ゴールドマンもUberも通過点。30代起業家が追い求めるのは、理屈よりも「ワクワク」の直感

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「日本第一号」という“職業”がある。海外企業が日本に進出するときに初めて日本国内で採用する日本人社員だ。

そんな日本第一号のキャリアを選ぶ人たちの中には、コンサルティングファームや投資銀行といったプロフェッショナルファーム経験者や、起業や事業創造の志向を強く持つ者が少なくない。

なぜ、これまでのキャリアの延長という“安泰”ではなく、新たなものを新たな土地に根付かせる役割を選択したのか。日本第一号たちの見つめる未来をのぞいてみたい。

※外資就活ドットコムとLiigaでは定期的に2サイト合同の特集記事を配信します。


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海外企業の日本第一号社員経験者に光を当てる連載「『日本第一号』たちの未来志向」。初回の殿崎俊太郎さんは、慶應義塾大学在籍時に起業、新卒でゴールドマン・サックス(GS)に入り、約2年半後Uberに日本初の社員として参画、現在は学生時代に立ち上げた会社の社長を再び務めるという、ユニークな経歴を持つ。理屈ではなく「ワクワク」する感情で行動するという殿崎さんに、第一号社員としての学びを聞いた。【藤崎竜介】

〈Profile〉
殿崎俊太郎(とのさき・しゅんたろう)
ライトマークス 代表取締役社長。
1986年生まれ。東京、横浜、米コネチカット州育ち。慶應大学理工学部卒業、同大学院修士課程修了。大学在籍中、ソフトウエア開発の個人事業を開業、法人化に伴いライトマークスを設立。2011年4月、新卒でGSのテクノロジー部に入社。2013年9月、Uberに移る。2018年4月、ライトマークス社長に就任。起業家やエンジニアらに交流や勉強の機会を提供する「ゼロイチCafe」の運営などに携わる。




 

渋谷、センター街でUber幹部と初対面。「うまくいかなかったら……」なんて話は、一切なかった

――経営するライトマークスは大学時代に立ち上げた会社ですよね。卒業後あえて既存の企業に就職し、7年後に戻ってきたという経歴がまずユニークだと思います。

殿崎:中学生の時に覚えたプログラミングの知識をベースに、大学に入ってからソフトウエア開発会社としてライトマークスを設立しました。いつか世の中にインパクトを生むサービスなどを作りたいと、そのころから考えていましたね。

でも思ったんです。「すごく頑張って、かつ運が良ければ日本国内でインパクトを出すことはできるかもしれない。ただ世界中に影響を及ぼすような事業は、このままだと作れない」と。

――力不足を感じていたと。

殿崎:はい。プログラミングなど技術面には自信があったのですが、足りない要素が大きく分けて2つあると感じていました。1つは経済全般、特に金融の知識で、もう一つは世界中の人たちとつながって共に仕事をする経験です。GSはこれら2つの力や経験を得る上で、最適な環境だと考えました。

――とはいえ、簡単に入れる会社ではないですよね……。

殿崎:正直、採用されるとは思っていませんでした。運よく内定を得られたので、せっかくの機会を生かそうと考えたんです。ライトマークスは共同創業者で現CTO(最高技術責任者)の堀江光に託し、GSに入りました。

――GSで約2年半勤めた後、今回の主題であるUberへの転職に踏み切ることになります。当時の経緯を聞かせてください。

殿崎:きっかけは、LinkedIn経由のヘッドハンティングです。当時Uberがアジアで唯一人事機能を置いていたシンガポール拠点から、連絡が来ました。その後、ちょうどアジアの最高責任者が来日するタイミングがあって、会うことになったんです。

場所は渋谷のセンター街にあるバーでしたね。よく覚えています。

――その面会で印象的だったことは。

殿崎:当時今ほど大きくなかったUberのビジネスが、近い将来必ず10倍、100倍、1000倍にスケールするという前提で話してくるんです。その将来展望について、1ミリも疑念を抱いていない様子でした。「うまくいかなかったら……」なんて話は、一切なかったですね。 description

――事業内容についても、あらためて説明されたんですよね。

殿崎:そうですね。私は飛行機や自動車といった乗り物が単純に大好きなんですが、「大好きな乗り物と、中学生時代から親しんでいるITをかけ合わせて人々の生活をより良くしていける仕事なら、最高に楽しいだろうな」と感じたのを覚えています。理屈じゃなく直感で、とてもワクワクしましたね。

それと、IT領域で完結せず、現実世界と融合しているサービスの特性にも引かれました。現実が絡むと不確実性が増すので開発や運営の難度が上がりますが、そのチャレンジを楽しむタイプです、私は。

撤退など最悪の事態も想定。それでも「ワクワク」が不安に勝った

――確かにUberのサービスは交通渋滞や輸送の担い手不足など、現実の課題を解決し得るものですよね。

殿崎:はい。あと引かれた理由を付け加えるならば、当時Uberは米国ではGoogle傘下のベンチャーキャピタル(VC)による出資などで話題を集め始め、サービスもはやりつつありました。なので、そのポテンシャルのありそうなビジネスを日本に持ってくる経験は、将来自分の事業を世界展開する上で、きっと役に立つとも考えたんです。

――転職に不安は感じなかったですか。

殿崎:不安がなかったというとうそになりますね。その頃、周りにUberの名を知っている人は、ほぼゼロでした。サービスが日本で受け入れられるか分からないし、法規制のハードルもある。もちろん、「撤退リスク」も考えました。

――それでも決断できたのはなぜでしょうか。

殿崎:先ほど述べた「ワクワク」が勝ったということに尽きると思います。なかなかないチャンスですしね。あと正直言ってしまえば、撤退などの最悪の事態に陥ったとしても、必要であれば金融に戻れる、と思ったのも事実です。

――周りに相談などはしたのでしょうか。

殿崎:何人かに話しました。印象的だったのは、その中の1人に「Uberの話をしている時はすごく楽しそう」と言われたことです。背中を押される感じがしましたね。

――とはいえ、GSは待遇面も含め恵まれた環境でしょうし……。

殿崎:待遇、特に給与の面でGSが勝っていたのは確かでしょうね。ただ、詳しくは言えないのですが、GSは成果給の割合が大きいのでUberへの転職で基本給は上がりましたよ。

――給与以外でもストックオプション(SO)によるリターンがありますよね。

殿崎:それも詳しくは言えないのですが、初期に入ったのでそれなりのボリュームのSOをもらえましたし、その後株価もどんどん上がりました。結果的にはGSに居続けた場合よりも資産を築けていると思いますし、様々な挑戦をするための土台を作ることができました。

――でも転職当時はそのリターンの確約もないわけですし、不安と同時にGSへの未練もあったのではないでしょうか。

殿崎:確かに名残惜しさみたいなものはありました。GSに不満はなかったですしね。ただ、約2年半勤めて経済全般や金融の知識、それとグローバルな経験を得るという入社の目的は、果たせたと思ったんです。

――ネガティブな退職理由ではなかったわけですね。

殿崎:まあ強いて言えば、成熟した産業ではあります。「ゼロイチ」が生まれる環境、つまり私が心からワクワクするような環境ではなかったというのは正直あります。

六本木ヒルズ上層階から、わずか6席の「狭苦しい」オフィスへ。転職当初は営業で大苦戦

――Uberへの転職後、日本第一号社員ということで「何から何まで」やらないといけなかったのでは、と推察しますが。

殿崎:そうですね。ビジネスモデルの構築、価格設定、運営体制の確立、運営管理、外部パートナーの開拓・交渉など、数え上げればきりがありません。法規制対応のため、法律を猛勉強するなんていうこともありました。「何でも屋」という感じですね。

――やることが多すぎて、つらくはなかったですか。

殿崎:確かに大変でしたが、割と楽しみましたよ。当事者意識と使命感の下、「必要だからやる」という感じですね。ただ、楽しんだとはいえそれらを自分でやり続けるのではなく、なるべくITなどを使いつつ「仕組み化」して、誰でもできるようにしていきました。

――特に大変だったことを挙げるとすれば何でしょうか。

殿崎:タクシー会社など、外部パートナーの開拓でしょうか。こちらから営業をかけるのですが、最初は知名度がゼロなので、ほぼ相手にされませんでした。まだUberに入って間もないころです。「ちょっと前までは六本木ヒルズの上層階にいたのに、気づいたら狭苦しいオフィスに通う“売れない”営業マンか……」なんて具合に、少しの間、惨めな気分になることもありました。

当時は6席くらいしかない、シェアオフィスの一室みたいな拠点でしたし。

――それでも、そのつらさを乗り越えたんですね。

殿崎:同じく入社間もないころ、研修でサンフランシスコに赴いた時の体験が大きいかもしれません。現地では日本と違って既にUberのサービスが普及していて、知名度がありました。カフェなどで店員さんと雑談する中、Uberで働いていることが伝わると、「すごいね!」となるんです。励みになりましたね。

一号社員と起業の違いは資金面。日本でUberをスケールさせた経験を、自社に生かす

――Uberは2015年前後から日本での認知度も急速に高まりました。“中の人”として、どんな風に受け止めていたのでしょうか。

殿崎:日本におけるUberの認知度向上は2段階あったと思います。最初は米国西海岸を起点とする新たな産業の旗手として、報道などに名が出始めたタイミングですね。ただ、その時点で日本では社名が広まっただけで、現実の世界に影響を及ぼしているとはいえなかったので「物足りない」と感じていました。

――2段階目は。

殿崎:ターニングポイントは間違いなく2016年、「Uber Eats」の日本でのリリースですね。「空いた時間に働ける」「気軽に食事の配送を注文できる」といった新たな価値を提供することで、日本社会にインパクトを出せるようになりました。

――「Uber Eatsの上陸で生活が変わった」という人もいそうですよね。

殿崎:だとうれしいですね。まさしく、私が入社前に予感した「ワクワク」はそこにあると思います。 description

――しかしながら、2018年4月にUberを退職し、学生時代に創業したライトマークスに戻ることになります。何があったのでしょうか。

殿崎:起業家として生きていきたい、という思いはずっと持ち続けていました。なので、いつかは自分の会社に戻ることを考えていたんです。

あとはタイミングの問題なのですが、2018年の時点で、私が経験したかった「ゼロイチ」のフェーズは終わったな、と感じていました。格好つけた言い方になってしまいますが、規模が大きくなり仕組みが確立されたことで、「自分がいなくても回る」と思えるようになったんです。

――Uberの日本事業立ち上げで得た経験を、今度は自社の経営に生かすわけですね。

殿崎:はい。起業と日本第一号社員として勤めることの間には共通点が多くありますが、1つ大きく違う点があります。一号社員のほうは、起業ほど資金面の心配をする必要がないということです。だから、より大胆なチャレンジができるし、それに伴うスピーディーな事業成長を体感できる。その中で、ビジネスをスケールさせるための考え方を学べたと思います。

経営の仕事はやることが多すぎて、時にどんな順番で考えていけばいいか分からなくなりがちですが、そんな時も当時学んだことが生きていると思います。日本事業の拡大に直接的に携わったのに加え、他国でのUberの事例を色々な形で見聞きできたのも、良かったですね。

――日本第一号社員という仕事について、向き不向きはありそうでしょうか。

殿崎:あるかもしれません。向いている人は、黎明期の組織なら皆そうなのかもしれませんが、「気づく力」を持っている人でしょうか。やるべきことはいくらでもあるので、それらに絶えず気づき、行動できる人。Uberの日本事業立ち上げ期に人を採用する際も、オーナーシップを最重要視していました。

あと大事なのは、やはりワクワクする感情を事業そのものに対して抱けるか、でしょうね。どんな事業であっても、1号社員なら私のように大変なことを多く経験するはずです。楽しさがないと、乗り越えられないと思います。

――「ワクワク」を信じてUberに入った殿崎さんの判断は、正しかったと。

殿崎:そうかもしれませんね。ライトマークスが運営する「ゼロイチCafe」では、新しい価値を生みだそうとする起業家やエンジニアなどを支援しています。彼らをサポートする際も、ワクワクするかは大事にしていますよ。 description


【連載記事一覧】
【特集ページ】「日本第一号」たちの未来志向(全9回)
(1)ゴールドマンもUberも通過点。30代起業家が追い求めるのは、理屈よりも「ワクワク」の直感
(2)「海外の面白いサービスがいつ日本に来るかウオッチしていた」。東大時代から選択肢にあった「第一号」
(3)「Quora日本語版のトップライターになってしまった」。プロダクトへの愛で引き受けた日本第一号
(4)欲しいのは日本事業立ち上げで「何度も成功する自信」。Google卒業後、2度一号社員に挑む男の真意
(5)ヤフー日本法人第一号が繰り返す「興奮」と「飽き」。変わらぬ、事業立ち上げへの強い関心
(6)“無名”のフードデリバリーを支える、Twitter・Apple出身の31歳。大企業では「自分のもたらす影響力」に満足できなかった
(7)大手テレビ局員として抱いた「情報発信という特権」への違和感。TikTokに見出したメディアの未来
(8)自ら売り込んで日本第一号に。ゴールドマン出身の金融マンが燃やし続けた「ものづくり」への執念
(9)【解説】海外企業の見る景色。どこにある? 「日本第一号」になるチャンス


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date_range 2020-10-26

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