『なぜ転職するのか』目指すキャリアを明確に|エージェントから見た転職
2022/12/12
#良いエージェントの選び方
#“転職エージェント”は必要か
#編集部オリジナル特集

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転職を希望する人と、採用を希望する企業の間に立つエージェント。エージェント経由の転職や採用が当たり前になった現在においても、彼らの日々の業務内容や、業務を遂行する中で抱く感情、本音などが表に出ることは多くない。特集「“転職エージェント”は必要か」第4回は、3人のエージェントに遠慮なく語ってもらい、作成した。彼らの言葉からにじみ出てきたのは、「『そもそもなぜ転職するのか』を自分に問わず、目指すキャリアイメージを明確にしない転職はあり得ない」という、安易な転職に対する警告だった。



 

エージェントは「人材紹介役」ではない

Aさんは、大手人材紹介企業で勤務した後、エージェント業を起業。スタートアップの事業推進や、経営を担う人材の紹介を得意とする。


――Aさんの業務について伺います。クライアント企業と転職を希望する人では、どちらに多くの時間を使いますか。

:私の場合は、企業の方が多いです。候補者の方が、会うのが難しいですね。

――それは、どういう理由ですか。

:転職しようと考えたら、まずは、有名な転職サイトなどに登録すると思います。登録するとエージェントや企業などから面談などを提案するスカウトメールが送られてきます。提案を承諾すれば、面談などが実施されますよね。

ですがこれは、豊富な人員を抱える大手の人材紹介企業だからできることです。我々のような小規模事業者では、大量のスカウトメールを送ることは難しく、結果として、転職を希望する人と面談する機会は限られます。

また、売り手市場であるのも理由です。特に20代後半から30代については、企業規模の大小にかかわらず、人員が不足しています。候補者もスカウトメールをもらい慣れていて、内容を吟味して返信しているようです。

――売り手市場が続く中で、企業側の姿勢に変化は見られますか。

:採用を本気でやっている企業と、それほど頑張っていない企業の差が大きくなっているように思います。

――具体的に教えてもらえますか。

:採用要件のような最低限の情報だけではなく、さらに「濃い」情報をエージェントに提供する企業に対しては、本気で採用を進めようとしていると感じます。

一方、人事は頑張っているものの、経営陣のコミット具合に疑問を抱いてしまう企業もあります。また、人事が事業を理解していないため、採用したい人物像を共有できていないケースもあります。

エージェントにとって、人事との意思疎通も重要ですが、経営陣とのコミュニケーションも不可欠です。転職を目指す人が知りたいのは、転職したい企業の5年後、10年後、20年後の事業計画やビジョン、株式市場における評価といった内容だからです。

――Aさんがより重んじているのは、クライアントですか。転職を希望する人ですか。

:クライアントです。もちろん、候補者に対しては、キャリア支援という形でサポートをします。ですが、企業による採用する意思や資金的な力がなければ、転職は成立しません。

――エージェントは多くのクライアントを抱えているため、効率的な業務遂行が求められると聞きます。実際にはどうですか。

:私の場合は支援対象を経営人材などのエグゼクティブ領域に絞っているため、効率化は難しいですね。「求人票を送るから見ておいてください」「興味があれば応募してください」では、成立しません。

最初の面談では、給与など採用条件の話はほぼしません。その企業が何をやろうとしているのか、課題は何か、などを、かなり時間をかけて話します。

若手を大量採用している企業がクライアントであれば、効率を重視して面談後はとりあえず推薦を出すなど、仕組み化しても成り立つとは思いますが、エグゼクティブだとそうはいきません。

推測ですが、エージェントが関わる紹介事業のうち7~8割程度は、KPIを定めて、効率化、仕組み化を図っているのではないかと思います。

キャリアカウンセリングなどをしないで、ひたすら求人を紹介した方が、企業としても規模を拡大できる可能性はあります。そのように形成された人材紹介市場が質の良い市場といえるかは、疑問があります。私も自戒しなければいけませんが、難しいマーケットではないかと考えています。

――Aさんにとって、いい候補者とはどういう人ですか。

:自身のキャリアをどのように構築していくかを真剣に相談したり、求人1つ1つに対してきちんと向き合って検討したり、という人が私にとってはいい候補者です。

さまざまなエージェントとやりとりをしていて、効率的に行動する必要があるからだと思いますが、機械的に接してくる人は苦手です。エージェントを「求人紹介役」と見られるのは嫌ですね。

――企業にとって、いい候補者とはどういう人ですか。

:リーダーシップがある人だと思います。リーダーシップというのは、役職の話ではありません。若くて役職がなかったとしても、自分自身のキャリアの方向性を企業の方向性と擦り合わせて描ける人です。

また、話が具体的であることも、いい候補者なんじゃないかなと思います。「逃げの転職」ではないのも重要です。

――「逃げの転職」とは何でしょうか。

:外発的動機だけで転職することです。例えば上司との相性が悪い、会社の経営状況が悪いから辞める、などです。次の企業でも上司と相性がよくなかったり、経営状況が悪くなったりする可能性はありますよね。そうなった時に、また転職するのでしょうか。それでは、いい転職はできません。

企業側も、そういった側面で候補者を見てもいいかと思います。

――「自分はこうしたい」という内発的動機が重要、ということですか。

:もちろん、内発的動機だけが転職理由ではない場合も多いと思います。ただ、「なぜ転職するのか」をエージェントとのコミュニケーションの中で、明確にできるかが重要です。面接官から応募動機を聞かれて「エージェントが推薦したから」という答えしかないなら、応募しない方がいいです。

できれば、エージェントとコミュニケーションを取る前に、転職の動機や意思を明確にしておいてほしいですが、完璧に明確化できている人は多くありません。ただ、転職活動を進める中で整理をして、自分の判断基準や意思決定のポイントを決めていく人はいい転職ができるのではないかと思います。

――エージェント経由で転職しない方がいい人は、どんな人ですか。

:行きたい企業が明確な人です。ホームページなどから直接応募した方がいいでしょうね。実際、私もそのようなアドバイスをすることがあります。エージェントの都合に影響されず、転職活動を進められます。 description

熱意や真剣さが足りない候補者は、企業にとって物足りない

Bさんは、金融機関勤務などを経て、エージェント業に参入した。金融業界やコンサルティングファームを得意分野とするエージェントだ。


――Bさんの仕事にかける時間配分について伺います。クライアント企業向けに使う時間と、転職を希望する人に使う時間の割合を教えていただけますか。

:私の場合、クライアント向けの営業活動は、ほとんどしません。私1人で会社を運営しているので、クライアントを増やしても対応できないと思います。クライアントを増やしたところで、候補者を紹介できなかったら、不信感を持たれる可能性もあります。

――新たに取引を始めるクライアントは多くないということでしょうか。

:新たな取引を始める時というのは、以前に候補者としてコミュニケーションを取っていた人が採用に携わる立場となり、紹介を依頼してくるケースが主ですね。また、第三者からの紹介で依頼を受ける場合もあります。

――候補者のリサーチに多くの時間を使うということでしょうか。

:そうですね。新しい人が転職サイトなどに登録し、転職に対して強い興味を持っている場合、早めに声をかけて求人を紹介していかないと、他のエージェントに先を越されるかもしれません。

他には、今まで面談した候補者に連絡して、近況を聞いたり、その人の同僚で退職した人などの情報を聞いたりします。

――エージェントとして候補者をクライアントに紹介する場合、留意している点は何ですか。

:候補者に優先順位を確認しておくことです。企業側が候補者に好印象を抱いている時などは、候補者が入社してくれるかどうかが情報として重要になります。複数の内定を得て、条件などを比較する候補者もいます。エージェントとしては、選考が進んでいる企業があるなら、状況を把握しておく必要があります。

――Bさんにとって、いい候補者とはどんな人ですか。また、よくない候補者とは、どんな人かも教えてください。

:まず、いい候補者について話します。年齢層やキャリア、目標などによりますが、転職先で実現したいことが明確な人です。言い換えると、企業の価値向上など他者への貢献を実現したいという明確な目標を持っている人ですね。あとは、熱意や真剣さが感じられる人でしょうか。

逆によくない候補者ですが、転職先で実現したいことが明確ではなかったり、視野を広げることや自身の成長しか目指さない人、熱意や真剣さが感じられなかったりする人は、たとえ優秀であっても、採用されない可能性があります。そういう人は、企業にとっては物足りないと思います。明確な目標がないと、ハードワークに耐えられるかなど、疑問を持たれるはずです。

求人内容を吟味しないで、応募する人もいます。要件を見れば、当てはまらないのは明確であるにもかかわらず、です。自分の転職を真剣に考えてほしいです。

それから、入社数カ月で転職を考える人もいます。入社1年目の人が応募してくると、企業側は「我慢ができない、またすぐに次の企業に転職してしまうのではないか」と思う場合があります。そういう人に対しては、少なくとも1年は頑張ってみて、それでも自分の希望がなかなか叶わない、成長できそうな企業で働きたいという思いがあるなら、相談してください、と伝えます。

――候補者がエージェントとコミュニケーションを取る時に、実践してほしいことがあれば、教えてください。

:何が知りたいかを明確にしてほしいです。例えば、異なる業界への転職を考えているが、そのために何を準備したらよいか、などです。そうすれば、具体的なアドバイスができます。

――エージェントを経由しないで転職した方がいいのは、どんな人でしょうか。

:エージェントを使わない理由はないと思います。候補者がエージェントを利用するのに料金はかかりません。転職サイトを使って企業が直接連絡してくるエージェントを介さないやり方だと、入社してみたら説明と違うポジションだった、なんていう話も聞きます。エージェントが入る時は、ポジションが明確であるため、今述べたようなことは起きません。 description

候補者とクライアントの「友人」を目指す

Cさんは、企業で人事業務を経験した後、人材紹介企業に転職した。経営人材の紹介を得意分野としているが、対象となる年齢層は幅広い。候補者とクライアント企業、両方とコミュニケーションを取る。


――Cさんの1日の仕事の内容を教えてください。

C:7時ぐらいから23時前後までは働いています。人数が少ないため、クライアントと候補者の両方に対応する必要があるからです。クライアントからは、採用を目指す人物像についての相談、候補者からは、選考が進んでいる企業の懸念点についての相談、などが多いです。

また、転職サイトに登録している人にスカウトメールを送る業務もあります。

――クライアントとの面談と候補者との面談では、割合として多いのはどちらですか。

C:候補者が多いです。クライアントは1日1社程度です。候補者との面談は1回1時間から1時間半程度で、多い日は1日5回あります。案件数でいえば、3桁の案件が同時に進行していると思います。

――同時並行的に、さまざまな仕事をしないといけないと思いますが、効率化をする方法はありますか。

C:クライアント、候補者向け、共に次のアクションをするまでの期限を決めておくことです。また、候補者の期待値を知るように心掛けています。そうすることで、紹介する案件の優先度を決められます。クライアントとは、欲しい人材の具体的な人物像を明確にするため、密にコミュニケーションを取るようにしています。

――クライアントや候補者とは、どんな関係性を築くように心掛けていますか。

C:彼らの友人だとして、いいことだけではなく、よくないことも伝えます。私は彼らの「世界一の理解者」を目指しています。自分の行動が、そのスタンスから逸脱していないか、を常にチェックしています。世界一の理解者であるためには、業界や職種、階層などあらゆる要素について、常に学習をしていかなければなりません。

――なるほど。いいエージェントに出会うのが重要になってくるように思いますが、候補者はいいエージェントかどうかを、どのように見極めたらいいでしょうか。

C:本当に親身になってくれているかどうかに尽きます。例えば、転職するかどうか迷っている人に、現職に残ることさえも提案できるエージェントです。また、十分な情報を提供して、候補者の決断を尊重してくれるエージェントも、いいエージェントといえます。

――求人紹介の方法にもエージェントの姿勢が反映されますが、Cさんはどのように紹介していますか。

C:ある候補者の経験やスキルが、複数社が求める要件を満たしていても、全てを紹介するわけではありません。その候補者が、好奇心を持って働けるか、成長できるか、などという観点から、推薦するかどうかを決めます。

候補者側からしてみれば、複数企業に応募して、準備するのは手間がかかります。多くの求人票を候補者に送るスタイルのエージェントを見ると、「何の意味があるのか」と聞きたくなります。候補者について、何も分かっていない、と吐露しているのと同じだからです。

時間の制約があるからだとは思いますが、私はやりたくないですね。

――Cさんにとって、よくない候補者とは、どんな人でしょうか。

C:「自分は自分のことをよく分かっている」と思っている人です。他者とコミュニケーションを取ることで、初めて分かる「自分」もいます。私は、候補者と初めて面談する時は、幼少期などについても聞きます。その人の熱意の源泉や転職を考える内発的動機などが分かる場合があるからです。

時間がないからなのか、紹介してほしい企業の情報だけを求める候補者もいますが、短時間で理解できるほど、企業は単純ではありません。そういう場合に私は、時間を作ってもらい、志望先への理解を深めるよう促します。

――転職が成立した場合の成功報酬についても、可能な範囲で教えてください。

C:報酬額は、クライアントによって異なります。候補者の年収の30%だったり、50%だったりもします。

ただ、私は得られる成功報酬が高いクライアントを優先して、候補者に紹介するようなことはしません。エージェントが得られる報酬が高いか安いかは、候補者が転職で幸せになるかどうかとは、関係がないからです。 description


コラム作成者
Liiga編集部
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