問題解決のプロセス」の後ろの方です。

実は、「ツリー形状」で考えることには、大きなデメリットが存在します。

今回のお題では、売上を客数と客単価という形で、いきなり初めから「ツリー形状」に分解しています。このままいくと、例えば「利益、コスト」といった視点が、この先出てくる可能性は極めて低いです。

つまり、「ツリー形状」で考え始めると、最初に分解し始めた視点や内容の外側に位置する情報や視点は出てこない可能性が高いです。

これは、言い換えると、「ツリー形状」で整理すると、「特定の範囲内を漏れなく整理」することはできるが、「特定の範囲」の外側にある情報や視点は出てこないため、広く全体像を把握するうえで、大きなデメリットがあるということになります。

一般的に、「情報/視点を収集する」プロセスにて、まず様々な情報や意見を出し合いながら思考を「発散」させ、その後に、それを体系的にまとめながら「収束」させていくものです(ブレインストーミングの行い方を想像してみてください)。

このツリー形状は、「収束」側で利用するものです(だから、「考える」プロセスの後半や、「伝える」プロセスといった、「問題解決のプロセス」の後半で出てきます)。

その点から、「情報/視点を収集する」プロセスをしっかり行うようアドバイスしても、その人が「ツリー形状」を最初に利用しようとする限り、「特定の範囲内を網羅」することになるため、広く思考の「発散」ができず、「情報/視点を収集する」プロセスが極めて偏ったものになってしまいます。

「方眼紙に整理すること」 = 「面接官に伝えること」 である必要はない

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ここでは、さらに踏み込んで、なぜケース面接になると、「ツリー形状」で考えることから、抜け出せないのか考えてみます。

当然のことですが、「情報/視点を収集する」「考える」プロセスを頭の中ですべて行うことは困難なので、手元の方眼紙に書いて整理する必要がある方が大半だと思います。

一方、面接官に「伝える」内容も、口頭だけだと構造化が難しいので、方眼紙に整理する必要があります。

つまり、面接中の方眼紙に書かれている内容は、そもそも、「情報/視点を収集する」「考える」といった「面接官に話す必要がない」内容と、まさに「伝える」という「面接官に話す」ための内容の2つが、それぞれ別々に存在しているべきです。

しかし、「手元の方眼紙に書いている内容」と「面接官に伝える内容」を、無意識のうちに同一のものとして、この方眼紙に書いた内容のほぼすべてを、なぜか面接官に伝えようとする方がほとんどです。 (現実的には、「伝える必要がない内容」が方眼紙にほとんど書かれていない方が大半です。)

つまり、無意識のうちにプロセスが混同/同一化し、「伝える」プロセスを実行する手段にて、「情報/視点を収集する」プロセスを行ってしまっています。

そのため、「ツリー形状」を利用する中で、「情報/視点を収集する」プロセスを行おうとしてしまい、先ほど「ツリー形状」の問題点で指摘した通り、全体感が不足し、それによって「情報/視点を収集する」プロセスは不完全となってしまいます。

しかし、「方眼紙に書いてある内容をすべて面接官に説明せよ」というような指示は出ていないはずであり、「面接官に見せない内容を書いた方眼紙」があってもよいはずです。

自分がよく知らないテーマの場合は、「伝える」プロセスと、「情報/視点を収集する」「考える」プロセスを分けて、方眼紙に整理するよう意識しましょう。

今回のまとめ 次回の内容

ここまで、「ラーメン屋の売上を推定し、その売上を上げる方法を考えてください」というテーマに対し、「ありがちな良くない例」を示しつつ、「なぜこのようになってしまうのか」と「そうならないためにどういう心構えが必要か」について、記述しました。

次回は、もう少し踏み込んで、「どのようにケースを進めていくか」というテクニカルな話について、具体的な段取りの一例を示していきたいと思います。

続き:ケース問題ではどう「思考」すべきか|プロによるケース面接対策(3)

コラム作成者
Liiga編集部
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