ゆうです。
2013年に日本のIT系メガベンチャーの駐在員としてサンフランシスコに赴任し、その後紆余曲折あって、現在はAmazonのシアトル本社でプロダクトマネージャーをしています。
アメリカ人は頻繁に転職するという話を聞いたことがある人は多いと思います。
実際、彼らはしょっちゅう転職します。
僕は、現在4社目と、日本人にしては比較的転職を経験している方だと思いますが、アメリカ人からすると「全く転職していない」部類に入ると思います。
彼らはなぜ頻繁に転職するのでしょうか? 単に根気がないだけなのでしょうか?
実はそこには、日米のキャリアに関する考え方の違いが大きく関わってきます。
ほぼ真逆ともいえる日米のキャリア観。今回の記事では、その点を特に掘り下げていきたいと思います。
アメリカで、もしくは米系企業でキャリアを築いていこうと思っている人にとっては必須の話だと思いますし、日本も近い将来必ずこちらの流れになって行くと思うので、ぜひご一読いただけるとありがたいです。
・Amazonでも、勤続5年未満の社員がほとんど
・昇進・昇給がなければ、アメリカ人は転職しない ・日本では、会社のビジネスの全体像の理解、コネクションづくりが重要
・一旦他社に移り、経験を積み、戻ってきたほうが、昇進しやすい傾向も
・まとめ:転職市場で売れるスキルを身につけているか
Amazonでも、勤続5年未満の社員がほとんど
冒頭でも書いたように、アメリカ人はとにかく頻繁に転職します。
アメリカ合衆国労働省労働統計局の統計によると、アメリカ人は生涯で12.3もの職を経験するそうです。
転職回数にすると、1を引いて11.3回ですね。
ざっくり3〜4年に一度は転職している計算になります。
これは僕の実感とも非常によく合っています。同僚を見ていても、だいたい3〜4年で次の会社に移っていくパターンが多いです。
もちろんこれはあくまで平均なので、1年足らずで辞めてしまうケースもあれば5年、10年と勤続するケースもあります。ですが、それは極めてまれですね。
ちなみに、Amazonでは勤続年数に応じて社員証の色が変わります。
初めが青、5年勤続すると黄色、10年で赤、などなど。Amazonのオフィスを訪ねると、目に入ってくる社員証のほとんどは勤続5年未満の青です。5年以上の黄色の社員証はかなり珍しく、10年以上の赤や15年以上を示す紫などはめったにお目にかかれません。
もし見かけたら、何か良いことがあるかもしれません(笑)。
とにかく、そのくらいアメリカ人は頻繁に転職します。
昇進・昇給がなければ、アメリカ人は転職しない
それでは、アメリカ人はなぜそれほど頻繁に転職するのでしょうか?
職場の人間関係に悩んでなのでしょうか。よりやりがいのある仕事を求めてでしょうか。
実は意外によく聞くのが「住みたい場所があるから」という理由です。
日本人は「今度、仕事の都合で名古屋に引っ越すんだ」といったように、仕事が理由で住居を移すことが多いように思いますが、アメリカ人は逆です。
まず「ここに住みたい」と住居を決め、それに基づいて仕事を探します。
僕の前職の同僚は「海の近くに住みたい」と言ってプエルトリコに移住し、そこでリモートで働ける職に就きました。
また、現職のチームメンバーが最近「やはりベイエリアに住みたい」と言ってサンフランシスコに移住し、そこで新しい仕事に就いていました。
ベイエリアに人材が多く集まるのは、その気候の良さ、住みやすさもあるんじゃないのかなと密かに思っています。
しかしながら、今まで周りで見てきた中で圧倒的に多かったのは、やはり「より良いポジションと待遇を求めて」でした。
アメリカ人の中では、転職はほぼ昇進・昇給と同義と言っても過言ではありません。
ちなみにアメリカ人は退職のときによく「とても辞退できないような非常に魅力的なオファーをもらったんだ」という言い方をします。
要するに「お給料めちゃくちゃ上がるんだ」ってことですね。
日本のように「収入は下がってしまったけど、やりたかった仕事ができているから満足です」みたいな話はまず聞きません。
これ、日本人の感覚とは少し違うんじゃないでしょうか?
日本では、会社のビジネスの全体像の理解、コネクションづくりが重要
日本人にとって、(最近変わりつつあるとは思いますが)キャリアとは1つの会社に長く勤めて築いていくものでした。
それは「就職」というよりも「就社」に近く、1つの会社の中で様々な部署(職種)をぐるぐると経験して、上に昇っていく(昇進していく)イメージですよね。
僕はコンサルタント時代、お客さんのIT部門にITとは全く縁のない畑違いの部署から人が配属されてくるのを見ていましたが、「なんでこんな非効率な配属をするのだろう」と不思議でなりませんでした。
だって彼らは、ついこの前まで営業部門や経理部門にいて、ITのことなんて全くと言っていいほど知らないんですよ。
しばらく経って、日系企業に勤める友人らの話を聞いてようやく、その理由が分かりました。
日本で出世するために必要になってくるのは、専門性を磨いてある職種を極めることではなく、様々な部署を経験してその会社のビジネスの全体像を理解するとともに、会社の様々なところにコネクションを作ることなんですね。
上級管理職として会社を動かしていくためには、その会社独自の事情をよく理解していなければならない、と。
まあ、一理あります。
一方、アメリカでは、キャリア形成において1つの会社にこだわり続けることはありません。
就職とは読んで字のごとく「職」に就くことで、一度職種を決めたら途中で変えることはまれです。
その1つの職種を様々な会社で経験し、ある会社で経験を積んだらその経験を武器に自分を売り込み、より高いポジションで採用されて次の会社に移っていきます。
1つの職種で専門性を徹底的に磨き上げていくという考え方ですね。
日米のキャリア観の違い、ざっとまとめると下の表のようになります。
これは必ずしもどちらが良い悪いといったものではありません。
日本はこれまでこの日本型のキャリア観で、世界を席巻する企業を数多く生み出してきました。
しかしながら、日本型のキャリア観はあくまで終身雇用制を前提としたものです。
終身雇用制が崩壊した今、「ある1つの会社の内部事情に精通していること」は転職市場において何のアピールにもなりません。
今後は日本でも、よりアメリカ型の専門性を磨く方向性にシフトしていくのではないかと考えています。
一旦他社に移り、経験を積み、戻ってきたほうが昇進しやすい傾向も
先日、Amazonのメンターと1on1をした際に、キャリアについてアドバイスを求めました。
以下、そのときの会話です。
僕「そろそろ昇進したいと思っているんですが、どう思いますか?」
メンター「うーん。今のレベルから1つ上のレベルに上がるのって、正直めちゃくちゃ難しいですよ」
僕「え、そうなんですか。どうしたらいいですかね?」
メンター「一度よその会社に移って、それからまたAmazonに戻ってくるときに上のレベルのポジションで採用された方が簡単ですよ。だからみんな出たり入ったりを繰り返すんです」
僕「がーん」
ある程度上位のポジションが空いたとき、日系企業だと社内の既存の従業員から誰かを昇進させようという話になると思います。しかし、外資系の多くの企業では社外から新しく人を雇うことが多いです。
・上位の仕事をこなせるかどうか分からない社員に任せてみるよりも、他社で既に同様の仕事をしている人材を雇った方が確実性が高い
という考え方なのかなと思います。
結果どうなるかというと、1つの会社に長くいてもなかなか昇進しづらい(上のポジションは外部からの人材で埋まってしまうから)。
だったら1つの会社にとどまり続けるよりも、ポジションを上げつつ他の会社に転職するかとなるわけですね。
けっこうこれが、アメリカ人の転職の多さにつながっているんじゃないかと思います。
まとめ:転職市場で売れるスキルを身につけているか
以上、アメリカ人はなぜしょっちゅう転職をするのか? から始まり、日米のキャリア観の違いについて書いてきました。
ざっくりまとめると以下のようになります。
• アメリカ人が転職する理由は、より良いポジションと待遇を求めているため
• 日本では、就職というよりは就社という考えが根強い。会社をキャリアの軸とし、1つの会社の中で様々な部署を経験して昇進していく
• アメリカでは就職は読んで字のごとく、1つの職に就くこと。職種をキャリアの軸とし、1つの職種を複数の会社で経験し、専門性を磨いて昇進していく
• アメリカでは、1つの会社に長くいるよりも複数の会社を渡り歩いた方が昇進しやすい
終身雇用制の崩壊に伴い、日本のキャリア観も近い将来、確実にアメリカ型に近づいていくと思われます。
もしかしたら既にそうなりつつあるかも知れません。
いざそうなったときに慌てないよう、自分は今の会社を飛び出してもやっていけるのか、社内事情に詳しいこと以外に転職市場で売れるスキルが身についているのか、一度自分自身を見つめ直してみてはいかがでしょうか?