「“もう一つの人生”を送れる」。アーリーリタイアした40代が眺める、会社員時代には見えなかった景色
2020/12/08
#あなたはいつまで働くのか

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特集「あなたはいつまで働くのか」第7回は40代でアーリーリタイアした個人投資家のろくすけ(ハンドルネーム)さんに話を聞いた。大手日系企業に勤めていたろくすけさんは、株式投資などで生涯賃金並みの資産ができたことを踏まえ、2019年春に退職。不労所得生活に切り替えたことで、人生観がガラッと変わったという。「“もう一つの人生”を送る」ためリタイアを決意した、ろくすけさんの見る景色とは。【南部香織】

〈Profile〉
ろくすけ
投資歴約20年の元サラリーマン投資家。40代でアーリーリタイアし、現在は専業の個人投資家。投資信託の積み立てから資産運用を始め、現在は日本株への長期投資を中心に行っている。「日経マネー」で「ろくすけさんの勝てる株式投資入門」を連載中。現在の運用資産額は3億円超。ブログ「ろくすけの長期投資の旅」を運営している。




 

仕事が唯一の使命とは限らない。自分が社会に貢献できることは何か考えた

――アーリーリタイアを考え始めたのはいつごろですか。

ろくすけ:考え始めたのは2018年に入ったころです。そして19年の春に、ずっと勤めていた大手日系企業を退職し、実際にリタイア生活に入りました。

実はそれまではリタイアなどまったく念頭になく、株式投資も何か目的があったわけではありませんでした。ぼんやり老後資金として考えていたぐらいでしたね。

――何がきっかけでリタイアを考えたのですか。

ろくすけ:18年に入ったころに仕事内容が変わることになり、それまでは楽しく働いていたのですが、あまり楽しめなくなったのです。長期的に見てもそれが改善されることは難しいだろうと感じました。業界の展望も明るくなさそうでしたし。

その前年には生涯賃金に値するほどの資産がたまっていたので、冷静に考えたらこれは辞められると気づいたわけです。“もう一つの人生”を送れるぞ、と。

また、そのころ個人投資家としてある程度知名度が出てきて、雑誌からインタビューされたり、原稿を依頼されたりしていました。そういったところから投資に関する本を書くなどやりたいことが出てきたことも理由の一つです。

――リタイアすると決めて、人生観は変わりましたか。

ろくすけ:すごく変わりました。リタイアを考え始めてから知ったのですが、ドイツの詩人ゲーテの言葉にこういうものがあります。「自分自身に命令しないものは、いつになっても下僕にとどまる」。

――どういう意味なのでしょう。

ろくすけ:人は主体的に自分の人生のオーナーにならなければいけない、という意味に私は捉えました。

私の人生はそれまでは世間的によしとされていたレールに乗っていたと思います。中学受験をして、難関大学に入って、大企業に入社して、それで一丁あがりだと思っていました。そのレールから降りて、いわば広い草原に放り出されたときに、何をするかは自由、一つ一つ自分で考えて選んでいかなければいけないんだと実感したわけです。

――仕事観についても変わりましたか。

ろくすけ:働くことが必須でなくなったときに、文書の体裁を整えるとか、会議を何度も延々とやるなどという、今までなんとも思っていなかったことが無駄だと思うようになりました。実は働いている「ふり」をしている時間が長かったんだと。

投資をやっていると、どうしても投じた金額に対するリターンを意識します。同じように、自分の時間をいかに有効に使うか、この仕事をするのが自分でなければいけないのか、ということを真剣に考えるようになりました。

人は誰でも人生の使命を見つけられると思います。それは仕事でなくてもいいのです。働くとは「社会に貢献すること」と広く捉えることもできます。私はもう会社勤めはしていませんが、株式投資について伝える活動をしているので、そういう意味ではいまだに「働いている」ともいえます。 description

やりたくないことはやらない。ネガティブな感情を抱く機会がなく、毎日が穏やか

――リタイア後はどのような生活をしているのですか。

ろくすけ:自分が行っている株式投資の方法を伝えるために、ブログの執筆、講演、それから雑誌に連載もしています。

最近は米国株に投資する人が多く、日本株は博打的な売買でもうけるといった内容を目にすることがあります。ですが、私は日本株も銘柄をきちんと選び、時間をかけて投資すれば十分リターンを得られると思っており、それを伝えることが自分にできることではないかと考えました。

それから、旅行にも月1~2回は行っています。時には地方で開かれる株主総会への参加を兼ねることもあります。会社員時代にはなかなかできなかったですから。株主総会が集中するのは、5月と6月なので、その時期は忙しいです。

毎日の話ですと、家事をしてから、喫茶店に行って投資に関する本を読んだり、企業分析をしたりしています。また、健康維持のためにジムにも行っています。

――リタイア生活のよいところは何ですか。

ろくすけ:自分の思い通りにライフスタイルを決められることです。それまでは仕事が第一にあって、残った時間がプライベートだったわけですが、今では全て自由な時間です。

それから、したくないことはしなくてすみます。会社員時代は、やりたくなくてもやらざるを得ないことがあったり、人がやっていることにネガティブな感情を抱いたりということがありました。そういったことが全くなくなり、毎日を穏やかに過ごせています。

――デメリットはありますか。

ろくすけ:周囲からの承認がないことと、孤独になりやすいことでしょうか。会社員のように誰かが評価してくれるわけではないので、人によってはそれがつらく感じるかもしれません。

私の場合はブログなどを通じて反応をもらえていますが、逆にそういうことでもしていないと、社会から孤立したような感覚にもなってしまいます。私には妻子がいるのですが、独身だったらアルバイトでもしていたでしょう。

また、すべて自由な時間ということは、意識して主体的に予定を入れていかないと、淡々と過ごしてしまって、もったいないことにもなりかねません。 それから、この生活をずっと続けていけるのか不安な部分もあります。

――資産がなくなってしまうということでしょうか。

ろくすけ:その点はあまり心配していないのですが、執筆活動や講演がもしなくなってしまったら、やることがないんですよね。そうなると精神的にしんどくなってしまうかもしれないので、新しく取り組むことを見つけようとも思っています。

収入や地位のために働くのは40代まで。その後は働く人もリタイアする人も「やりたいこと」が必須

――ろくすけさんのような生活に憧れている若い世代にアドバイスはありますか。

ろくすけ:20~30代は、やはり働いていたほうがいいと思います。人生が後半に差し掛かってくると、気力がなくなってくるので新しいことにチャレンジしにくくなります。ですから、気力と体力が充実している年代には、何らかの仕事に打ち込んだほうがいいと思います。

それに20~30代に働いていれば、自分の適性を見極めることもできます。私も仕事をしていく中で、自分の向き不向きがわかるようになりました。仕事をする期間がある程度長くあり、その中で他人から評価されたり褒められたりしないと、自分の強みはわからないと思います。

それが見つけられないままリタイアすると、向いていることややりたいことがわからず、社会的に孤独になってしまうかもしれません。20年ぐらい働くと、自分の人生の使命がなんとなく見えてくるのではないかと思います。

――ではろくすけさんのように20~30代は働いて、その後リタイアすることを考えている方々には何かアドバイスはありますか。

ろくすけ:昔は「人生80年」といわれていて、定年を迎えたあと、残り20年ぐらいの過ごし方から、逆算して必要資産額を割り出していたと思います。ただ、今は100年生きることも視野に入れたほうがいいですね。

そういう意味では、かなり余裕をもって資産を蓄えた上でリタイアするか、もしくは負担を軽くして働き続ける。例えば、週3日だけ働くとか、そういうやり方もあると思います。長生きする“リスク”を認識した上で、対策したほうがいいと思います。 description

――一般論として、人はいつまで働くのが幸せだと思いますか。また、何のために働くべきだと思いますか。

ろくすけ:やりがいや自己実現なしに働けるのは40代くらいまでが限界ではないでしょうか。収入や社会的地位に重きを置くと、50代以降は徐々に厳しくなるケースが多いはずです。

ですからそういったものではなく、本当にやりたいことのために働くのがいいのではないでしょうか。そのためには自分の強みを認識したり、ポータブルなスキルを持つことが重要になってくると思います。

リタイアするにしても、今の場所から逃げるためであればおすすめしません。会社を辞めること自体をゴールにして、それに向けて必死に資産をつくるとしたら違和感があります。何かやりたいことがあって、そのためにリタイアするというのが理想だと思います。少なくともリタイア後、何をするかはある程度考えたほうがいいです。

投資商品に‟働いてもらう”という考え方もある。会社にしがみつかず、自発的に将来に備える時代

――今回の特集で、外資就活ドットコムとLiigaのユーザーである学生や若手の社会人に、いつまで働きたいかなどを聞くアンケートを行ったところ、生涯働くことを考えている人が17.0%いました。それに対してどういう印象を持ちますか。

ろくすけ:自分の個性や強みを生かして、社会に価値を提供したい、社会貢献したい、そういう意識を持ってずっと働きたいということであれば、それはすごく立派なことだと思います。ぜひ実行してほしいです。

一方で、若い世代の中には、社会保障が心もとないので働かざるをえないという考えの人も少なからずいるのではないかという気がしています。

個人的には、これから投資をするのは必須になっていくと考えています。複数の仕事を持つことによって資産を増やすというのは体力的にハードルが高いですが、長期的に投資商品に‟働いてもらう”ことで、将来の年金の補填(ほてん)がある程度できると思います。

経済的な安心が見通せると、会社にしがみつかず、自分の本当にやりたいことに向けて動くこともできるし、働き方も変わってくるのではないかと思います。

新型コロナウイルス危機下で働き方が見直されて、時間ができた方がいるとすれば、その間に自分の強みや他者から評価される部分を考えてもよいかもしれません。


【連載記事一覧】
【特集ページ】あなたはいつまで働くのか(全8回)
(1)生涯現役? それとも早期リタイア? 「キャリアの終わり」を考える
(2)大事なのはいかに幸せに死ぬか―。「一生遊べる」資産保有者が、働く理由
(3)働き続けないと「ださくなる」。食うに困らなくなった人には、世界をもっと変えてほしい
(4)「45歳で区切り」「母のように生涯働く」 VC、コンサル在籍20代が語る“キャリアの終わり”
(5)始まる前に終わりを語る。就活生は「引退」をどう意識しているか
(6)「週5勤務は40代まで」「引退は考えない」 20代IT系ビジネス職のキャリア観
(7)「“もう一つの人生”を送れる」。アーリーリタイアした40代が眺める、会社員時代には見えなかった景色
(8)「自分だけのために働くのは“卒業”しよう」。元マッキンゼーの起業家は社会のために“働き続ける”

コラム作成者
Liiga編集部
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