エージェントに頼る意義。それは“転職のプロ”だけが持つ知見と情報
2022/12/13
#良いエージェントの選び方
#“転職エージェント”は必要か
#編集部オリジナル特集

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転職エージェントは企業の代理人であると同時に、当然ながら、多くの転職希望者の相談に乗り、彼らが新たな一歩を踏み出すのを支援している。時にはキャリア全体を見渡した助言をし、長期にわたって相談者と付き合う。そんな“転職のプロ”だからこそ持つ、キャリア構築のための知見があるのではないか。

特集「“転職エージェント”は必要か」第5回では、1000人以上のビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきた渡辺秀和氏に、キャリア戦略の立て方や、エージェントとの付き合い方について聞いた。【南部香織】

〈Profile〉
渡辺秀和(わたなべ・ひでかず)
三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を経て、コンコードエグゼクティブグループを設立。1000人を越えるビジネスリーダーに対して、外資系戦略ファームをはじめとするコンサル、PEファンドなどの業界への転職や事業会社幹部、起業家などへの転身を支援。2017年に東京大学で開講されたキャリアデザインの授業のコースディレクターを務める。著書『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)など。




 

運まかせ、会社まかせにしない。望むキャリアを実現する方法

――渡辺さんは、以前より「キャリア戦略を立てること」を勧めています。なぜそれが重要なのですか。

渡辺:戦略的にキャリア設計をしないと、望む将来像にたどりつけない可能性が高くなるからです。

例えば、経理として経験を積んできた人が、転職してネクストキャリアでも経理職に就くことは十分に可能です。しかし、将来は起業したいと考えていたらどうでしょうか。経理としての経験を積んでいっても、起業家として必要なスキルや経験を培うことは少々難しいでしょう。社内異動で経営企画や事業開発などに移ることができれば良いですが、それは人事の差配や運次第ということになります。

望むキャリアを実現したいのであれば、自分が経験する仕事を“会社まかせ”や“運まかせ”にせず、主体的にキャリアをつくるという視点が必要不可欠です。

――キャリア戦略を立てるとは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。

渡辺:「キャリア戦略」とは、望む人生を実現する上で重要な要素を把握し、それらを得るためのルートを描いた中長期的なプランのことです。

私たちの会社の相談者で、35歳の女性が、大手外資系企業のマーケティング部長へキャリアチェンジをした事例があります。彼女は新卒で大手日系企業に総合職として入社し、営業部門に配属されていました。本人は経営企画やマーケティングの仕事に就くことを希望していましたが、異動は確約されていません。仮に運良く異動できたとしても数年後、その部門で幹部となるにはさらに十数年もかかります。

20代後半でこのことに気付いた彼女は、転職活動を行うことを決断します。しかし、ここで一つ大きな問題がありました。営業職の人材を経営企画職やマーケティング職で採用する企業は、決して多くはないのです。

転職活動は難航し、悩んだ彼女は私たちの会社へ相談にきました。私たちは彼女の夢を実現するキャリア戦略を設計し、まずはコンサルティングファームへ入社することを提案しました。コンサルティングファームであれば、大企業の戦略立案や海外マーケティングのプロジェクトを数多く経験することができる上、未経験のキャリア採用を積極的に行っています。

その後、コンサルティングファームへ入社した彼女は、34歳でプロジェクトマネジャーへ昇格。そして、豊富なマーケティング経験と高いリーダーシップを買われ、著名な大手外資系企業にマーケティング部長として、35歳という若さでスカウトされることになったのです。

振り返ってみると、たった7~8年で、事業会社のマーケティング部門の幹部という念願を実現することができました。このように、適切なキャリア戦略を持つことは、人生を大きく飛躍させる原動力となるのです。

――あえてステップを挟むことによって、望む将来像に近づくことができるようになるのですね。

渡辺:そういうことです。私たちはこのステップのことを「キャリアの階段」と呼んでいます。

一足飛びにゴールに行くのが難しい場合でも、中継地点となる「キャリアの階段」をつくることで、その実現可能性は飛躍的に高まるのです。一見すると寄り道をしているようにも感じるかもしれませんが、先ほどの事例を考えてみても、結果的にはショートカットになっていることがわかるでしょう。

この事例ではコンサルティングファームを経ていますが、キャリアの階段はその人の職歴や要望などに応じて、さまざまな選択肢があります。また場合によっては、キャリアの階段をツーステップ、スリーステップと挟むこともあります。

もちろん、自分が欲しいスキルや経験を習得することだけを目的に在職するのは評価されません。所属企業にしっかりと貢献することは大前提となります。 description

短期的な売り上げにこだわらず、信頼関係を重視してくれるエージェントを選ぶ

――良い付き合いができるエージェントとは、キャリア戦略を立ててくれるエージェントなのでしょうか。

渡辺:なかなか難しい質問です。というのも多くのエージェントは、相談者のこれまでの経験やスキルをベースに、その時点で入れる会社や、より希望に合っている職場を提案するという、いわゆるマッチングが仕事となっているからです。もちろんそれが問題なわけではありません。明確にやりたい仕事が決まっていて、それが今の職種と同じか、その延長線上にあるのであれば、マッチングによって希望にかなった転職を実現できるでしょう。

一方、現状と隔たりのあるキャリアのゴールを考えている場合や、まだゴールそのものがはっきりと決まっていない場合には、キャリア戦略から一緒に考えてくれるようなエージェントが望ましいのではないでしょうか。

ただし、どちらの場合であったとしても、何を重視しているエージェントなのかはしっかりと見極めたほうがいいと思います。

――どのような意味か詳しく聞かせてください。

渡辺:例えばですが、初回の面談で相談者にその場で応募させようとするエージェントは、短期的な売り上げを重視しているかもしれませんよね。もちろん、応募期限が迫っている場合もあるでしょうから、一概にはいえませんが。

また、相談者が作成したレジュメは、必ずしもその人の魅力を適切に表現しているとは限りません。書類の添削をしないで応募するというのも、相談者に寄り添っているとはいえませんよね。レジュメは、その書き方によって選考結果が左右されることも多いので、とても重要です。レジュメの準備からきちんと支援してくれるエージェントを選ぶ必要があるでしょう。

こうした点を念頭に置きつつ、誠実に相談者との関係を築くことを大事にしているかを見るのが良いと思います。そのためには、まずはいろいろなエージェントに会ってみることをお勧めします。

それから、入社難易度が高い外資系コンサルティングファームなどは、ケース面接や筆記試験などの選考対策なしに合格することは難しいでしょう。そのような企業を目指す場合は、選考対策に精通したエージェントにお願いするのが良いと思います。どのエージェントを選ぶかは、転職の満足度や、ひいてはキャリアへの満足度さえも大きく左右する要素なのです。

――会ってみて関係性を築けたら、相談する側が心がけるべきことなどはありますか。

渡辺:エージェントに話を聞いてみて、すぐには転職活動をしないと判断することもあるでしょう。その場合も、年1回程度でいいので、定期的に転職市場の状況を聞いておくと良いと思います。実は、人材市場の市況次第で、転職の難易度は大きく変わります。好機を逃さないために情報収集は重要です。

転職はタイミングが大事。固定観念にとらわれて機会損失するのはもったいない

――エージェント側から見て、相談者の支援がしにくい場合はありますか。例えば、将来像がまったく見えていない場合はいかがでしょうか。

渡辺:私たちのところを訪れる相談者も、最初から将来像がはっきりしている人は決して多くありません。そこを一緒に考えるのもエージェントの役目だと私は考えています。気軽に訪ねていいと思います。

それよりも、きりよく30歳までは今の会社にいようとか、入社してから3年は同じ会社で働くべきだといった固定観念にとらわれて、良い時期を逃す方がもったいないです。市況が悪いときには動かず、市況の良いときに動くというのが、ベーシックな考え方となります。

――逆に入りたい企業がきっちり決まっていると支援がしにくい、ということはありますか。

渡辺:そのような場合でも特に問題はありません。行きたい会社が決まっていても、難易度が高い企業であれば、選考対策が必要となるでしょう。また、今すぐにチャレンジすることが難しい場合は、どのようなキャリアの階段を設計するかといった相談も必要となります。

やはり企業の採用状況の変化、選考対策、適切な応募ポジションなどは、エージェントでないと詳細な情報を得られません。さらに、いったん応募してNGとなっても、採用企業の社長や経営幹部にダイレクトに打診をすることで道がひらけるケースもあります。そこはプロを頼っていいのではないでしょうか。 description

人気の高さと自分がやるべきかどうかは関係がない。自分の価値観を大事にしよう

――渡辺さんはコンサルティングファーム、PEファンドといった業界やベンチャー企業の幹部などのポジションを望む人の相談に多数乗ってきたと思います。そういったいわゆるハイキャリアの人だからこそ、気を付けたほうがいいことはありますか。

渡辺:こちらも難しい質問ですが、一例をあげると、いわゆる“就職偏差値”が高いから、という理由で転職先を選ぶことでしょうか。コンサルティングファームなら、MBB(*)でないとダメだとか……。もちろん、本当に自分なりの基準に基づいて望むのであれば問題ありません。しかし、人気がある有名な企業だからという理由だけならば、止めたほうがいいでしょう。

* 戦略コンサルの名門ファームである、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストン コンサルティング グループ、べイン・アンド・カンパニーの英語表記の頭文字をとったもの

――なぜでしょうか。

渡辺:世間で評価されている企業だということと、自分がやるべき仕事かどうかはあまり関係がないですよね。大切なことは、一般論として素晴らしいキャリアをつくることではありません。自分が真にどんなことを望んでいて、どんな人生にしたいのか。外部の声に翻弄されないで、自分の価値観を大事にしたほうが良いと思います。

「好きのエッセンス」をつかみ、キャリアの方向性を決めておく

――現段階では自分のキャリアの方向性が決まっていない場合はどうすればいいのでしょうか。

渡辺:キャリアの方向性を決めることは容易ではありません。まずは、日記を書くことをお勧めしています。

――日記を書くことが、なぜやりたいことを見つけることにつながるのでしょうか。

渡辺:日記には日々どのようなことで感情が動いたのかといったことを記録しますよね。それを続けて書きためていくことで、自分が何に喜びや楽しさを感じるのか、逆に何を嫌だと思うのかが見えてくるでしょう。自分の価値観が徐々に分かってくるはずです。

ここで把握したいことは自身の「好きのエッセンス」です。喜びや楽しさを感じた経験を並べ、共通した要素は何なのか分析するのです。

例えば、同じ将棋好きでも、何を楽しいと思うかは人それぞれ違います。良い作戦を用意して実戦で試すことなのか、勝負のスリルなのか、頭がちぎれるほど考えることなのか……。

このように、その他の好きなことも分析することで、共通項となる要素が浮かび上がってきます。そういったエッセンスを含んだ仕事ならば、好きである可能性が高いでしょう。この「好きのエッセンス」をつかむことが、キャリアビジョンとなるやりたいことを考えるうえでとても大切なのです。

「好きのエッセンス」をもとに、まずはキャリアの大まかな方向性を決めることができればいいと思います。最初は、人事系のキャリアなのか、財務系のキャリアなのかというぐらいの方向性でも大丈夫です。定めた方向性の中で経験を積んでいくことで、最終的なゴールが徐々にクリアに見えてくるでしょう。

――厳密ではなくても、方向性を決めておけばいいのですね。

渡辺:そうです。キャリアは数十年にもわたるものです。当然、外部の環境や産業構造は変化します。新しいテクノロジーや職業が登場することもあるでしょう。ですから20~30年先のことを細かく決めても、あまり意味がありません。自分が決めた方向性を軸に、それらの変化に柔軟に対応しながら意思決定していくことで、満足度の高いキャリアを歩むことができるのではないでしょうか。 description


コラム作成者
Liiga編集部
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