採用エージェント――。転職エージェントの報酬が、人材を採用する企業側から支払われていることを踏まえれば、彼らをこう呼ぶ方が自然かもしれない。
そして依頼主である企業の採用担当者がどうエージェントを評価するのか、これを知る人は多くないだろう。そもそも、なぜエージェントに依頼するのか。そして、企業にとって理想のエージェントとはどんな人なのか。
特集「“転職エージェント”は必要か」の第2回は、外資系コンサルティングファームとヘルスケア系スタートアップの採用担当者への、エージェントに関する匿名インタビュー。「エージェントを100%信頼しているわけではない」など、依頼主側の生々しい声を届ける。【濱野将貴】
1.エージェントの評価を分けるポイント、それは“提案力”
2.誠実さがなければ淘汰されていく。結果を出すには信頼の獲得が必須
3.紹介する候補者の量より質を求む。エージェントを評価する最重要項目は決定“率”
4.採用担当者のエージェント活用術、その秘密はJDに……
5.「エージェントを100%信頼しているわけではない」。採用現場の厳しさを知るからこその本音
エージェントの評価を分けるポイント、それは“提案力”
――中途採用の方法としては、転職エージェント、自社サイト、リファラル、スカウト(ダイレクトリクルーティング)などがあると思います。どのように使い分けていますか。
A:どんな層を採用したいかによって、使い分けますね。一般的に人材業界では、転職意欲が高い候補者たちを顕在層、低い候補者たちを潜在層と呼びます。私の場合、顕在層を採るときには主にエージェントや自社サイトを、潜在層を採る時にはリファラルやスカウトを使います。
――転職に対する意欲によって使い分けるということですね。
A:はい。潜在層の場合は大抵、現職に満足しているので、自社サイトへの登録やエージェントのサイトによる紹介を待ったところで接点は生まれません。必然的に、リファラルやスカウトを使うことになります。
一方、顕在層を採るにはエージェントが適しています。エージェントは決定率(*)を重視するので、転職意欲の高い候補者を優先的に紹介してくれます。自社サイトからの応募だけでは足りないので、エージェントも併用しているわけです。
* エージェント経由で応募した候補者全体のうち、入社に至る割合のこと
――エージェントを評価するポイントとして、どんなところがありますか。
A:1つ挙げるとすれば、企業のニーズをくみ取ったうえで、自分なりに戦略を立てられるかどうかですね。私たちも、自社がどのような人材を求めているか、100%理解しているわけではありません。なので「これから御社が○○市場に進出するならば、××分野のスペシャリストを採用する必要があります」というように、仮説を立てながら提案してくれる人には、とても助けられます。
誠実さがなければ淘汰されていく。結果を出すには信頼の獲得が必須
――企業に対してそのような対応ができるエージェントは、他の面でも違いが出てくるのでしょうか。
A:もちろん出てきます。最も顕著に出るのは候補者探しで、「ストライクゾーン以外の人材を見つけられるか否か」というところです。
――具体的に教えてください。
A:ある企業が人事部の社員を募集するとします。普通、その企業がメインターゲットと想定するのは、他社の人事部や人材紹介会社で働く人たちです。仮説思考ができるエージェントであればそれらに加えて、人事コンサルタントなどにも声をかけるでしょう。
企業が求めているのは必ずしも人事の経験ではなく「人々のキャリア構築に関心がある」「採用現場の仕事を理解している」といった要素ではないか、という見立てをつけるからです。企業側に言われたことをうのみにせず、自発的にターゲットを広げることでマッチングの確率を高めるんです。
――私たち取材班は、一部のエージェントが収益を優先しすぎることで、候補者にとって必ずしも良くないマッチングが発生しているのではないかという問題意識を持っています。見解を聞かせてください。
A:確かに、そういうエージェントもいるかもしれません。ただ、長い目で見れば淘汰されていくので、そういった心配はあまりしなくても良いかもしれません。
――なぜ淘汰されるのでしょうか。
A:仮に、エージェントが手っ取り早くマッチングさせるため、偏った情報を候補者に伝えていたとしましょう。そのまま候補者が入社を決めたら、働き始めてから不満やギャップを感じてしまい、企業に定着しないことが多いはずです。候補者はもちろんですが、企業にとっても良くないことですよね。そうなると、エージェントも困ることになります。顧客である企業からの信頼が、落ちてしまいますから。
――企業から求人を紹介してもらえず、候補者からも頼りにされなくなりますね。
A:はい。長期的に結果を出し続けるには、信頼を獲得することが最も大事です。そのためには、ポジティブな面もネガティブな面も含めて、企業のありのままを理解した上で、できるだけ包み隠さず候補者に伝えることが求められます。なので、偏った情報しか伝えないエージェントは淘汰されていくはずです。
弊社としても、エージェントの誠実さをよく見ながらお付き合いしています。
紹介する候補者の量より質を求む。エージェントを評価する最重要項目は決定“率”
――Bさんにとって信頼できるエージェントとはどのような人でしょうか。
B:決定率が高いエージェントです。極論を言えば、決定率100%のエージェントが理想ですね。
――さすがにそのようなエージェントはいないですよね。
B:はい、そんな完全無欠なエージェントはいません。なので、紹介してきた候補者がどれだけ選考フローを突破したかを基準に、エージェントを評価しています。
――決定数ではなく、決定“率”を重視しているのはなぜですか。
B:量より質を大事にしているからですね。数を稼ぐだけなら、エージェントにとってそんなに難しいことではないと思います。しかし、仮に求める人材像に当てはまらない候補者をエージェントが次々と紹介してきたら、どうでしょう。企業側の手間が増え、採用コストは上がってしまいますよね。“コスパ”を重んじるからこそ、エージェントに質を求めるわけです。
――質を重視しないエージェントもいるということですか。
B:たまにですが、紹介数をKPIとしているのではないか、と思ってしまうエージェントもいます。そういう人は信頼できません。
――他にも、エージェントが企業側の信頼を失うケースはありますか。
B:1つ挙げるとすれば、しっかり候補者と向き合っていない場合ですね。
――採用担当者から見ても、エージェントが候補者と向き合っているかが分かるのですか。
B:分かります。エージェントに候補者の現状を細かく聞くと、結構それが顕著に出るんです。しっかり向き合っていれば、どんな企業を受けているかとか、転職意欲がどれくらいあるかなどを詳しく知っているはずです。本当に優秀なエージェントは、こちらが聞く前に先回りして的確な情報を教えてくれたりします。
人材紹介業はその名の通り、“人”材を扱っているので人間関係が何より重要です。金銭のやり取りがあるのは、依頼主である企業とエージェントのみですが、エージェントと候補者の親密度もとても大事です。ここをおろそかにするような人とは、どうしてもお付き合いできないなと思います。
――転職エージェントは人によってパフォーマンスに大きな差が出る、属人性の高い仕事かもしれませんね。
B:その側面は否めないです。結局私が一番信頼しているエージェントは、10年以上協業してきた人だったりするんですよね。
採用担当者のエージェント活用術、その秘密はJDに……
――候補者対応と企業担当を別々の社員が行う大手エージェント企業と、同じ社員が行うブティック企業の2種類があると思います。両者の違いはどんなところにあるのでしょうか。
B:大手は求人メディアに近い性質を持っていると思います。企業担当のリクルーティングアドバイザー(RA)は決まりやすい求人案件を多く獲得することを目指し、候補者対応をするキャリアアドバイザー(CA)は、いかに多くの候補者に会えるかを重視します。どちらかといえば、質より量がポイントになるわけです。なので、メンバー層の採用時に求人メディアと併用することが多いですね。
一方、ブティックは1人で候補者とも企業の採用担当者ともコミュニケーションをとるので、両者の実情を踏まえつつマッチングします。大手に比べピンポイントなリクルーティングができるので、マネジャー層以上や、採用難易度の高いIT系、もしくは専門性のある管理系のポジションなどの採用に適しています。
――採用したいポジションによって使い分けるということですね。
B:基本的にはそうですね。マネジャー層以上の採用は、会社にとって影響が大きいので慎重に進めざるを得ません。なのでその場合はブティック系エージェントを使うことが多いのですが、例外もあります。
――その例外とは。
B:特に影響力が大きいポジション、例えば部門責任者を採りたいときなどですね。そういうときは、エージェントに頼らず、社内の採用担当者がソーシングから内定後のフォローまで一貫して担うこともあります。
――それならば、ブティックのエージェントは使わず、マネジャー層以上を採る場合は全てダイレクトリクルーティングにすればよいのではないかと思うのですが。
B:本音を言えば、マネジャー層以上は全て直接スカウトしたいです。ただ、人事部のリソースに対して採用すべき人数が圧倒的に多いので、一から十までやっていると回らなくなってしまいます。
だから私たちは、秀逸な、言い換えれば決定率が高くなるようなJD(ジョブディスクリプション、職務記述書)を書くことに集中し、その先はエージェントに託すことが多いんです。
決まりやすいJDを渡せば、エージェントは真っ先に動いてくれます。1つの案件の成功報酬を倍にするより、良質なJDを3つ渡す方が喜ばれるくらいです。
――JDを作成する際、気をつけているポイントはありますか。
B:2つあります。1つ目は採用する部署との擦り合わせを綿密に行うこと、2つ目は採りたい候補者の人物像を解像度高くイメージすることです。
――1つ目について詳しく教えてください。
B:これは弊社に限らずだと思うのですが、多くの場合、採用する部署の期待値はとても高いんです。例えば、「高度なスキルを持っていてマネジャー経験もあり、最先端技術への造詣も深い人材が欲しい」といった具合ですね。現実問題、そんな人は簡単には見つかりません。そこで、該当の部署と話し合いを重ね、「譲れない部分」などを聞きつつ条件の優先順位を明確化し、JDに反映させます。
――期待値調整が大切ということですね。2つ目についても教えてください。
B:持論ですが、JDはラブレターだと考えています。JDの秀逸さとは、いかに読みたくなるか、そしていかに返信したくなるかです。そのためには、受け取る人が普段どんな生活をしているかまで考え抜き、どんな文面なら読んでくれるか想像します。その意味で、採用は一種のマーケティングと言っても過言ではありません。
「エージェントを100%信頼しているわけではない」。採用現場の厳しさを知るからこその本音
――エージェントが紹介する求人案件の中には一般に公開されていないものもありますよね。プレスリリース前のプロジェクトなど、公開できない情報が含まれているからでしょうか。
B:それもありますが、他にも2つの理由があって、1つ目は候補者に興味を持ってもらうためです。広く募集していると書いてあるより、「限定」と書かれている方が魅力的に見えますよね。
2つ目は、エージェントのモチベーションを高めるためです。私の場合、非公開案件を出す時は、依頼するエージェントを1人にします。いわば“敵無し”の状態になり、決定率が非常に高いので、そのエージェントは最優先で候補者を探してくれます。
――まさに三方良しに見えますが、デメリットはあるのでしょうか。
B:限られた候補者にしか見せないので、その人たちが興味を持ってくれなければ無駄になりますよね。そのリスクを取ってでも採りたいポジションでしか、非公開の求人は出しません。
――私たち取材班は、一部のエージェントが収益を優先しすぎることで、候補者にとって必ずしも良くないマッチングが発生しているのではないかという問題意識を持っています。見解を聞かせてください。
B:まず、前提としてそのようなミスマッチは、完全に防ぐことはできないと考えています。根本的な原因はエージェントではなく、企業と候補者の間の情報格差にあります。なので、最終的にミスマッチの責任を負うのは企業の採用担当者です。
そういう意味では私の場合、エージェントに任せきってはいけないと思っています。極端な言い方をすると、エージェントを100%信頼しているわけではない、というか……。
ですので、エージェントを使う場合も選考状況など候補者の一次情報は、できるだけ自分たちでも集めるようにしているんです。
エージェントが収益を重視するのは、ある意味当然のことです。その上で彼らとどううまく付き合うか、採用担当者次第ではないでしょうか。