ITコンサルとは何者か 中編〜新興ITコンサルが起こしている地殻変動〜
2021/11/13
#ITコンサルの仕事内容

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前回の記事では、アクセンチュアやアビームコンサルティング、日本IBMをはじめとする大手ファームを主な対象として、その仕事内容、職位と給与、転職と選考について解説をしました。

しかしながら、ITコンサルと呼ばれるファームは大手のファームばかりではないのをご存知でしょうか。現在、新興の日系ファームが、業界内で大きな地殻変動を引き起こしているのです。

そこで中編である今回は、日系のITコンサルの中でも新興のファームに焦点を当て、業界内での立ち位置や成功の秘訣について解説していきたいと思います。

シリーズ【ITコンサルとは何者か】(押すと開きます)

シリーズ【ITコンサルとは何者か】

押し寄せるDXの波で需要増 市場価値を高めたい若手の受け皿に

コンサルティングファームというと、世界的に有名なMBBやアクセンチュア、BIG4などを思い浮かべる方が多いでしょう。現在でも、これらのファームは業界内で存在感を示し続けています。その一方で、従来のコンサル業界の常識に囚われないようなファームが登場し、多くのプロジェクトを受注していることもまた事実なのです。

本記事では、現在コンサル業界に波乱を巻き起こしているこれらのファーム群を『新興ITコンサル』と呼ぶことにします。本節ではまず、なぜ新興ITコンサルと呼ばれるファームが登場してきたのか、その理由について解説します。

事業活動の上流に関するノウハウのコモディティ化

理由の1つ目としては、事業活動の上流に関するノウハウがコモディティ化しているからです。

コンサルが日本に上陸した頃は、クライアントの経営層に対して、『グローバルな知見』を活かして全社戦略に関する提言を行うことが主たる業務でした。しかしながら、情報化社会が進展した現在では、インターネットを使って誰でも世界中の情報にアクセスすることが可能になり、コンサルは情報の非対称性を利用してクライアントに価値提供を行うことが最早できなくなってきているのです。

事業会社内にも、社費留学等でMBAを取得している社員も出てきていますし、コンサル出身者が書籍やセミナーなどを通して、かつては専売特許だったコンサルティングのスキルを一般に広めるケースが増えています。

加えて、コンサルから事業会社に移る人材が増加し、クライアントの社内にコンサル経験者が在籍するようになりました。実際、三井物産株式会社には、総合力推進部にビジネスコンサルティング室と呼ばれる社内コンサル部隊が存在しています。

こういった状況下で、戦略を描く上流のフェーズのみならず、描いた戦略を実行していくフェーズもスコープに入れた、新しいコンサルティングファームが登場してきているのです。

企業活動とデジタル技術は不可分

理由の2つ目としては、企業活動とデジタル技術が切り離せなくなっているからです。

急速なデジタル技術の発達を受けて、今やデジタル技術なしにはあらゆる事業を円滑に進めることは不可能になっています。これまでITと直接的に関係のない事業を展開してきた企業であっても、デジタルトランスフォーメーション(DX)が求められるようになっています。しかし、デジタル領域に高い専門性を持っている社員が在籍している企業は日本にそれほど多く存在せず、DXがなかなか進展していないのが現状です。

そのため、デジタル領域に高い専門性を持つ高付加価値の人材をコンサルティングファームに在籍させ、こういった人材を顧客企業に期間限定的に送り込むことで、顧客企業のDXを進展させていくようなプロジェクトが増加しているのが、現在のコンサル業界のトレンドなのです。

こういった流れの中で、デジタル領域に特化し、より高い専門性を持ってクライアントに貢献したいと考え、デジタル技術に特化したファームに身を移すコンサルタントが出てきているのです。

人材流動性の高まり

理由の3つ目としては、日本の中途市場における人材の流動性が高まっているからです。

今や終身雇用は崩壊し、新卒で入社した会社に生涯勤め上げるというキャリアは考えにくいものになっています。こういった状況の中で、コンサル業界は自身の市場価値を高めたいと考える若年層にとって人気の業界になり、中途入社でコンサルタントに挑戦するような人材が増加傾向にあります。

こういった中で、従来の伝統的ファームで経験を積んだ人材が自分の理想のファームを求めて起業をするケースが出てきています。そして、こういったファームに、成長意欲の高い若年層が多数入社しており、現在新興ITコンサルが急成長を遂げる大きな原動力となっているのです。

ワンプール制ならではの多種多様なPJアサイン 営業の完全分業による圧倒的な高稼働率

ここまで、コンサル業界に波乱を巻き起こしている新興ITコンサルの登場の背景について解説してきました。

ここからは、新興ITコンサルが有している特徴について解説します。後発だからこそ為せる、業界の常識に囚われない取り組みに注目していきましょう。

“高級派遣”モデルの採用

1つ目の特徴として挙げられるのが、“高級派遣”モデルの採用です。

従来のコンサルタントは、顧客企業と頻繁に接点を持つものの、各ファームのオフィスや現場でコンサルティングワークを行うことが通例でした。

その後、大手ファーム各社は顧客企業のオフィスに出社し、顧客企業が用意したプロジェクトルームに常駐しプロジェクトを進める、客先常駐モデルを導入しました。

そして、新興ITコンサルは客先常駐モデルの派生形として”高級派遣”モデルを確立させ、コンサルティング業界に新たな潮流を生み出すことになります。

“高級派遣”モデルとは、顧客企業には雇えない人材、ナレッジを蓄積する必要のない業務を迅速に推敲できる人材を顧客企業に常駐させて、あたかも貸し出すことでコンサルティングフィーをもらう、という形のビジネスモデルを指します。

上述の通り、日本企業は早急なDXを求められている一方で、自社内にデジタル関連の知見を持った人材を確保するためには、莫大な採用コストがかかります。そこで、そういったノウハウを有している人材をコンサルから期限付きで貸し出してもらうことで、社内のDXを推し進めようと考える企業が出てきているのが現実です。

その上、新興ITコンサルは社内にナレッジを貯める必要がないエクセル・資料作成スキルを有した人材や、PMOを担当できる人材をクライアントに常駐させることで、莫大なフィーを獲得できるモデルを作り上げたのです。

全社的なワンプール制の採用

2つ目の特徴として挙げられるのが、全社的なワンプール制の採用です。

ワンプール制というのは、アナリストからパートナーまで全てのコンサルタントが同じ部門に所属する制度のことです。BIG4の中でも一部の総合コンサルは、新しくジョインした新入社員に幅広い経験を積ませるため、入社後1〜2年は幅広いチームのプロジェクトにアサインさせる制度を導入しています。しかし、基本的に総合ファームの組織構造はインダストリー・サービスによって部門が構成され、部門内でプロジェクトをこなし専門性を身につけていく形式が取られています。

一方の新興ITコンサルは、全社的なワンプール制を導入する方が、自社のコンサルタント、顧客のいずれにとっても望ましいと考えているようです。

全社的なワンプール制を導入するメリットは大きく分けて2つあります。

1つ目は、自社のコンサルタントのキャリアの幅を広げることができる、という点です。

ワンプール制では、コンサルタントは幅広い性質のプロジェクトに携わることが可能になり、自分のキャリアを主体的に形成することができます。将来的なキャリアプランを踏まえて社内で経験したいプロジェクトを選択できるのです。

2つ目は、顧客の複雑な経営課題の解決に繋がりやすい、という点です。今や、顧客企業が抱えている経営課題は複雑になり、単一の業界に視野を絞っているだけでは解決し得ない場合も往々にしてあります。そこで、ワンプール制で多種多様なプロジェクトを担当しているコンサルタントであれば、ある業界でのプロジェクト経験を他業界のプロジェクトに生かして、有用なインサイトを導き出すこともできるのです。

営業とコンサルの完全分業制の採用

3つ目の特徴として挙げられるのが、営業とコンサルの完全分業制の採用です。

コンサルティングファームは、自社がプロジェクトを受注するために営業活動を行います。

従来のコンサルでは、これはパートナーやシニアマネージャーが担当していた業務であり、顧客開拓のためにセミナーの実施や書籍の執筆などを行っています。

一方の新興ITコンサル各社は、社内に営業部隊がコンサルティング部門とは別に設けられています。

営業部門とコンサル部門を完全分業制にするメリットは大きく分けて2つあります。

第一に、営業力の高さによる、受注プロジェクト数が増えることが挙げられます。

営業部は各業界・各社の情報を収集し、ビジネストレンドを踏まえてプロジェクトを受注してきます。また、どんどん案件を獲得しようという、いわゆる“体育会系”の社風となっているファームもあるようです。

第二に、コンサルタントの稼働率を高めることができ、収益構造が良好になります。

ベイカレントコンサルティングの2022年2月期第1四半期決算短信によると、2021年3月~5月における稼働率の平均は、約90%の水準であると公表されています。これは従来のファームと比較しても極めて高い数値であり、この数値を実現できるのはコンサルタントがプロジェクトのみに全力投球できているからであると言われています。

従来のコンサルを脅かすほどの営業力の強さ、そして稼働率の高さを武器に、急速に発展を遂げているのが新興ITコンサルなのです。

おわりに

今回は業界内で大きな地殻変動を引き起こしている新興のITファームに焦点を当て、その特徴や登場の背景を紹介しました。従来の常識に囚われずに新たな方針で拡大を続ける新興ITファームは、人員を拡充を目指しているケースが多いです。

これらのファームへの転職を希望する際は、特徴を十分に理解し、万全の選考対策をした上で選考に臨みましょう。

シリーズ【ITコンサルとは何者か】

コラム作成者
Liiga編集部
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